レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、水平対向エンジンを搭載したホンダのスクーター「ジュノオ」に驚いたと言います。どういうことなのでしょうか?

先進技術を詰め込んだ、ホンダ2作目のスクーター

 僕(筆者:木下隆之)は1961年にデビューしたホンダのスクーター、2代目「JUNO(ジュノオ)」のエンジンを見て驚かされました。当時日本のバイク市場では、空前のスクーターブームが起きていたようです。富士重工(現スバル)が開発した「ラビット」が大ヒットし、それを追う形でホンダが開発した「ジュノオ」ですが、排気量189ccの空冷単気筒エンジンを搭載した初代は販売的に失敗。市場の評価を参考に改良を加えて投入した2代目には、排気量169ccの縦置き水平対向2気筒エンジンが積まれていたのです。

ホンダ「JUNO M85」の水平対向エンジン ※写真は1963年モデル
ホンダ「JUNO M85」の水平対向エンジン ※写真は1963年モデル

 バイクで水平対向エンジンと言えば、BMWモトラッドです。クルマで言えばポルシェかスバル。ホンダと水平対向はイメージが湧きませんが、先進技術に興味アリアリの本田宗一郎率いる技術集団のことですから、エンジニア魂を刺激したのでしょう。

 ただし、車重が重く、したがって加速も悪く、しかも高価だったために商業的には失敗だったと聞いています。

 それにしても、多くのメーカーが水平対向に興味を持つようです。確かに水平対向エンジンは、縦置きに搭載することで左右対称、シンメトリーが得られます。ピストンが地面スレスレに地を這うように動きますから、構造上重心を低くすることも可能です。そう聞けば、メリットアリアリのような気がします。

 実際には補機類の搭載位置から低重心化は簡単ではなく、クルマの場合は、エンジンを低く広く搭載することで、エンジンルーム内の風の流れを遮ってしまいます。その関係で冷却的に困難です。

 同様に風の流れの影響で、ターボチャージャー用のインタークーラーの配置に苦労します。スバルの水平対向はターボチャージャーと組み合わせることでパワーを引き出していますが、インタークーラーは一般的なラジエターグリルの前ではなく、エンジンの上に平置きされているのは、水平対向ユニットが風の流れを悪くしているからです。

 平置きよりも正面で風を受けた方が冷却には適しているというのに、それでも平置きにせざるをえません。そんな課題を抱えてもいるので、商業的に成功させたのはポルシェとスバルだけになリました。

 バイクの場合、冷却の問題は無さそうです。ターボチャージャーの必要性も、インタークーラーの配置に頭を悩ませる心配も無さそうです。しかし、商業的に成功させたのはBMWモトラッドだけのようです。

 水平対向はコスト的に高価になりがちですから、一部のメーカーでしか成功させられなかったのかもしれません。