映像業界の“黒船”の勢いが止まらない。2015年頃から定額制動画配信サービスが続々と日本に上陸。Netflix、Amazon primeといったインターネット上での番組配信サービスは年々勢いを増し、その影響はテレビ業界や各マスコミ業界にも訪れている。

 マスコミ業界では新聞や出版業界の不調から、業界内外への転職が相次いでいる。その影響は、マスコミ業界の王様ともいえるテレビにまで波及しているのだ。テレビ局社員ともなると、業界のなかでも特に高給取りとして知られる。だが、そんなテレビ局ですら人材流出が進んでいるのだ。

「昨今のテレビでは、規制、規制で思うような番組づくりができなくなった。給与面よりも、本当に満足できる番組づくりに再び挑戦してみたくなったんです」

 こう話すのは、あるキー局の元プロデューサーは、出世競争が厳しいテレビ業界において、某有名番組のプロデューサーにまで昇進した。だが、もはや思い残すことはないという思いで新天地へ向かったというから驚きだ。

「なぜなら制作費もギャラも、10倍近く違いますから。何より自分が本当にやりたかった番組づくりができることが大きいです。テレビマンとして、それ以上に魅力的なことはないです」(元プロデューサー)

「制作費をかけずに視聴率を取れ。これが上からの注文です。そうなるとクイズ番組や街ブラといった企画に頼らざるを得ません。各局で多少の差こそあれ、若者のテレビ離れに関しては、もはや効果的な対策はなく、半ばあきらめモード。自然と、家族向けや高齢者向けの番組が多くなります。しかし、そういった番組づくりに対して“飽き”が来ているのは視聴者だけでなく、現場でも同じです」(キー局ディレクター)

 当初はネットの動画配信サービスに対しては、業界内でも懐疑的な声も少なくなかった。だが、転職後に成功を収めた人が増えたことで状況は変わっていったという。

「フジテレビのエースプロデューサー(※共同テレビに出向)だった小松純也氏が、退社してアマゾンプライムの『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』の総合演出に就任したのは、業界内で大きな話題になりました。同番組の制作費用は桁違いで、内容も評判が良かった。松本人志というテレビ界のトップが、いち早くアマゾンでの番組制作に乗り出したのも大きかったです。局内には、『給料が下がったとしても、あんな番組をつくりたい』と、小松さんを羨む声が多くありました」(フジテレビ社員)

ネット配信会社がテレビ局の人材を引き抜く理由

 これらのテレビ離れの傾向は、バラエティやドラマだけにとどまらない。ドラマやオリジナル番組を制作するNetflixやAmazon primeのように、スポーツ配信を行うDAZNでも同様のことがいえる。

「スポーツ界でもDAZNは強烈な存在感を放っています。プロ野球やサッカー主要リーグの配信だけではなく、マイナースポーツまで抑えているんですよ。あと、ボクシングでも村田諒太や井上尚弥の世界戦の独占配信を行うなど、WOWOWが独占していた放映権に割って入る勢いを見せています。実際に、テレビに限らず出版業界や新聞業界の人材もDAZNに引き抜かれています。もともとDAZNは、巨額の広告出稿をしてくれる“お客さん”でしたが、今では力関係が変わり立場が逆転しつつあります。関係者が口を揃えるのは、テレビやCS放送、新聞記者よりも制作上での待遇が良いということでしょうか」(スポーツ紙記者)

 では、なぜ海外の主要な動画配信サービス会社は、テレビ局の人材を欲するのか。また、なぜテレビ局や業界内で転職者が相次いているのか。キー局編成担当者が言う。

「数年前からNetflix、Amazon primeといった外資系のネット配信会社から、各局にコンテンツ料として莫大な料金が支払われていたのです。配信サービスを行う会社は、番組制作のノウハウを先行投資で買ったかたちです。その巨額の外資マネーで各局はだいぶ潤いました。業界人の間では、その額の大きさに驚き『これからはネット配信の時代だな』という声が漏れていました。彼らは、その国々でのテレビの状態を把握して、そこからマーケティングしています。その一貫として、リクルーティングも含まれているのでしょう。いかにも外資企業といった考え方で、理に適っています。動画配信サービスの存在は驚異ですが、逆にこれまで殿様商売だったテレビ局に強い危機感を持たせる結果にもなっています」

 現在は、バラエティやアニメーションなどの分野での流出が多いというが、今後は意外な分野がターゲットになる可能性もあるという。

「それはドキュメンタリーです。これまで日本のドキュメンタリーといえば、制作費も製作期間も人材の数も含め、NHKには立ち打ちできないレベルで民放各局は差をつけられていました。ところが、今後こういった動画配信サービス会社が本格的にドキュメンタリー制作に注力した場合、その質はNHKと遜色ないレベルになる可能性はあるでしょう。少なくとも制作費の面では比肩します。お笑いやドラマ、アニメだけではなく、あらゆる分野の人材が引き抜かれる可能性は否定できません」

 インターネットの発展もあり、新聞や雑誌など多くのマスコミ人がネット業界への転身を果たした。同様の事態がテレビ業界にも間近に迫っているのかもしれない。
(文=編集部)