飯島敏宏、87歳。半世紀前に「ウルトラ」シリーズの脚本家・監督としてバルタン星人やケムール人を生み、1980年代にはドラマ「金曜日の妻たちへ」シリーズを制作して一世を風靡(ふうび)した。

 その飯島さんが子ども時代の戦争体験を元に、小説『ギブミー・チョコレート』を書いた(角川書店)。ハードな戦時下の物語ではあるが、そこはテレビの黄金時代を支えてきたヒットメーカーだ。明るく楽しいエンターテインメントに仕立てている。

 舞台は東京・本郷。山手の気風と下町気っ風が混在する土地柄だ。飯島さんに当たる語り手のヒロシと、行動力のあるチュウ、ガキ大将ベンちゃん、少しキザなヨセ、紅一点のハルエちゃんらが小学校に入る1939年から、終戦の45年までが描かれる。

 飯島さんは言う。「今の日本は当時の空気と似てきています。同時に戦争の記憶が風化している。私の体験を若い人に伝えたいと思っていた」

 ヒロシたちは学校で教育勅語の朗読を神妙に聞き、軍事教練で鍛えられ、優しい女の先生に胸ときめかせる。放課後には、未知の場所へと冒険に出たりもする。

 「戦時中の物語は、悲惨さが強調されがちです。でも僕たちは朝から晩まで暗い顔をしていたわけじゃない。特に1940年は紀元二千六百年の奉祝ムードで沸いていました。そんな明るさの中、いつのまにか戦争に巻き込まれていたんです」

 41年の開戦後も、明るい筆致はあまり変わらない。しかし、過酷なガダルカナル戦線から帰還した先生が時折エキセントリックな態度を見せたりするなど、少しずつおかしなことが増えていく。

 そして45年3月10日の東京大空襲。ヒロシは爆撃機B29を目の当たりにする。その衝撃を飯島さんは「ウルトラ」の監督らしくこう表現する。「超低空で、ゆっくりと翼が現れると、もう街を覆い尽くすほどの大怪鳥です」と。

 飯島さんと同じく「ウルトラ」シリーズで多くの脚本を手がけた上原正三さん(82)も実体験を軸にした小説『キジムナーkids』(2017年、現代書館)で、故郷沖縄の戦中戦後を描いている。

 初期「ウルトラ」シリーズは怪獣や宇宙人を倒すという基本構造を持つ。ところがしばしば怪獣や宇宙人と戦うことへの懐疑があふれ出てくる。敵だと思って戦っている相手は、自分にとって本当に敵なのだろうか。飯島さんたちの自伝的小説を読むと、戦争を知る世代の考え方が反映していることがよく分かる。(編集委員・石飛徳樹)=朝日新聞2019年12月11日掲載