お話を聞いた⼈原田曜平(はらだ・ようへい)

1977年東京都生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーなどを経て、現在はマーケティングアナリスト、信州大学特任教授。2003年度JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。2002年から現在にいたるまで1万人を超える若者(大学生・社会人)と活動を共にし、「マイルドヤンキー」「さとり世代」など、若者消費を象徴するキーワードを世に広めた。著書に『近頃の若者はなぜダメなのか』(光文社新書)、『さとり世代』(角川oneテーマ21)、『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)、『それ、なんで流行ってるの?』(ディスカヴァ―携書)、『平成トレンド史』(角川新書)など。

Z世代は「チル&ミー」

――まず、Z世代とはどんな世代なのでしょうか。

 明確な定義はありませんが、おおむね1990年代中盤〜2000年代序盤以降に生まれた世代を指します。現在の10代から25,6歳ごろまでですね。これはアメリカ発の概念ですが、日本でも近年注目を集める存在となりつつあります。

――日本のZ世代は、どんな特徴がありますか?

 大きく二つあります。一つは、時代背景としてこれまでの世代と比べて一人っ子が多く、少子高齢化による人手不足にともなってその人材的な希少価値が高まってきたこと。これによって不安や競争の少ない生活を送ってきたため、マイペースに居心地よく過ごす「チル」と呼ばれる価値観を好む人が増えています。

 もう一つは、彼らが幼い頃からスマートフォンに触れ、中学、高校生のうちからInstagramやTikTok、Twitterといった複数のSNSを駆使しているデジタルネイティブであること。これは世界のZ世代と共通する特徴です。自己承認欲求と発信欲求が強く、「ミー」意識が顕著です。ここから、私はZ世代の特徴は「チル&ミー」だと考えています。

人口は少なくても注目される理由

――原田さんがこうした世代の変化を感じるようになったのはいつ頃からでしょうか。

 ここ1、2年です。20年間この若者研究を続けていて、これまでに1万人ほどは話を聞いていますが、「ゆとり世代」と言われていた人たちと比べると消費が活発になるなど、明らかな違いを感じますね。

 いわゆる若者論において、若者はすごくエネルギーがある存在です。団塊世代であれば政治意識が強く学生運動に積極的な人もいました。バブル世代になると興味の対象は消費へと移行していき、「モノがほしい」「モテたい」という欲求が経済を刺激していく。ゆとり世代にはこうした熱をあまり感じなかったのですが、Z世代が登場してからはみんな積極的に発信するし、インスタ映えのために消費もするし、アクティブに戻ってきたと感じます。

――世界と比較すると日本ではZ世代の人口は少ないですが、それでも存在感を増しているのはなぜでしょうか。

 世代人口こそ少ないですが、物心ついた時からインターネットが発達していた彼らはデジタルマーケティングにおいては中心です。発信力があり、彼らに刺さるマーケティングを行うことができれば、SNSで大きく拡散する可能性があります。

――多くのZ世代と交流する中で、原田さんが特に印象に残った特徴やトレンドはありますか?

 なかなか難しいですが、本当に一般的な子たちまでグローバル化している印象があります。ゆとり世代では海外の情報に興味がない人も多かったのですが、Z世代はインスタなどが海外の情報を日常的に得るきっかけになっていますね。

 ここ4,5年で特に大きいのは韓流ブーム。トレンドスポットは原宿から新大久保に移りましたし、韓国のアイドルやインフルエンサーの影響でメイクする男性が増えています。中国・台湾発のカルチャーである華流ブームも生まれつつありますし、「タイBL」「タイコスメ」などにも注目が集まっています。こういった流行は若者から火がついて波及していきます。面白いものがあれば国境を越えて広がっていくんだなと感じますね。

2019年9月11日、スペイン・マドリードで開かれた第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)で演説する環境活動家のグレタ・トゥンベリさん=松尾一郎撮影

なぜ世界を席巻するアイコンが生まれないのか

――グレタ・トゥンベリさんやジェイミー・マーゴリンさんら、地球や社会の将来を見据えて活発に発信するZ世代も増えていますが、日本のZ世代はそこまで積極的でない印象があります。

 デジタルネイティブである点はどの国でも共通していますが、競争力や政治意識は日本のZ世代の弱いところです。たとえば、韓国は受験戦争も就活も過酷で競争の連続。こうした国と比べると、居心地のいい「チル」な価値観を持つ日本のZ世代は世界に出た時に競争力がなく、打たれ弱いのではないかと心配しています。

 また、香港や台湾などと比べると若者が政治に興味を持つきっかけも少なく、政治意識も低いです。メディアを見ているとZ世代には社会や政治に関心が強い人が増えているように思うかもしれませんし、そうした若者が発信し続けることで全体が変わっていく可能性もありますが、まだ一部にすぎません。

――BTSのような世界を席巻するアイコンも、日本からは生まれてこないという課題があります。日本のZ世代が世界と比べて恵まれた環境で育っていることが原因なのでしょうか。

 これに関しては若者の責任というより、日本の戦略ミスではないでしょうか。人口減少や格差の拡大が進んでいると言われながらも日本はまだ豊かで、国内の市場だけでじゅうぶんビジネスが成立してきました。結果的に、グローバル戦略に力を入れるのが遅れてしまいました。

 韓国が積極的に世界に目を向けたのは、国内市場が小さかったためです。若者人口は少ないけれど若者マーケティングを積極的に行い、韓流ドラマやアイドルに力を入れ、スマホなどの電子機器やコスメもたくさん作りました。結果、この10年で大きく差が開いたと思います。それは日本が恵まれていたから出遅れたとも言えるし、韓国の目の着け所が良かったとも言えるでしょう。

 しかし日本も人口減少が加速して市場が縮小していけば、国内だけではビジネスが成り立たなくなっていきます。グローバル戦略は必須ですし、そのためにも感度が高いZ世代向けのマーケティングはますます重要になっていくと思います。

マスマーケティングはこれまで以上に存在する

――新型コロナウイルスの流行は、Z世代にどんな影響を与えていますか?

 カフェに行きにくくなったステイホーム期間中に、自宅で凝ったカフェメニューを作ってインスタにアップする「お家カフェ」、リラックスして過ごせるが他人に見られても大丈夫な、近所を出歩くのに最適な「ワンマイルウェア」など、チル&ミーを満たす消費トレンドは多く生まれました。

 一方、若い世代ほど収入が減ったというデータもあります。これまで売り手市場だった就活やアルバイトの募集でも変化が訪れ、これまで「チル」を自分の価値観で最優先してきた若者たちも、少し目つきが変わってきたと感じます。就職氷河期のようにはなってほしくないと思いますが、厳しい状況が人を強くするのも事実。彼らが強くなるきっかけになればいいなと愛情を込めて思います。

――少子高齢化社会を迎えた日本では、世代人口の多い高齢層向けの「シルバーマーケティング」が、世の中全体でまだまだ幅をきかせていると感じます。

 平成の間、日本では人口ボリュームの多い高齢者を「アクティブシニア」と呼び、積極的にターゲティングしてきました。その結果、多くの業界が若者を置き去りにしていく状態が続きましたが、こうしたシルバーマーケティングも限界を迎えつつあります。

 Z世代に注目している企業はまだ少ないです。これまでと大きく方針を変え、人口も少ない若者向けにターゲティングしていくのは難しく感じるかもしれません。興味関心の対象が細分化して、これまでのようなマスマーケティングが通用しないのではと不安に思う人もいるでしょう。でも、実際は媒体がテレビなどからSNSに変わっただけで、マスマーケティングは存在しています。

 たとえば、2020年にはスナック菓子「じゃがりこ」と「さけるチーズ」で、フランスのマッシュポテト「アリゴ」を作った「じゃがアリゴ」が流行りましたが、これはSNSをやっているほとんどの若者が知っています。SNSをのぞいてみれば、むしろ昔以上にマスは存在していることがわかるはず。鍵を握るのは、ここからどれだけZ世代の思考やニーズを研究できるかです。今のうちから若者世代をしっかり研究しておけば、彼らが年齢を重ねたあとも、彼らの心を掴み続けることができるはずです。

――だからZ世代に今から注目していく必要があるのですね。

 人口は少ないけれど影響力の大きいZ世代は大きな存在です。メディアや広告に携わる人だけでなく、今後はデジタルで拡散していくことがますます重要になっていきますし、そのためにはZ世代を知り、情報を届けていく必要があります。

 必ずZ世代が主役の時代がやってきます。今から彼らを理解することは、これからの日本と世界を先読みするための助けになるはずです。