「俺の人生にも素晴らしい瞬間はあったんだ」 社会の当たり前にハマれなかったNF Zesshoのバイブル

「俺の人生にも素晴らしい瞬間はあったんだ」 社会の当たり前にハマれなかったNF Zesshoのバイブル

お話を聞いた⼈NF Zessho(えぬえふぜっしょー)

1993年、福岡生まれのラッパー/トラックメイカー。2013年に1stアルバム「Natural Freaks」、15年に2ndアルバム「Beyond the MoonShine」、18年に3rdアルバム「CURE」をリリースした。アルバム以外にもEPやビートテープ(トラック集)などをハイペースで自主制作しており、その総作品数は本人も把握できていないとのこと。19年にビートメイカー・Arμ-2とのジョイントアルバム「AKIRA」を発表した。

宇宙を通じて人間の壮大さを描いた傑作SFコミックス

 「今回『AKIRA』ってアルバムを一緒に作ったトラックメイカーのArμ-2とはかなり古い付き合いなんですよ。2013年に作った1stアルバム『Natural Freaks』でも2曲参加してくれてるし。同い年で、自分と音楽の感性がすごく似てる。というかほぼ一緒。だから安心して制作できます。Arμ-2はトラックも作るし、歌も歌える。あと世の中に出てないけど、ラップしてる曲もあるんです。ずっと2人で『一緒にアルバムを作ろう』と話してたけど、なかなか実現できなかったので今回ようやく形にできて嬉しいです。

 でも、実は最初からジョイントアルバムを作るつもりではなくて。もともとは4枚目のソロアルバムを作っていて、そこにArμ-2のトラックでラップした曲があった。でも途中から試してみたいアイデアが出てきて、そうするとアルバムの方向性が変わってしまい、Arμ-2との曲はテーマに合わない。でもすでに3曲くらいレコーディングした後で、ボツにしてしまうのももったいないから、『じゃあこの機会に』ということでこのアルバムを作ることになりました。

 『AKIRA』の曲順や全体の構成はArμ-2がやってくれてます。基本的には一晩の物語になってます。ちなみにタイトルに関しては、俺とArμ-2の本名がアキラだから。2人で作品を作るなら俺らのシンボルになるような言葉をタイトルにしたかったので、自然と『AKIRA』になりました。実は今回の取材で絶対にタイトルのことは聞かれると思ったんですよ(笑)。でも大友克洋さんのほうじゃないし、今回の作品では俺に関しては何も影響を受けてないです。ただ大友さんのインタビューをサンプリングしてるトラックもあるから、2人の根底にそのイズムはあると思います」

 そんな彼がよく読むのが『プラネテス』というSFコミックス。著者は現在放送中のアニメ「ヴィンランド・サガ」も話題の幸村誠だ。1999年から2004年まで週刊誌「モーニング」で連載された作品で、舞台は人類が宇宙に進出した2070年代。主人公のハチマキは地球の周りにある宇宙ゴミ(スペースデブリ)の回収をしている。宇宙では、耐用年数のすぎた人工衛星やロケットの残骸、宇宙飛行士が落とした工具などが秒速8kmで飛翔している。宇宙旅行が一般化した世界では、ネジ一本が衝突しただけでも大事故になってしまう。だからデブリ回収屋が必要となる。

 「『プラネテス』にはアニメ版もあるんです。サントラも出てるんですが、知り合いがそこからサンプリングした曲を作ってて、それがめちゃくちゃカッコ良かった。その曲をきっかけにサントラを知り、アニメ版を経由して、ようやく原作マンガに辿り着きました(笑)。アニメ版も素晴らしいけど、俺はよりソリッドな原作が特に好き。原作の『プラネテス』は全4巻なんですが、前半は主人公が自分の夢である宇宙船を手にいれるために頑張る話で、後半は主人公とヒロインの愛の話なんです。

 読む時に自分が置かれてる状況でフィールする話が変わります。例えば、俺は今ラッパー/トラックメイカーとしてなんとかご飯を食えてるけど、軌道に乗ってるとは口が裂けても言えない状況で。はっきり言って超貧乏なんですよ。たまに先のことを考えるとものすごく不安になる。そういう時に『プラネテス』を読むんです。パンチラインが満載なんですが、今の話で言えば『全部オレのもんだ 孤独も 苦痛も 不安も 後悔も』『クソッタレな今日を生きていけるのは! 明日に期待するからだろ!?』みたいなセリフは結構刺さりました。

 あと主人公のハチマキが空間喪失症という病気になって”自分だけの宇宙船を買う”という大きすぎる夢に対してどうにも立ち行かなくなってしまい、内なる自分自身に『わかってるんだろ? 一介のデブリ拾い屋にすぎない今の自分には宇宙船を手に入れることなんてできっこないって。それでも吠え続けたのはいつまでも夢の途中でいたかったからさ』『地球に降りて結婚して年くってシリウスのかがやきを見上げながら「あの病がなければオレも今頃は……」そう言い逃れる権利をお前は欲したんだ』と、詰問されるシーンでは、今自分が直面してる音楽に対する現実的な問題をそのまま漫画にしたような内容で、考えさせられるというか、頑張らないとと思わされました。

 『プラネテス』は宇宙という果てしなく広大で理解不能なものをメタファーに、人種や宗教、文化、さらには個々人のエゴで争い続ける人間を相対的に描いた作品なんです。人間だって宇宙と同じくらい理解不能で広大だろって。それを言い表したのが『この世に宇宙の一部じゃないものなんてないのか オレですらつながっていてそれではじめて宇宙なのか』というハチマキのセリフ。ハチマキはもともと『一人で生きて一人で死ぬ』ということを信条としていました。しかし物語の途中で自分と向き合わなくていけない場面に遭遇し、そこで宇宙はそもそも境という概念がないものなんだと気づくんです。そして自分もその境のない宇宙の一部だと認識することで、『一人』という概念から解放されます。そして他者の存在が許容できるようになるんです。俺自身も、たまにハチマキのように意固地になるところがあるので、『プラネテス』にはかなり大きな影響を受けました。自分のマインドを整える為に定期的に読み返す人生のバイブルです」

 ちなみに『プラネテス』は、日本で最も権威があるSF賞「星雲賞」を、コミックスとアニメでそれぞれ受賞した。これは宮崎駿の「風の谷のナウシカ」以来の快挙だったことも追記しておく。

ヒップホップにルールはない。マナーはあるけど

 「あと『喧嘩商売』って格闘マンガも大好きです。『プラネテス』みたく心に響くタイプの作品じゃないけど、なんかよく読んじゃう。テーマは『最強の格闘技とは』。これだけだとよくある話だけど、『喧嘩商売』は目突きと金的もありなんですね。つまりルールはなくて、とにかく勝てばいいという世界。すごい技を出して敵を倒す、というのが格闘マンガのセオリーだけど、そういうのは一切ないです。主人公の佐藤十兵衛はびっくりするくらい卑怯で、ファイトの前にいかにして対戦相手に下剤を飲ませるか、みたいな話を延々とする回もあったり。ある意味クリエイティブですよね(笑)。そういうギャグっぽさとシリアスのバランスもいいんです。

 このマンガの『ルールはなくて、とにかく勝てばいい』という世界観はヒップホップにも通じると思う。これは俺がよくインタビューで言ってることだけど、ヒップホップにマナーはあるけど、ルールはない。基本的にはカッコ良ければ、ヤバければそれでいいと思ってる。『喧嘩商売』にもそのイズムがあるから読んでて痛快なんです。でもこれって、すべての生業に通じることなんじゃないかな? 音楽以外何にもハマれず、かつ何もできなかった俺が言うなって話かもしれないけど(笑)。

 俺は不良になったことは一回もなくて、学生時代は毎日朝までインターネットをしてるようなやつでした。当然遅刻ばっかりするので、先生からは目の敵にされてましたね。そんな俺が何を間違ったのか、体育会系の高校に進学してしまったんですよ(笑)。マ、ジ、で、地獄でした。全然合わない。あと俺自身がロマンチックなニュアンス抜きのクズなんです。努力しない、コミュニケーション苦手、協調性なし。いじめられたりはしなかったけど、とにかく学校という概念そのものにハマってなかった。

 俺は高校を中退したんですが、きっかけはやっぱり遅刻でした。でもその日は、俺がたまたま風邪をひいてしまったから病院に行ってあとで登校しただけだったんです。それなのに何故か職員室に呼び出されて、指導部の先生にバチバチにヤキ入れられました。俺、病人なのに(笑)。さすがに『これは理不尽だなー』と思って行くのを止めました。とは言え実家住まいなので、朝普通に家を出るけど、チャリで町内を一周して、親が仕事でいなくなったら帰宅して寝る、みたいな。それで、フェードアウトするように中退しました」

 『喧嘩商売』は全24巻。2013年から第二部となる『喧嘩稼業』がスタート。「週刊ヤングマガジン」にて不定期連載中。2019年11月現在で12巻まで発刊されている。

 「ヒップホップの面白いところはなんでも武器にできることなんです。貧乏、コミュ障、クズ……。もちろんそこをどうやって武器に変えていくかが一番大事なんですけど。ヒップホップを始めたのは高校1年の夏くらい。初めてもらったバイト代でマイクを買ったんです。衝撃を受けたのはPSGの『David』でした。音楽的にもそれまでの日本のヒップホップと全然違ったし、ラップしてる内容も新しかった。

 実は初めてクラブに行ったきっかけもPSGなんです。俺はクラブみたいに人が集まる場所は苦手なんだけど、福岡にPSGが来ることを知って、どうしても生で見たくて勇気を出して行きました(笑)。あと当時、ネットにDTM(デスクトップミュージック=自宅のパソコンで音楽制作すること)のやり方も出始めていたんですよ。そこでどんどん興味を持って、自分でも音楽を作るようになりました」

「四畳半神話大系」が教えてくれた人生への視点

 「最後に紹介するのは『四畳半神話大系』という作品。これもきっかけはアニメです。俺は監督の湯浅政明さんという人のファンなんですよ。『クレヨンしんちゃん』の映画版にほぼほぼ関わっている人なのですが、そういった国民的アニメも作ってる反面、裏ではジャパニーズサイケデリックアニメの巨匠みたいに言われてる面白い人で。彼がSTUDIO 4℃に在籍してた時に監督したアニメ映画『マインド・ゲーム』なんかはその裏の部分が全面的に出ています。でも俺が特に好きなのは『ねこぢる草』ってアニメなんです。原作の『ねこぢる』も大好きだけど、湯浅さんの『ねこぢる草』もクソヤバかった。ギャグなのに、臨死体験みたいな狂った映像表現もあって、また全然違う面白い作品になってました。

 友達と『ねこぢる草』の話をしてたら、この『四畳半神話大系』も教えてくれて。見てみたら、映像も素晴らしかったけど、話もすごく自分にフィットする内容だったんです。それで森見登美彦さんが書かれた原作の小説版も読みました。

 どちらもテーマは同じで、基本的には一話完結型。アニメ版は小説の世界観をベースに11話に再構成されてます。主人公は四畳半の部屋に暮らす大学3回(年)生の『私』。バラ色のキャンパスライフを送りたくて大学に入ったけど、プライドと理想が高く、おまけに社交性もない。そんな性質が邪魔して、2年間はイケてない時間をすごしたと思ってる。だから3年になった『私』はサークルに入ることで、一念発起を狙うわけです。『私』は各話でいろんなサークルに入ります。でも、最終的に『あーっ、こんなサークル入らなきゃよかった!』となる。この作品が面白いのが、物語が時系列に並んでいるのではなく、各話がパラレルワールドの関係で存在しているということ。ちょっと不思議な物語の構成なんです。

 個人的にすごく面白いと思ったのは小説の最終話と、アニメの10話&11話でした。『私』が各話のパラレルワールドを横断します。ある日『私』が部屋を出ると、それまでいた四畳半の部屋と同じような場所に行き着きます。でもちょっとだけ違うんです。どうなってるんだ、と思い、その部屋を出るとさっきとはまた少しだけ違う四畳半の部屋に着く。そんなことを繰り返していると、『私』はその部屋のちょっとした差異は自分がそれまでいろんなサークルに入って経験したことによる違いだと気づくんです。そして『私』は各話の最後でいつも後悔していたけど、パラレルワールドを横断し、自分のIfを俯瞰することで、実はそれぞれの瞬間に『バラ色のキャンパスライフ』があったことに気づくんですね。

 日常賛歌というとあまりにも陳腐だけど、俺自身も『私』と同じように、ある時期までは『俺の人生は、なんてくだらないんだ』と真剣に思っていたんですよ。でも冷静に考えてみると、俺の人生にもそれぞれの瞬間は素晴らしかった。この『四畳半神話大系』はそういう人生に対する視点を教えてくれました。

 今回のアルバムに『All Friends』という曲が入ってるんです。1曲を通した物語にはなってないけど、大切な友達との素晴らしい瞬間が歌詞になってます。そういう意味では『四畳半神話大系』の構造にも通じる。俺はもともと自意識が強いだけのクズだったけど、音楽を作ることでいろんな人と繋がれた。一緒にアルバムを作ったArμ-2だって、もしも俺が音楽をやってなかったら、一生出会わなかったと思う。それって本当に素晴らしい。でも仮に打ち込めることがなかったとしても、悲しい、辛い瞬間だけの人生なんてないはず。俺は今回紹介した本を通じて、なんとかいいマインドで生きられるようになった。だからもしも同じような感覚の人がいたら、何かの機会にぜひ読んでみてもらいたいですね。その時のBGMは、もちろん俺のアルバムで(笑)」


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