「職場で飲むコーヒーに毒を入れられた」と訴えながら死亡

 事件の端緒は、ある都立病院からの通報だった。当時入院していた東大技官の内田賢二が、「職場で飲むコーヒーに毒を入れられた」と訴えながら死亡したのだという。

 司法解剖の結果、内田の死因は酢酸タリウム中毒であることが判明し、内田が職場で使用していたコーヒーポットからも酢酸タリウムが検出された。

 本富士署に設けられた特別捜査本部では、同大医学部附属動物実験施設で毒劇薬物を保管担当する内田の同僚に当初から疑いの目を向けたが、その一方で、逮捕までには922日もの日数をかけた。

 犯行に使われたと見られる酢酸タリウムについては、同一ロットはもとより、その前後に製造されたタリウム計127本(瓶詰め換算)を特定し、これらが納品された全国50か所の研究機関などに捜査員を派遣。

 回収したタリウムは、一般企業も含む複数の研究機関に提出して鑑定を依頼し、このことによって、同僚が保管を担当していたタリウムとコーヒーポットのタリウムが成分的に同一であることを証明したのだ。

 問題は犯行の動機だが、科学捜査と併せて同僚の谷本靖男(仮名)を追及したところ、「内田とはふだんから人間関係がうまくいっておらず、仕事上のことで注意しても無視され、目障りだった」などとの供述を得た。

 谷本靖男は、2000年6月に最高裁で懲役11年の実刑判決が確定している。

 有働は、カリタ事件の解明や犯罪性の立証には、笹川警部のこうした経験が不可欠であると考え、赤羽警察署の特別捜査本部にいた笹川に携帯電話をかけたのだ。

(髙尾 昌司/文春文庫)