【谷原店長のオススメ】世界中のSF作品に芽吹く種 『ブレードランナー証言録』

【谷原店長のオススメ】世界中のSF作品に芽吹く種 『ブレードランナー証言録』

 俳優の谷原章介さんが、店長として、月替わりでイチオシの本を紹介する連載「谷原書店」。今月は、ハンプトン・ファンチャー他『ブレードランナー証言録』をご紹介。 2つの映画本編、そして本作を通してあなたは何を感じるでしょうか…

 圧倒的な映像で独自の未来世界を描き出し、SFの概念を塗り替えたといわれる映画「ブレードランナー」。1982年公開のこの作品の舞台は「2019年」。つまり今年です。今回ご紹介する『ブレードランナー証言録』は、この映画と深い関わりを持つ脚本家、アニメ監督、批評家らが登場するインタビュー集。実はこの本、映画評論家のLiLiCoさんにいただきました。「ブレードランナー」と、続編「ブレードランナー2049」(2017年公開)が描いてきた世界に関する、読みどころ満載の貴重なエピソードが散りばめられています。

 「ブレードランナー」を知らないかたに、ごく簡単にあらすじを紹介しましょう。環境破壊により地球から惑星へ移住するようになった時代、人間に代わる人造人間「レプリカント」が、宇宙開拓の最前線で過酷な奴隷労働や戦闘に従事していました。ところが人間に反旗を翻そうと地球に侵入してくる者がでてきます。そんな彼らを追いかけるのは、捜査官「ブレードランナー」。そのうちの一人、主人公・デッカードを演じるのは、名優ハリソン・フォードです。デッカードは、あるレプリカントと出会い、心を通わせていくと――。中学生の頃、レンタルビデオで借りて見た僕は、その精緻な映像美と世界観に強い衝撃を受けました。いまも鮮烈に思い出します。

 じつは、続編「2049」の公開に先駆け、2017年に短編映画が3作品、製作されています。そのうちの1つを手掛けたのは、日本人アニメ監督・渡辺信一郎さん。渡辺さんはインタビューに登場し、「アニメ界にも強いインパクトを与えて、(中略)だんだん逃れられない呪縛のようになった」と語っています。たしかに、この作品以降に発表された世界中のSF作品には、「ブレードランナー」に端を発する「種」をそこかしこに感じるんですよね。渡辺監督の意見に同意します。

 レプリカントのリーダー役ロイ・バッティを演じたのは、オランダ人俳優のルトガー・ハウアー。僕は彼の役柄がとても好きです。この作品における彼の最後の場面は必見。ロイはレプリカントが人間にやられてきた仕打ちへの思いをデッカードに遺します。そんなロイが作品の中で亡くなったのは2019年。そしてルトガー・ハウアーさんが亡くなったのも2019年。これはこの本を紹介しなくてはと思いました。

 「主人公デッカードは、じつはレプリカントなのでは」。そんな仮説がファンの間でずっと囁かれ続けています。僕は「どちらでも良いかな」と思っているのですが、続編「2049」では、さらに「レプリカント説」側に寄ったかな。「我々は、どこから来て、どこへ向かうのか」。人間のそんな根源的な疑問が、作品の根底に流れているように感じます。特に続編においては、レプリカントに子どもができ、子孫を繁栄させられるように「進化」しました。人間がテクノロジーを駆使して生んだレプリカントが、人間を飲みこんでいくのです。まるで古代、猿人が原人に、原人が旧人に、旧人が新人に飲み込まれていったように……。「こいつらは生き物じゃない、奴隷だ」とレプリカントを否定すればするほど、「レプリカントの人間性」が、より際立っていくのです。そんな「レプリカントの人間性」については、脚本を担当したマイケル・グリーン氏がインタビューのなかで細かく言及しています。

 知性とは何なのか。感情とは…「人工知能・AIが我々の仕事を奪うのではないか」。そんな懸念を伝える記事を多く見かけますよね。現状では、囲碁やオセロ、将棋のように、一つのルールに則って思考する場面においては、人間は既にAIに叶わなくなってしまったのかも知れません。ですが、最近よく見かけるAIを使って瞬時に字幕に変換する機能などでは、聞き間違いによるバカバカしい誤訳が出るレベルです。たとえば「謹慎」を「妊娠」なんて訳してしまうような。ただ、そんなエラーを繰り返し、それが間違いであると学習し、修正していくうちに、精度はみるみる上がっていくはず。それに加え、「格式高い文体をつくる」とか、「詩的な文体をつくる」とか、オプションが加わったら…だとしてもそれもあくまで型。あるひとつのルールに落とし込まれて行くことに代わりはない…個性が作られてるようで実は均質化している。

 「シンギュラリティ」はもう目の前まで来てると思います。機械をコントロール「してきた」つもりの人間が、いつの間にか「される」側になってしまう。そんな世界において僕たちが生き残るために必要なのは、「人間であること」の特性をどう活かしていくのか。これに尽きると思います。膨大な「下処理」の作業を彼らに代行してもらうにしても、「最後の味つけ」だけは、僕ら人間が担える世界でありたい、あり続けなければと思います。

 SF好きの僕が最初に手に取ったのは、英国のSF作家アーサー・C・クラークによる長編小説「地球幼年期の終わり」でした。以来、平井和正さんの「幻魔大戦シリーズ」、大友克洋さんの「AKIRA」など様々なSF作品にハマりました。僕らの世代が熱心に見たアニメ「機動戦士ガンダム」にしても、「超時空要塞マクロス」にしても、ロボットが登場する未来世界のストーリーのなかにも、どこか人間的な業の深さを感じるんですよね。そこが良い。SFはただ単に、異次元のどこかの世界で繰り広げられるおとぎ話なんかじゃない。ぜひ、士郎正宗さんの「アップルシード」や「攻殻機動隊」も手に取ってみてください。「風の谷のナウシカ」もお薦めです。

 最後にルトガー・ハウアーさんのご冥福をお祈りします…ロイはいつまでも僕の中で生き続けます。(構成・加賀直樹)


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