(ブルームバーグ): 英国は再び、新型コロナウイルスの感染率が世界で最も高い地域の一つになってしまった。1日当たりの新規感染者数は3カ月ぶりの多さで、18日までの1週間では前週比16%増加した。政府は厳しい冬になると警告を発した。

  ワクチンが普及した現在でも、リスクは小さくない。

  幸いなことに新型コロナによる死者数は今は少ないが、感染者の一部は入院を余儀なくされる。苦しみ、病床を埋めるだけでなく、すでに膨大な症例数を抱えて疲弊する医療サービスを一層逼迫(ひっぱく)させるのだ。後遺症に数週間、数カ月と悩まされる患者もいる。高水準の感染率は、ワクチンに抵抗力を持つ新たな変異株を生むリスクをも高める。

  英国が他国に比べて感染率が高いのは、学校や病院を中心に検査が活発に行われていることも要因となっている可能性がある。だが、それだけでは説明しきれない。入院者や死者の率も、英国は比較可能な欧州他国に比べて数倍高い。

  その答えの一部は明白に思われる。英国は7月、感染拡大防止策を廃止して経済を再開し、ジョンソン首相も市民に自由な活動を呼び掛けた。その反応は顕著で、最近朝の出勤時間帯にロンドンの地下鉄に乗ったところ満員で、そのほとんどがマスクを着用していなかった。映画館でも同じだった。ドイツのベルリンでは医療用高機能マスク「N95」クラスの着用が普通だが、ロンドンではほとんど見掛けない。

  ただ、英国の感染者数はロックダウン(都市封鎖)解除における政府のアプローチが全て原因だというのは単純化し過ぎだろう。例えば、北欧諸国のように緩い政策をとった国は他にあるが、こうした国で感染者数の急増は起きなかった。スコットランドは学校を含む屋内の多くの場でマスク着用義務を維持したが、9月の感染率はイングランドよりも高かった。マスクが役に立たないということではないが、十分ではないのだと示唆される。スコットランドではイングランドと同様に、密集した場所で大勢が交じり合うことが多くあった。

  ロンドン大学遺伝学研究所のフランソワ・バルー教授は、高齢者を中心にワクチンを初期に接種した人の免疫がいまや弱まりつつあると語った(英国はまた、デルタ変異株への効果が比較的弱いアストラゼネカのワクチンに大きく頼っている)。さらに別の要因には、人口密度や平均世帯人数などがあり、これによって英国の方がデンマークのような国よりも感染が広がりやすかったとも考えられる。英国は高いワクチン接種率を誇るが、貧困層が多く住む地域の接種率は低く、死亡率を押し上げている可能性もある。

  ほとんど議論されないが、疾病手当の利用しにくさも要因だ。わずかでしかない英国と、手当が寛大な欧州大陸とでは大きな差があり、このため多くの英国人は感染しても働き続けることを余儀なくされ、ウイルスを他の人にまき散らしている。

  最後に、デルタプラスとして知られるデルタ変異株の亜種もある。デルタプラスは7月ごろ出現し、英国でゲノム解析された感染件数の約8%を現時点で占める。今のところ米国ではあまり見られないが、デルタ株よりもさらに10%ほど感染力が強いと考えられ、トランプ前米政権で食品医薬品局(FDA)長官を務めたスコット・ゴットリーブ氏は「至急調査」する必要があるとツイートした。

  これら全てが英国の感染者数増加につながった。ジョンソン首相は、市民の間に新たな制限措置導入への支持はほとんどないとの判断だが、その姿勢は早晩変わることになるかもしれない。

  (テレス・ラファエル氏はブルームバーグ・オピニオンで論説を担当しています。以前はウォールストリート・ジャーナル・ヨーロッパの社説エディターをしていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

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