美術館の展示室の片隅に座っている人がどんな役目を担っているのか、気になったことはありませんか? 彼ら彼女らは監視員や監視係と呼ばれ、展示室での注意事項を案内したり、鑑賞者の質問に対応したりします。簡単そうに見えますが、実は気を遣う場面が多く、色々とテクニックを駆使しているのだそう。岐阜県美術館に勤務しながら漫画やイラストを手掛ける宇佐江みつこさんのコミックエッセー『ミュージアムの女』(KADOKAWA)で、その仕事の裏側や日常を紹介します。

 例えば、展示室に頻繁に現れる、壁や額縁を無意識に触ってしまう人たち。本人たちは気を付けているつもりでも、作品に夢中になるあまり、荷物や帽子のつば、パンフレットなどの一部が額縁に触れてしまうことがあるそうです。額縁に使用している金や白木素材は汗や指紋の影響で破損しやすく、監視員はハラハラさせられるのだとか。

🄫宇佐江みつこ/KADOKAWA

 にぎやかな人に注意を促すことも監視員の仕事ですが、意外なことに、作品の感想を共有しあう人を直接注意することは少ないそうです。展示室での会話禁止というルールは特になく、ほかの鑑賞者へ迷惑をかけない程度の会話はOK。ほかの鑑賞者から静かにしてほしいと合図を受けた場合や、展示とは関係のない会話で目立っている人には注意をします。その際、ツカツカと音を立てて近づくと相手を怖がらせてしまい、集中して鑑賞している人の邪魔にもなるので、そっと近寄り、ささやくように伝えます。快適な鑑賞空間を守るため、常に気配を感じさせない工夫を凝らしているのです。静かに座っている姿がまるで人形のようにも思えるのは、そのためかもしれません。

 また、人は他人の視線に敏感であることから、監視員は不快感を与えないように人を見る技術も必要だといいます。宇佐江さんは新人のころ、鑑賞者から「何見ているの!」と詰め寄られた苦い経験もあるそう。とはいえ、無表情だとにらまれていると思われてしまうこともあるため、穏やかな表情を心掛けています。

🄫宇佐江みつこ/KADOKAWA

 学芸員が解説する勉強会や展覧会などの図録から展示内容を学び、鑑賞者からの何気ない質問やツウな会話にも備えています。監視員には美術系の勉強をしていたスタッフが多く在籍し、対応に困っているスタッフがいれば、それぞれ得意なジャンルでカバーし、チームワークを発揮することもあります。学芸員を呼ぶほどではないけれど「ちょっと聞きたい」、そんな期待に応えるのが監視員の腕の見せ所です。

 鑑賞者の中には「鑑定に出したらいくらかな」と突拍子のないことを尋ねてくる人、マニアックすぎる質問をぶつけてくる人もいて、質問の内容は多岐に渡ります。学芸員に確認したり、資料を調べたりしても太刀打ちできず、「勉強しておいてね」と言われ落ち込んでしまうこともあるそう。学芸員でもなく作家でもない監視員は美術館にとって必要なのか、と作者の宇佐江さんは時に自問することも。しかし五感をフルに活用させて目を配り、作品と鑑賞者にとって快適な環境を作る、それが監視員の仕事だと胸を張ります。

「ミュージアムの女」で知る、監視員あるある!?

他館のチラシを整理することもあり、各々のロッカーには興味のある他館の企画展チラシがはってある

勤務外の休日などに作品を鑑賞したり、イベントに参加したりしている人が多い

展示室内は作品管理に適した室温設定のため1年中寒い。夏でも厚手のタイツを履くなど厚着しているスタッフが多い

勤務中に睡魔に襲われたら口の中の肉を噛んで耐える

個人の美術品を鑑定依頼に持ち込む人もいる

ローテーションで監視する場所が決まるので、「近代日本画あたりが落ち着く」などお気に入りの場所はそれぞれ