空の王

太陽の門

最終飛行

 日中戦争前夜を舞台にした新野剛志『空の王』は航空アクションだが、戦闘機ではなく新聞社の飛行士を主役にすることで新機軸を打ち出している。

 社命で満洲国の奉天に来た鷲尾順之介は、戦死して英雄になった兄が戦争を阻止する計画を立てていたことを知り、その直後、関東軍の梶清剛大尉から内蒙古へ飛びある荷物を運ぶ命令を受ける。偶然、再会した愛機ロックヒード・ベガに乗り込んだ順之介は、誰が敵で誰が味方か分からないほど入り組む陰謀に巻き込まれていく。武装がないベガと戦闘機が繰り広げる壮絶なアクションに、外蒙古をめぐる大国の謀略戦も加わるので、スリリングな展開が続き息つく暇もないほどである。

 等身大の順之介が、戦争を止めるため危険な任務に挑む展開は、小さな個人でも平和な社会を作るためにできることがあると気付かせてくれる。

 戦国ものの歴史小説で注目を集める赤神諒(りょう)が初めて近代史に挑んだ『太陽の門』は、映画「カサブランカ」の前日譚(たん)で、スペイン内戦を描いている。

 一九三六年。元アメリカ海兵隊のリックは、女性民兵のブランカと出会ったことで、正規軍中心の叛乱(はんらん)軍と戦う共和国民兵の指導をするようになる。

 常に寡兵で練度も低い部隊を率いるリックが、巧みな戦術でナチス・ドイツから最新の武器を供与された叛乱軍を翻弄(ほんろう)する迫真の戦闘シーンは、弱者が一矢を報いるだけに痛快だ。こうしたハードな展開だけでなく、リックのロマンスも物語を牽引(けんいん)するので、映画のファンは特に楽しめるだろう。

 派閥抗争で共和国の大義がゆらいでも、自由と民主主義のために戦うリックは、守るべき理想とは何か、それを実現するためなら血を流してもよいのかを突き付けているように思えた。

 佐藤賢一『最終飛行』は、パイロットとして活躍し、『星の王子さま』の作者としても知られるサン・テグジュペリの晩年を追った作品である。

 一九四〇年。ドイツに敗れたフランスでは親独のヴィシー政権が樹立したが、ドゥ・ゴールは抗戦を主張した。著者は、その頃にサン・テグジュペリが渡米したのは参戦を促すためで、現地で書いた『戦争飛行士』は文化的な武器だったとしている。サン・テグジュペリ作品に隠された政治性を明らかにしつつ、人気作家らしく派手に浪費し、女性と浮名を流す私生活も活写されているだけに、意外な発見も多い。

 行動を重んじるサン・テグジュペリは、飛行士に復帰し危険な偵察任務に出るが、ファシズムと戦った志を後世に伝えたのは残された作品ではなかったか。それを暗示するラストは、文学の力と可能性を示しているのである。=朝日新聞2021年7月28日掲載