人形浄瑠璃、観(み)に行かない? そう誘われると、大半の人が怖気(おじけ)づいてしまうのではないでしょうか。しかし、淡路人形座においては、何の心配もいりません。普段着で千いくらか払い、有名な演目の見せ場となる段を、人形解説とともに、一時間弱で観賞することができるのです。

 中でも、お酒の好きな戎(えびす)さまが、楽しく舞いながら、無病息災などの幸せを招いてくれる「戎舞」は、昔から、淡路島の漁村のお祭りで、大漁や航海の安全を祈って舞われていた、人気の演目です。

 それがこの春、なんと、淡路島出身アーティスト、清川あさみさんのプロデュースにより、「戎舞+(プラス)」としてリニューアルされたとあっては、観に行かないわけにはいきません。そのうえ、脚本はいとうせいこうさんです。すでに完成された演目が、どう新しく変化するのか。固定ファンのいる演目に手を加えるのは、ゼロから作るより難しいことだと思います。しかし、そんな危惧は開始早々吹き飛ばされました。

 物語は、淡路島の国生み神話と紐(ひも)付けされ、幻想的なアニメーションから始まります。美しい巫女(みこ)の舞があり、満を持して登場した戎さまの衣装は、さすが清川さん、以前よりも華やかになっています。しかも、ただ模様などがきれいになっただけでなく、さりげなく付けられたひだ状の前掛けにより、高度な技術が求められる「足遣い」が、鮮明に伝わる仕掛けになっているのです。

 ラストは、現在の世の中にも通じる祈願を、愉快に終えて海に出た戎さまの背後に、美しい景色が広がります。清川さんが淡路島の朝焼けを描いた大作、「inori」です。不覚にも、涙が流れました。私の胸の内に湧き上がったのは、希望です。

 当初、5月末までの上演予定で、緊急事態宣言による休館のため、多くの人に観てもらえないまま終わってしまうことが残念でしたが、この度、7月末まで上演されることが決まりました。開館状況をご確認のうえ、ぜひ、足をお運びください。=朝日新聞2021年6月16日掲載