季節営業の観光鉄道は利益を上げにくい

 当初、命名権は山口県下関市に本社を置く山口銀行が獲得した。路線の愛称は「やまぎんレトロライン」だった。門司港は下関の対岸、北九州市だけれど、山口銀行は北九州市にも多数の支店を構えていた。だから地元の人々にとって親しみがあり違和感もない。でも、観光客から見れば、「なんで山口銀行?」と思ったかもしれない。

 2011年に山口銀行の持株会社「山口フィナンシャルグループ」は、山口銀行の北九州エリアを分割し「北九州銀行」を設立した。これに連動する形で「北九州銀行レトロライン」に変わった。ようやく、地域に根付いた愛称になった。でもちょっと語呂が悪い。「きたぎんレトロライン」にしたいところだけど、「きたぎん」はすでに北日本銀行の略称として使われていた。

 短距離とはいえ、季節営業の観光鉄道は利益を上げにくい。だからこそ中古車両で節約し、命名権で売上を補う。せっかく命名権で愛称が決まったなら、積極的に使わないと権利者に失礼だな、と思う。この鉄道を紹介するときは、なるべく愛称「北九州銀行レトロライン」を使いたい。

JR九州とつながっていた線路を……

「じつは、もうひとつ、コスト削減の秘密があるんです」

 と、当時「潮風号」の実現に尽力したSさんが教えてくれた。いただいたお名刺が当時とは違う。出世されたようだ。

 秘密とは「レールを切る」つまり、JR九州と繋がっていたレールを切断したという。

「もともとこの路線は、門司港駅を通じて貨車を直通していました。だからJR九州と線路はつながっていました。しかし、JR九州の列車が乗り入れ可能となると、JRの幹線と同じ高度な安全基準に沿って運用しなくてはいけません。そこはとてもコストがかかる。こちらは1本の列車が単純往復するだけですから、もっと簡易な保安設備で良いんです」

 レールを切るという提案には抵抗も多かったという。「せっかく繋がっているモノをもったいない」「将来、直通列車を運行する可能性が消える」などだ。

「いつ走るか解らない列車のために、高度な保安設備の費用を払い続ける必要はないです。むしろ、毎日、確実に列車を運行できる枠組みを優先しました」

 生き残るためにJRとのつながりを断つ。これが北九州銀行レトロラインのすごいところだ。

写真=杉山秀樹/文藝春秋

(杉山 淳一)