〈 「ヒグマが突進、死ぬほど怖かった」“子連れグマ”との距離は数メートル、手が震えて…動物カメラマンが恥を忍んで告白 〉から続く

 日本で今、もっともクマの写真を撮っているカメラマン、二神慎之介は昨年、日本全国でクマが大量出没した“好機”に、ほとんどクマの写真を撮らなかったという。その理由について、「怖かったから」と素直に語る。二神の最大の弱点。それは長年の濃密な撮影活動による「クマ恐怖症」を抱えているということだ。日本で今、もっともクマの写真を撮る男は、もっとも“ビビり”な男でもあった。

 クマと人との遭遇事故が頻発する昨今、二神はこう警鐘を鳴らす。「クマの本能が変化してきている。『共生』という言葉では、追いつかない時代がすぐそこまで来ています」――。(全3回の3回目/ #1 から読む)

◆ ◆ ◆

――二神さんは本州でツキノワグマの撮影もしていますよね。昨年からツキノワグマの事故も相次いでいますが、ヒグマとツキノワグマの習性の違いというか、怖さの違いみたいなものもあるものなのですか。

二神 僕がツキノワグマを撮り始めたのは2014年からなんです。ただ、ツキノワグマの経験値はまだまだ低いです。ツキノワグマを追いかけ始めたころ、ヒグマの経験があるからレベル3ぐらいから始められると思っていたんですけど、ぜんぜんジャンルが違いました。ヒグマ以上に会える回数が少なくて。ヒグマはうわっという感じで現れますけど、ツキノワグマはトコトコトコって現れる。かわいいんです。でも僕はツキノワグマの方が断然、怖いです。ヒグマ以上にストレスを与えちゃいけない感じがします。ツキノワグマは体が小さいぶん、ヒグマ以上に臆病な感じがするんですよね。なので、ちょっとしたことでパニックに陥って、突進してくるイメージがあるんです。


二神は「最近、ようやく距離から解放された」と話す。「昔はどうやって近づくかばかりを考えていたけど、近づかなくてもいいんだと思ったら楽になった。その方が自然な表情のクマの写真を撮れるので」  ©中村計

「共生」という言葉は生ぬるい

――現状、クマに対して一般人が使える武器はクマスプレーしかありません。昨年10月、大千軒岳(北海道)では消防隊員がヒグマの喉元にナイフを突き刺して撃退したというニュースもありましたけど、あれはそうそうできることではありませんよね。

二神 あれは奇跡的というか、とんでもない武勇伝ですよね。あんな話、聞いたことがありません。普通の人はできるなんて思わない方がいいですよ。パニックになって、何もできないのが普通ですから。