ウィーに続いたグリーンシル

 生き残っている会社はまだましだ。「グリーンシル・キャピタル」(英国)に至っては経営破綻した。レックス・グリーンシルというオーストラリアの金融家が2011年に設立した会社だが、カリスマティックな人らしく孫さんのお眼鏡に適い15億ドルも出資を受け、急成長し資産を膨らましたが、2021年に破綻し、いまは債権者のクレディ・スイスと係争中だ。フィナンシャルタイムズによると、孫さんは全額償却した。元英国首相のデイビッド・キャメロンもすっかりだまされたらしい。

 この会社が掲げたのは「サプライチェーン・ファイナンス」。新しいビジネスに聞こえるかもしれないが、なんのことはない、その実態は売掛債権の回収会社だ。

 孫さんが出資した企業のほとんどは創業以来利益を出していない。中国の「DiDi」(タクシー配車)の株価はピーク時の18ドルから9割減、韓国の「クーパン」(通販)は46ドルから8割減、米国の「ウーバー」(タクシー配車)は56ドルから6割下げている。

 そもそも孫さんの会社は、保守的な資産運用会社とちがって、運用受託したファンドの評価損益まで運用会社の損益に連結させている。これは市場がバブっているときはいい。だが、現在のような下降局面では損失は強調される。そのうえ時価会計の国際会計基準を採用し、株価の上下、評価損益の上下が四半期決算に表れるだけでなく、さらに負債でテコを利かせているのでこの上下が一層拡張されてしまう。

 この1年を振り返ると、なによりアリババ株が暴落してしまったのが相当な痛手だった。創業者ジャック・マーが中国の金融当局に睨まれ公の場から姿を消したこともあり、株価はピークの約300ドルから現在80ドルと4分の1だ。利益は出しているが、中国共産党の締め付け、コロナ流行、不動産バブル崩壊、対米関係悪化など逆風が強い。こうなっては習近平の心変わりを待つしかない。

 孫さんはこれまでジャック・マー、ヤフーのジェリー・ヤン(台湾出身アメリカ人)などの起業家を見出して富を築き上げてきた。一般的なウォール街のアメリカ人やアラブのお金持ちは、こうした東洋人起業家を見出すことに困難を感じており、「マサ」は良い目と嗅覚を持っているように見えた。

なぜ経営幹部は去るのか

 彼が雇ったファンド・マネジャーの多くは、お行儀がよくないことで知られるドイツ銀行(トランプ前大統領の御用達)から飛び出したインド人グループ。これもウォール街ではユニークな存在だ。ウォール街はいまだに圧倒的にユダヤ人中心の社会で、アングロサクソンなど欧州系でさえ端にいる。インド系のバンカーが台頭してきたのは、証券化やクオンツ分析(数学的手法をつかう)が台頭し、「算術」を得意とする彼らが実績を上げてからなので比較的最近だ。彼らを束ねる孫さんにアラブの王家など魅了されたわけだが、今ではマサの目と鼻を信頼したことを後悔しているかもしれない。

 投資銀行家・神谷秀樹氏による「孫正義の借金はもう限界」は、「文藝春秋」2022年7月号と「 文藝春秋digital 」に掲載されています。

(神谷 秀樹/文藝春秋 2022年7月号)