(ブルームバーグ): みずほ銀行で2月以降相次いだシステム障害は、坂井辰史・みずほフィナンシャルグループ(FG)社長の引責辞任に発展した。26日に業務改善命令を出した金融庁が最終的に問うたのは、システム障害の背景にあるガバナンスの脆弱(ぜいじゃく)性だ。

  金融庁は業務改善命令で、取締役会が坂井社長ら執行部門に対して適切な指示を与える態勢になっていなかったと指摘した。みずほの取締役会構成は、計13人のうち社外取締役が6人を占めている。今回の処分は事実上、社外取締役の責任も問う過去に例のない内容となった。

見過ごされた副作用

  みずほは2013年に明らかになった反社会的勢力への融資問題を契機に、大手行の中で最も早く「指名委員会等設置会社」に移行した。坂井社長の選任も社外取締役だけで構成する指名委員会が主導した。当時のみずほの最大の課題は、他のメガバンクと比較して大きく劣っていたコスト構造。複数のみずほ関係者によると、坂井氏が最もコスト削減に力を発揮すると判断されたことが選出の決め手だった。  

  18年の就任以来、坂井社長は構造改革にまい進。19年度からの5カ年計画で、人員や国内拠点の削減を進めた結果、17年9月中間期に76.4%だった経費率は、21年9月中間期は60.2%まで低下し、ライバルの三井住友フィナンシャルグループさえ下回った。一方で、副作用も生じた。システム関連の人員削減を進めた結果、発生した勘定系システム「MINORI」を巡る一連のシステム障害だ。

  第三者委員会が6月に公表した報告書によると、「MINORI」の開発や運用に関わった従業員はシステム稼働前の約1100人から今年3月までに約500人に減少。金融庁は、構造改革を推進した結果、コストの最適化が強調されたと指摘した。社外取締役が多数で構成するリスク委員会や監査委員会が機能してなかった点も、問題点として挙げた。

  複数のみずほ幹部によると、社外取締役はシステム障害発生後もコスト構造改革に取り組む坂井社長の手腕を高く評価し、続投させる方向で一致していた。社長辞任の方針を固めた後も会長として残し、経営に関与させる可能性を探ったという。

顧客基盤にも影響

  相次ぐシステム障害は、顧客基盤にも影響を与えている。坂井社長は12日の決算会見で「個人の口座解約が多少増加している現実がある」と語った。だが、個人だけでなく、法人顧客への影響も出かねない情勢だ。東日本の営業担当幹部は、複数の取引先企業から給与振り込みを他の銀行でもできるようにしておきたいとの相談を受けたと明かし、みずほに対する信頼性が落ちていると危惧する。

  低利で貸し出している取引先に対しては、他の手数料ビジネスで補てんし、取引全体として収益を上げる「総合採算」の考えを取る。企業が取引先への支払いに利用する総合振り込みサービスや給与振り込み、為替サービスなどの手数料は、いずれも取引のインフラとなるシステムの信頼性が基盤となる。この幹部は、顧客にサービスを使ってくれとは言えない状況、と打ち明けた。

経営判断に遅れ

  今年に入ってライバル銀行が相次いで大きな経営判断を下す一方、みずほの出遅れも目立つ。三菱UFJフィナンシャル・グループは米国の銀行子会社を約8800億円で米地銀に売却することを決め、三井住友FGもインドのノンバンクを2200億円で買収することを決定した。三菱UFJは売却資金をデジタル投資に充てる方針を打ち出し、三井住友は新たな市場開拓に向けた一手を打つ。

  坂井社長は、銀行や証券、信託などのエンティティ(会社)とは別に、顧客別のカンパニー制を強化し、同時に持ち株会社の権限も強めた。みずほ幹部の1人は、坂井社長の指揮下にある持ち株会社経営陣は、システム障害と金融庁対応に翻弄(ほんろう)され、10億円程度の投資さえ決められない状況だと明かす。5カ年の中期経営計画で掲げた「次世代金融への転換」の布石は打てていない。

  ブルームバーグ・インテリジェンスの田村晋一アナリストは「直接的な業績への影響は限定的とみられるが、新商品・サービス開発に出遅れるリスクは当分続く」との見方を示している。指名委員会は坂井社長の後任選びに着手したが、新体制のスタートは来年4月からとなる。

  

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