電車にある非常用のドアコックを普段、意識したことはあるだろうか。この使い方をめぐって6月中旬、SNSで議論が繰り広げられた。

きっかけはJR横須賀線大船駅で人身事故が発生した際に当該車両に乗っていたとする男性が、車内待機のアナウンスがあったにもかかわらず非常用のドアコックを使って車外に出たとするXの投稿だった。

投稿で、男性は「全ての車両がホームに入線していない為、ドアは開けられないとのアナウンス。非常ブザーも鳴り止まず、挙句にドアは開けられないから車内で待機しろとの融通の効かないアナウンスを繰り返すばかり」と事故発生時の車内状況を語った。

しかし、男性が乗車していた車両は駅ホーム部分に入線していたため、「遠慮なく非常ドアコックを引き車内脱出」したという。「振り返ると我も我もと皆、脱出」と周りの乗客も後から続いていたとし、「何も当てにしちゃダメ。自己防衛」「通勤通学時間帯の非常事態は特に、フレキシブルな対応をしてもらいたいよね。JRには」と独自の見解を示した。

もっとも、この投稿に対しては、「これはあかん」「ドアコックは駅員の指示がないと開けちゃだめ」「自己防衛ではなく、自己中心的」などの批判が殺到していた。「ドアが開いていると車両が動かせないから、ホームに着いていない車両の人たちは降りられなくなる。結果、事故処理全体の解決に余計に時間がかかる」と指摘する声もあった。

●JR「ドアコックで外に出ないように注意喚起していた」

当時の状況はどうなっていたのか。

横須賀線を管轄するJR東日本横浜支社の広報担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「弊社社員がお客さまの降車誘導を開始する前に、一部ドアにおいて非常用ドアコックが扱われ、ホーム側のドアが開扉していた事実があった」と回答し、男性が投稿していたような事態が発生していたことを認めた。

事故当時、列車の一部がホームから外れている状態だったため、「車内アナウンスで、降車までに時間を要することと非常用ドアコックで外に出ないように注意喚起していた」とし、乗客がドアコックを使うような指示は出ていなかったようだ。

「ドアコックの扱い者についてはわかりかねる」ものの、現地確認を行った時点ですでに非常用ドアコックでドアを開けられていた状態だったという。

非常用ドアコックの取り扱いについては、「社内のルールに則り対応しており、基本的には周囲を走行する列車を停止させるなどのしかるべき措置を講じてから、乗務員等が非常用ドアコックを扱うこととしている」とする一方、「お客さまの生命に係わるような状況が発生した際には、乗務員の判断と指示のもと、お客さまに非常用ドアコックを扱っていただくこともございます」と状況次第で判断しているとした。

国土交通省の「鉄道の安全利用に関する手引き」には、いたずらなど非常の場合以外に非常用ドアコックを使用すれば、「周りの多くの人にも迷惑をかけるなどのおそれがある」とし、「いたずらなどで使用すると法律で罰せられる場合がある」と記されている。

2020年1月には、「前に電車が遅れたので腹いせにやった」などという理由で、JR根岸線の非常用ドアコックを操作して電車を急停止させた男性が威力業務妨害の疑いで逮捕。2022年11月には、鉄道の運転士が「仕事に遅刻しそう」として、他社路線で非常用ドアコックを操作しドアを開けたとして威力業務妨害の疑いで逮捕されている。

また、列車の運転中に車両の側面にある車扉を開けたときは、鉄道営業法33条違反になり得る。

今回のケースが犯罪に当たるか否かにかかわらず、非常用ドアコックを使うべきでない場面で使うことは、事故後の対応を遅らせたり、さらなる事故の誘発につながりかねない身勝手な行為だ。非常事態で鉄道会社や乗客に必要なのは、フレキシブルな対応ではなく、確実な安全の確保だろう。