【あらすじ】

 自分がゲイであることを隠している高校生の純(神尾楓珠)は、ある日、書店でクラスメイトの紗枝(山田杏奈)と遭遇。彼女が手にしていたのはBL漫画だった。BL好きを周りに知られたくないと「誰にも言わないで」と口止めする紗枝。秘密を共有するうちに、ふたりの距離は縮まり、“ふつう”の男女として付き合うことになるのだが……。

「当たり前」が見えてくる作品

――本作は浅原ナオトさんの小説が原作ですが、撮影前に読みましたか?

 原作のあるものは、監督から「イメージに引っ張られないように読まないでください」と言われない限り、読んでいます。読書は好きで、安部公房さんや柚木麻子さんまで、なんでも読んでいます。

 本作は、語り口がポップというか、馴染みやすくてするする読めるんですけど、純の悩みや葛藤が真っ直ぐに伝わってきて、そのバランスが素敵だなと思いました。紗枝を演じることはわかっていた上で、純に感情移入して読みました。いつも、作品の中で自分がどういう役割をするのか、というところから役作りをしているので、純はこういう人だから、紗枝はこういう角度から純の心の奥の方に触れていくんだなと考えながら読んでいました。

©2021「彼女が好きなものは」製作委員会

――紗枝はBLが好きな高校生ですが、読んだことはありましたか?

 私も中学生の時、紗枝と同じく美術部だったんですが、美術部にはアニメとか漫画が好きな人が多くて、BL漫画を持っていた人に借りて読んだことがありました。面白かったです。紗枝の役が決まってからは、改めて読みました。「こういうこと(同性愛)を消費しちゃってることってどうなんだろう」という紗枝のセリフがあって、そういう考えもあるなとは思ったんですけど、作品として、恋愛ものとしても面白いなと思います。

 BLも読んでみないとわからないように、本作の撮影を経て、私の価値観も変わりました。価値観なんて大袈裟なことじゃなくても、自分で気づかないうちに当たり前になっていたことが見えてくる作品だと思います。

――紗枝を演じて、セクシュアリティーについての考え方に変化はありましたか?

 自分では、私は異なる価値観でもちゃんとわかると思っていたんですけど、演じてみて、やっぱり当事者じゃないと、どこまでいってもわかってるつもりでしかない、「理解できる」なんて慢心だなと思いました。だからこそ、紗枝のセリフにもありますが「わからなくても想像したい」。想像することしかできないけど、それは努力でできる。想像したいなと思いました。

「違う」ことを排除せず、理解したい

――純がゲイであることを隠して付き合っていたことにショックを受ける紗枝ですが、純の「⾃分も“ふつう”に⼥性と付き合い、“ふつう”の人生を歩みたい」という想いを知り、純のことを理解しようとしていきます。自分の想いや大切な人への想いに真っ直ぐなところがとても素敵な作品です。

 そうですね。紗枝の根っからの優しさや、物事に対して真っ直ぐ向き合っていくところが、純との関係性に繋がっていくんだなと思います。そんな紗枝のこと、めちゃくちゃ好きで、尊敬します。紗枝は自分と違う考えの人や、自分の世界になかった考えに触れた時、それを排除するのではなく、わかりたい、理解したいと思う人で、そこが彼女の核になっていて、すごく素敵だなと思います。私自身もそうありたいと思っています。

――監督は山田さんを見て、「この子が紗枝だ!」と思ったそうですね。

 どんなところが紗枝だと思ったのかお聞きしてはいないんですけど、嬉しかったです。撮影が始まってからは、監督と私の考える紗枝のイメージが少し違っていたみたいで、リハーサルの時に何度か話し合って調整しました。紗枝のふわふわっとしている雰囲気とか、体をくねくねしたり、身振り手振りを大きくしたりするのは監督の演出で、演じる上ですごく助けられました。溢れ出してしまう想いみたいなのが紗枝らしいなと。

紗枝を表現できるのは自分しかいない

――共演者は同世代の俳優さんが多いですね。

 純役の神尾楓珠くんとご一緒するのは3度目ですし、前田旺志郎くんやみんなとも、現場が盛り上がって楽しかったです。楓珠くんは、現場でずっと「純」という感じだったので、私も紗枝を演じやすかったです。紗枝としてだけでなく、私にとっても純はひとりの人間として、すごく大切な存在になって、この人の側にいたい、この人を救いたい、この人が幸せに生きられたらいいなと、そういう想いが強かったですね。

©2021「彼女が好きなものは」製作委員会

――紗枝が純のことを理解してもらいたいと、全校生徒の前で話すシーンが心に残りました。

 最近、演じていて、その時のその人の気持ちを表現できるのは私しかいないんだなって思うんです。あのシーンは、紗枝の想いを余すところなく全部出し切ろう、そういう気持ちで挑みました。自分にとって大切な人ができて、その人に対して何ができるか、自分や相手への想いをあの場でしか伝えられないと思ったら、全力でぶつかっていこうと、大事に演じました。台本7ページぐらいを1人で喋るので、撮影の数日前からすごく緊張しましたが、長いシーンをほぼワンカットで、段取りもテストもあまりやらずに、ぶっつけ本番で撮ってくださったので、気持ちもフレッシュなままできたのがうれしかったです。

 作品を観終わった後に、なにか感じたり思ったりしたことに向き合う時間を作ってもらえたら幸せです。誰かにとって大切な作品になったらいいなと思います。

お話を聞いた⼈山田杏奈(やまだ・あんな)

2001年1月8日生まれ。埼玉県出身。2011年に「ちゃおガール☆2011オーディション」でグランプリを受賞し、デビュー。映画「ミスミソウ」(2018)で映画初出演を務める。「小さな恋のうた」(19)では第41回ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞。「ジオラマボーイ・パノラマガール」(2020)、「樹海村」(21)、「ひらいて」(同)など、主演作の公開が相次いでいる。

インフォメーション「彼女が好きなものは」

監督・脚本:草野翔吾、原作:浅原ナオト。121分。
神尾楓珠、山田杏奈、前田旺志郎、三浦獠太、池田朱那、渡辺大知、三浦透子、磯村勇斗、山口紗弥加、今井翼ら出演。
2021年12月3日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。