ある人に「月刊秘伝」なるユニークな雑誌があると教えてもらい、以来ずっと注目していた。武道・武術の秘伝に迫る雑誌とのことで、たしかに面白そうだ。月刊武道でも月刊武術でもなく、月刊秘伝と名付けているところにこだわりのようなものも感じられる。

 過去の特集をみると「“抜即斬”戦いを納める『鞘(さや)の内』居合・抜刀とは?」「大和撫子(なでしこ)武芸帖(ちょう) 女子武道家と“真武・真美”」など少々難解そう。「北派拳術 達人伝の『勁法(けいほう)』と養成法」や4月号の「中津平三郎(なかつへいざぶろう)の大東流合気柔術」あたりになると、門外漢の私の手には負えない感じで少々購読がためらわれた。しかし、3月号の特集が「『歩き』から身体を究める サムライ・ウォーク!」だったので、これならついていけそうだと読んでみた。

 本誌によると、伊能忠敬は測量をしながら毎日四十キロぐらい歩いていたらしい。現代人には到底不可能に思えるが、昔は今とは違った歩き方をしていたようだ。「不及流歩術」を使えば健康な人なら一日百六十キロ歩けると書いてあってちょっと信じられない。実際に試している記事があるのだが、残された伝書の解読が難しく技法を復元するには創意工夫が必要とある。本当にそんなことが可能ならぜひ自分も身につけたい。

 昨今注目されるようになったナンバ歩きについても触れてあり、体の負担が小さくなるというので、記事と連動した動画を見ながら試したが、難しかった。体のことは誰かに実際に教えてもらわないと習得できないのかもしれない。

 ただ、そういった伝統的な技術の話だけでなく、特集第2章では「義足ランナーとブレード開発に学ぶ! 『歩く』と『走る』のエッセンス」と題して、義足エンジニアに「歩く」と「走る」の違いなどをインタビューしていて面白かった。『五体不満足』の著者乙武洋匡(おとたけひろただ)さんがロボット義足で歩行に挑戦しているそうで、当然ながら単に義足をつければ歩けるようになるわけではなく、体のメカニズムに対する深い理解がないとスムーズな動きは実現されないのだそうだ。

 そのほかにも合気道や沖縄空手、馬術や日本刀、忍者に関する記事もあって内容はもりだくさんな一方で、ときに一日百六十キロ歩けるというような話も出てくるので好事家向けの雑誌かなと思ったが、細かく読んでいくと心身を健やかかつ自在に操るための試行錯誤が武道であり武術なのだとわかってきた。そこに軸足を置いているからこその「秘伝」なのかもしれない。=朝日新聞2021年4月7日掲載

インフォメーション月刊秘伝

 1990年創刊。BABジャパン発行。毎月14日発売。千円、3万部。柔道や剣道から、世界の古武術や護身術など、身体技法文化を幅広く紹介している。編集・発行人の東口敏郎さんは「一流のアスリートも、行き着く境地は古(いにしえ)の達人・武道家と近似しており、格闘家や棋士も取材します」と話す。