事件の一報を聞いた時、警視庁の組織犯罪対策課にいた元刑事・A氏は「長年、外国人犯罪を中心に捜査に携わってきた者ほど、その容疑者が自殺したと聞いて驚いたのではないか」と思ったという。

 2012年1月9日、愛知県警中署前で、任意同行した容疑者が隠し持っていた刃物で自殺するという事件が起きた。署に到着し、捜査車両から容疑者を降ろそうとして、捜査員が目を離した隙の出来事だった。


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台湾人の女子留学生2人が心肺停止状態で発見される

 自らの頸部に刺したという刃物は、刃渡り11cmの果物ナイフ。捜査員は身体捜検を行ったはずなのに、ナイフを見逃したのだ。隠し持っていたのがズボンの内側だったのか腹部だったのか、未だにどこに隠されていたのか不明のままだ。

 自殺したのは、日本語学校に通う台湾籍の留学生、張志揚容疑者。同じ日本語学校に通う台湾人の女子留学生2人を殺害した容疑で指名手配されていた。

 殺害された女子留学生たちは、2012年1月5日、東京都台東区のマンションの一室で、心肺停止状態で発見された。それぞれ首などを10か所以上刺されていたという。発見したのは日本語学校の講師だ。

 その日、彼女たちは同じ学校の男子学生らと出かけるため、9時半に待ち合わせをしていた。8時に被害者から男子学生に電話があったが、9時20分に電話した時はつながらず、待ち合わせ時間になっても彼女たちが来ないため、男子学生が学校に通報したのだ。

「最近、態度が冷たい」被害者の1人に好意を寄せていた

 学校が寮として借りていたという部屋は、玄関に鍵がかかっていた。合い鍵でドアを開けた講師の目に飛び込んできたのは、信じがたい光景だったに違いない。1人はダウンジャケットを着てブーツをはいたまま血まみれで玄関に倒れ、もう1人は奥の部屋で普段着のまま首元を血に染めて倒れていたという。部屋は血だらけで、床には血だまりができていた。

 容疑者は早くに割り出された。事件の数か月ほど前に来日した張は、被害者の1人と同じクラスで、彼女に好意を寄せていたようだ。事件前、クラスメイトに「(被害者の女子学生が)最近、態度が冷たい」とこぼしていたという証言があった。捜査本部が現場付近の防犯カメラを調べたところ、張容疑者が映っていた映像が確認される。現場からも張容疑者のものと思われる血痕が見つかった。捜査本部は張を指名手配した。