(ブルームバーグ): 東京五輪に参加する選手のソーシャルメディア利用に伴う危険性と利点が、アスリートのメンタルヘルスに注目が集まる中で浮き彫りになっている。写真共有アプリ「インスタグラム」や動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」 などの利用で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がもたらす孤独な環境でもファンとのつながりを保てる一方、中傷に傷つく状況にも置かれる。

  女子アーチェリーで金メダル3個獲得の韓国の安山(アン・サン)選手は、髪が短いのは「フェミニスト」だとして女性に偏見を持つ人々からオンライン攻撃の的にされた。卓球混合ダブルスで金メダルの水谷隼選手はツイッターへの投稿(現在は削除)で、中国に勝利した後に匿名の脅迫をオンライン上で受けたと明かした。

  体操女子個人総合で優勝した米国のスニーサ・リー選手も「言う必要のないことを言う意地悪な人がたくさんいる」と指摘した。

  選手のメンタルヘルスとソーシャルメディアが及ぼす影響への関心の高まりを背景に、国際オリンピック委員会(IOC)選手委員会のコベントリー委員長は自身がここ1年ほど、ソーシャルメディアの利用を絶っていると認めた。かつてジンバブエの競泳選手だった同委員長は7月29日に記者団に対し、「ここ数日、ソーシャルメディアを離れた何人かの選手の話を聞いた。応援してくれる良い内容がある一方で、ほんの一部ではあってもネガティブなコメントがあると、選手を本当に傷つけかねない」と述べた。

  オレゴン州立大学のスポーツ心理学者、フェルナンド・フリアス氏は、多くの選手がソーシャルメディアを使うのは、意見を伝えて共有し、影響力を広げてつながりを育み自己ブランドを確立するなどして、力を得たように感じるためだと指摘。ただ、国家の威信が関わる五輪という存在の前では、選手にオンライン上でネガティブなコメントを向ける人が多くなりがちだと付け加えた。

  日本の選手が直面する状況は、パンデミック下での五輪開催決定を巡る社会の二極化で一段と複雑になっている。その結果、今回は中止した方がいいと思っている人が選手に直接攻撃をしてしまうということも起きていると、奈良女子大学で五輪を研究する石坂友司准教授(スポーツ社会学)は述べた。

  女子体操の村上茉愛選手はネット上で中傷を受けたと認めている。7月29日の競技後、記者団に涙を見せながら、「オリンピックに反対している人もいるのはもちろん知ってるし、応援してくれている人がいるのも分かる」とした上で、オンライン上では見たくなくても情報が勝手に入ってきたと発言。ネガティブなコメントをぶつけられたことが「すごく残念だなというか、悲しかった」と話した。

  もちろんソーシャルメディア活用は選手にとって、渡航制限があるパンデミック下で家族やファンとつながったり、比較的知られていないスポーツに注目を集めたりする重要な手段でもある。

  フェイスブックによれば、女子スケートボードのブラジルのライッサ・レアウ選手は銀メダル獲得後の2日間でインスタグラムのフォロワーが450万人増えた。7人制ラグビー女子の米イロ−ナ・マー選手は選手村から動画投稿を始めてからティックトックのフォロワーが3倍に増えたとし、自分を知ってもらうほか、7人制ラグビーも有名になってくれればと語った。

  また、一部選手にとって、ソーシャルメディアを断つのは選択肢に入らないかもしれない。例えば、フィリピン史上初の五輪金メダルに輝いた重量挙げ女子のヒディリン・ディアス選手は2019年にインスタグラムに支援を仰ぐ投稿をし、日本への渡航資金を確保した。

  ソーシャルメディアが及ぼす悪影響への対応措置として、選手は同行する心理カウンセラーに助言を求めることが可能だ。ネット関連企業も選手がオンライン上で被る嫌な体験を最低限に抑えていく役割を認識している。さらには、子供の教育やスポーツのトレーニングにソーシャルメディアリテラシーを組み込んではどうかとさえ、オレゴン州立大のフリアス氏は提案している。

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