マルペルチュイ ジャン・レー/ジョン・フランダース怪奇幻想作品集

ボギー 怪異考察士の憶測

月の淀む処

 『マルペルチュイ ジャン・レー/ジョン・フランダース怪奇幻想作品集』は、ベルギーが生んだ史上最大の幻想文学者(レーはフランス語作品の、フランダースは母語であるオランダ語作品の執筆時に使用された筆名)の、日本初となる総合的紹介の書である。

 代表長篇(ちょうへん)たる表題作の新訳に加え、連作短篇集『恐怖の輪 リュリュに語る怖いお話』(以上レー名義)とSF系短篇集『四次元』(フランダース名義)の全訳を収めた、総ページ数五〇〇を超える堂々たる陣容。かつて雑誌編集者として〈ベルギー幻想派〉の称揚に微力を尽くした私にとっても、待ちに待った大著の登場だ。

 五年前に刊行されたベルギー幻想文学アンソロジー『幻想の坩堝(るつぼ)』の編訳者のおひとりで、本書表題作を新訳された岩本和子さんの名解説によれば、〈『マルペルチュイ』は完結していない。まさに開かれたままのテクストであり、神話と「現代」を結ぶ壮大な世界観をもさらに超える大きな試みだったのではないか〉とのことだが、これは作者レーその人にも当てはまる評言だろう。私自身、久しぶりに『マルペルチュイ』を仔細(しさい)に読み返し、新たなる発見と戦慄(せんりつ)におののいた。ちなみにレーの全盛期が、米国の怪奇作家ラヴクラフトと同時代であることは、極めて注目すべき事実であると思う。

 今は亡き「幽」怪談文学賞の最初と最後の大賞受賞作家となった黒史郎と篠たまきが、相前後して新作を発表した。

 黒の『ボギー 怪異考察士の憶測(おくそく)』は、このほど新たに旗揚げした二見ホラー×ミステリ文庫の新刊。現実とも虚構とも定かならぬ怪異を主人公が追いかけるという趣向は、すでに作者が傑作短篇「海にまつわるもの」で実践しており、今回はその長篇版といった趣。しかも主人公が余命半年の診断をくだされていて……という切迫した設定下に、胡乱(うろん)な物語が展開される。

 主要舞台が石川県の能登半島、主人公の病が脳髄に関わるもの……ということで、個人的にも他人事(ひとごと)ならず読み進めることができた。最後のオチは予測可能とはいえ、〈火の玉〉の怪異をめぐり、謎が謎を呼んで転がり続ける展開は、お見事。作中、東宝映画の常連俳優・土屋嘉男の回想記が登場するが、これは実在の書物で、そこに描かれた妖怪(UFO?)体験も、ちゃんと出典がある話。こういう取材の周到さも、作者の力量のうちだろう。

 篠の『月の淀(よど)む処』は、都会の真ん中の集合団地で生起する、ローカル・ホラーさながらの怪異ミステリ……という捻(ひね)った設定の物語。正常と異常の狭間(はざま)で揺れ動くヒロインの心理を、濃(こま)やかに追及する筆致が魅力的だ。=朝日新聞2021年9月22日掲載