社内通貨「Will」導入のディスコ、社員に自発的な働き方を提案

社内通貨「Will」導入のディスコ、社員に自発的な働き方を提案

(ブルームバーグ): プロ野球「広島カープ」の本拠地、マツダスタジアム(広島市南区)のスコアボードに今シーズンから輝く「DISCO」の文字。広告費用は半導体製造装置メーカー、ディスコに勤めるカープファン約370人が捻出した。

  正確には社員が社内通貨「Will(ウィル)」を出し合った。語源は英語の「意志」だ。会社が発行・管理し、収益貢献につながる仕事に積極的に取り組めば付与されるが、非効率な行為は「減額」の対象となる。パソコンやスマートフォンで増減を確認でき、残高は一つの評価指標として賞与に日本円で反映される。

  同社は広島に2工場を持つ。カープファンの広島総務部の坂本直樹氏がマツダスタジアムでの広告出稿を社員に呼び掛けた。ホームゲームで広告を見るたびに「ディスコに属しているという誇りを持てる」と話す。

  ディスコは半導体材料であるシリコンウエハー切断装置の世界トップ企業。ウィルは社員の働きへの対価を「見える化」し、やる気やコスト意識の向上を促す狙いで経営陣が発案した。収益性を改善し半導体市況に左右されやすい企業体質を補う狙いもある。2003年に部門別に導入、11年からは個人向けにも広げた。

  半導体関連企業の営業利益率はメーカーによる設備投資などの影響を受けるが、ディスコでは上昇傾向にあり、同業他社より高い水準を維持している。前期(2019年3月)の営業利益率は26.2%だった。一方、社員の平均残業時間は16年3月期以降の4年間で9%短くなったという。

  Will経営推進室の内藤敏雄室長は、関家一馬社長から「ドラクエとかファイナルファンタジーみたいに全社員が楽しめ会社が強くなる『ゲーム』を作ってほしい」とウィル定着策を任された。個人の特性を生かす仕事選びや、時短勤務制度の利用者による活用が広がるなど効果が実証され、全社への拡大を決めたと話す。

  ウィルが与えられる仕事は入札形式で発注される。獲得したウィルは、事務用品の購入や球場広告を含む社員提案の「社内投資」にも利用できる。ウィル残高が反映された賞与は前期に総額の2割を超えた。1回で数百万円受け取る社員もおり、社内では「ウィルドリーム」と呼ばれる。

  コストダウンや業務の無駄排除につながる働き方の提案者にはウィルが多く与えられる。IR部門では取材予約システムを自社開発して導入した社員が対象となった。備品を返却しない社員から実質的に没収したり、共有物利用に「ウィル課金」したりして経費に対する意識の向上も促す。

  職場環境に関する調査を手掛ける「働きがいのある会社研究所」(東京都品川区)の2019年版ランキングで、ディスコは外資系企業と並び3位にランクイン。厚生労働省の「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」では第1回最優秀賞(17年)を獲得した。   早稲田大学の清水孝教授(管理会計)は、個人のインセンティブが会社に貢献する仕組みで「ゲーム感覚で数字を上げる」点が特徴的だと指摘。マネックス証券の大槻奈那チーフアナリストは「モチベーションを高める上でいい取り組みで、ボーナスの一部に反映させることにより実利的で良いバランスだ」と評価する。

  ウィルの運用には課題もある。 Will経営推進室の内藤室長によれば「この考え方に合わなくて退職した」社員がいるほか、米国など海外拠点へのウィル浸透はこれからだとしている。

  内藤氏によると、興味を持った企業や大学からの視察は絶えない。ただ、実際に導入した例は聞いていないと言う。同氏はウィルのような社内通貨の導入効果を発揮するには「仕事を命令しない。選ばせることのセット」が前提で、そうでなければ「ただのスコアリングシステムになってしまう」と語った。

©2019 Bloomberg L.P.


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