NHK大河ドラマ『どうする家康』で板垣李光人(いたがきりひと)さんが演じる井伊直政(いいなおまさ)は、「徳川四天王」の1人として知られる名将です。そんな井伊氏ゆかりの神社が浜松市にあると聞き、スーパーカブで訪れました。

家康を支えた名将、武田から受け継いだ朱色の軍装

 NHK大河ドラマ『どうする家康』で板垣李光人(いたがきりひと)さんが演じる井伊直政(いいなおまさ)は、「徳川四天王」の1人として知られる名将です。そんな井伊氏ゆかりの神社が浜松市にあると聞き、スーパーカブを走らせました。

民家に囲まれた「浜松秋葉神社」は、由緒ある神社だが地域に溶け込んでいるようにも見える。松の木や朱色の鳥居が全体的に明るい印象
民家に囲まれた「浜松秋葉神社」は、由緒ある神社だが地域に溶け込んでいるようにも見える。松の木や朱色の鳥居が全体的に明るい印象

「徳川四天王」とは、徳川家康の側近として家康を支え、大きな功績を立てた酒井忠次(さかいただつぐ)、本多忠勝(ほんだただかつ)、榊原康政(さかきばらやすまさ)、そして井伊直政を指します。大河ドラマの中で異彩を放つキャラクターとして演じられてきましたが、近年では2017年『おんな城主 直虎』の中で、寺田心さんや菅田将暉さんが熱演されたことが印象的でした。

 ちなみに『おんな城主 直虎』の主人公、柴咲コウさんが演じた井伊直虎は、「桶狭間(おけはざま)の戦い」で戦死した井伊家当主、井伊直盛(いいなおもり)の娘です。直政の父、直親(なおちか)は今川氏真(いまがわうじざね)に謀反の嫌疑をかけられて殺されましたが、当時の直政(幼名:虎松)はまだ2歳だったため、女性でありながら直盛の娘が城主となったのでした。

「山家三方衆(やまがさんぽうしゅう)」の屋敷跡でもあるこの土地は、三河の山間部、長篠の菅沼氏、田峯(だみね)の菅沼氏、作手(つくで)の奥平氏という有力勢力を指すが、家康からの離反後、奥平氏だけ家康に再属したことで江戸時代まで大名として存続したようだ
「山家三方衆(やまがさんぽうしゅう)」の屋敷跡でもあるこの土地は、三河の山間部、長篠の菅沼氏、田峯(だみね)の菅沼氏、作手(つくで)の奥平氏という有力勢力を指すが、家康からの離反後、奥平氏だけ家康に再属したことで江戸時代まで大名として存続したようだ

 一時期は松下氏の養子とされていた直政は、1575年には家康に見出されて井伊氏として名を改め、その後「高天神城(たかてんじんじょう)の戦い」などで活躍し、1582年22歳で元服。井伊直政がここに誕生します。その後「本能寺の変」以降の家康の「伊賀越え」など、数々のピンチをくぐり抜けて家康を支えていく様子が、ドラマでどう描かれるのか注目したいところです。

 井伊直政と言えば「井伊の赤備え(あかぞなえ)」と呼ばれるように、亡き武田軍、山県昌景(やまがたまさかげ)の兵法を受け継ぎ、その象徴的カラーである朱色の軍装で有名です。赤備えに鬼の角をあしらうその姿は「井伊の赤鬼」とも呼ばれ、恐れられたとも言います。

鮮やかな朱色は「井伊の赤備え」をイメージさせる鮮烈なもの。鬼門に位置しながらも明るさと力強さを感じさせる神社だった
鮮やかな朱色は「井伊の赤備え」をイメージさせる鮮烈なもの。鬼門に位置しながらも明るさと力強さを感じさせる神社だった

 今回訪れた「浜松秋葉神社」は、「犀ヶ崖(さいががけ)資料館」の説明スタッフに「浜松城の裏鬼門(西南)に当たり、重要な土地に建てられた神社なんですよ」と教えていただき、足を伸ばしてバイクで訪れることにしました。

 静岡県浜松市中区三組町の住宅街にある「浜松秋葉神社」は、1570年、家康の「浜松城」入城の際に、城を守る裏鬼門に当たる土地に建立されました。ここは家康の長女、亀姫(かめひめ)の夫で家臣の奥平信昌(おくだいらのぶまさ)の屋敷でもあったそうです。解説板によれば、徳川家、武田家、井伊家にゆかりが深いところだとか。

裏鬼門のイメージとは逆に、鮮やかな朱色の神社や鳥居は明るく、むしろ縁起の良い地に思える
裏鬼門のイメージとは逆に、鮮やかな朱色の神社や鳥居は明るく、むしろ縁起の良い地に思える

 武田家を打ち破った後、織田信長ならばすべての血を絶やすべく全滅させていたのかもしれませんが、家康は違いました。かつて「三河一向一揆(みかわいっこういっき)」でも敵軍に属した家臣を許したように、武田の800名以上の家臣団を迎え入れたのです。その際の起請文(きしょうもん)を、この神社に奉納させたと言われています。

 これにより武田の「赤備え」を井伊直政が引き継ぐことになり、1584年の「小牧長久手(こまきながくて)の戦い」で戦場デビューを果たしました。この起請文は戦災で失われたものの、家康没後400年という節目の2015年に、国立公文書館に残されていた写しをもとに再び奉納されたそうです。

 裏鬼門と言えば不吉な方角ではありますが、この「浜松秋葉神社」は全体的に明るいイメージです。平日でも次々と人が参拝に訪れ、むしろ縁起の良い地、という印象を受けました。