相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員の植松聖が、入所者19人を殺害した事件に着想を得た作家・辺見庸の同名の小説が原作の映画『月』。『舟を編む』『茜色に焼かれる』などの作品を手掛けてきた石井裕也氏(40)が監督を務め、主演は宮沢りえ。オダギリジョー、二階堂ふみらが脇を固め、磯村勇斗は障害者たちを殺傷する事件を起こす青年「さとくん」を演じた。そして先日、報知映画賞の作品賞、助演女優賞(二階堂ふみ)、助演男優賞(磯村勇斗)の3部門を獲得。日刊スポーツ映画大賞でも最多5部門6ノミネートを果たすなど、高い評価を得ている。

 

だが実は、制作・配給元であったKADOKAWAから映画製作の最終段階で制作中止を宣告され、一時は公開も危ぶまれていたという。石井監督が映画の企画者・角川歴彦氏(80)との対談で明かした。

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「広告契約がなくなってもいい」

 角川 先日、『月』が報知映画賞の作品賞、二階堂さんが助演女優賞、磯村さんが助演男優賞の3部門を獲ったと発表されました、欣快に堪えないよね。心からおめでとうと言いたい。

 石井 俳優たちは凄いです。特に磯村君は、一番ハイリスクな役を演じてくれたわけです。「広告契約がなくなってもいい」というほどの覚悟を持って、さとくん役を引き受けてくれた。その演技が評価され、本当に報われた気持ちになりました。

 それと僕は、角川さんが新藤兼人賞のプロデューサー賞を受賞されたことが本当に嬉しかったです。

 角川 ありがとう。受賞を聞いた時は本当に驚きましたよ。僕はすべての職を辞任して、一介の素浪人になったものですから。そんな僕に賞をあげようだなんて、粋な人がいるんだなぁと思いました。

 石井 河村さんと角川さん、気概のあるプロデューサーがいなければ絶対にこの作品は世に送り出せませんでした。


KADOKAWA撤退にも負けず、公開に漕ぎ着けた石井裕也監督 ©文藝春秋

 角川 申し訳ないことに、私の逮捕後、一時は危うかったと後に聞きました。

 石井 制作・配給元であったKADOKAWAの担当プロデューサーたちは最初から最後まで無責任極まりなかったです。言い出したらきりがないですが、最初は、「障害者を映画に出すな」と言ってきました。でも特に理由は言わないんです。世間から批判されたら困る、という保身でしかなかったので。

 角川 でも、彼ら障害者を抜きにこの映画は出来ないじゃない。

 石井 はい。角川さんにそう後押ししてもらって昨年の夏に撮影したのですが。撮影中に角川さんが逮捕されて、それからが本当に大変でした。編集段階で、世間で批判される可能性のある場面はカットして、とにかく「まろやかにしろ、まろやかにしろ」と言われ続けたんです。

 角川 料理じゃないんだから。

 石井 この題材で、まろやかな作品になるわけがないんです。この題材でやるからには絶対に表現に容赦してはいけない。妥協もしてはいけない。そう思って撮っていましたし、そもそもそういう企画じゃないですか。

 角川 そうだよね。