一般的に想像するような学校のレポートとは全然違う! 芸大生たちの自由な発想で作られた、楽しくて素敵なレポート作品が話題です。

京都市立芸術大学美術学部で、江戸時代の絵画や近代の日本画を専門として教壇に立っている田島達也さん( @tajimaxG )。

授業で課した学生のレポート作品を2月7日、X(旧Twitter)に投稿したところ、4.3万を越える「いいね」が集まりました。

投稿したのは、田島さんが以前から担当している「画家の手紙・日記を読む」という授業のレポート課題。

レポートの内容は 「自由に手紙を書いて提出してもらう」 という単純なものですが、そこはさすが芸大生。例年、意表をついた自由すぎる手紙が提出されることから、SNSでよく話題になっています。

昨年のレポートと、SNSの反応はこちらから

X上では「待ってました」「今年も素敵」と、1年ぶりの投稿を楽しみにしていたという人や、「学生たちの創意工夫がすごい。丹念に見て評価する先生に頭が下がります」など、学生と教授の双方を讃えるコメントも。

果たして今年はどんなレポートが提出されたのか、アイデアが光る作品の数々を紹介します。

1.粘土板に刻まれた楔形文字(解読表付属/陶磁器・石田明里さん)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

粘土板に楔形文字で刻み込まれた作品。50音表と突き合わせることで、本当に解読できるようになっています。じつはこの作品、経緯をさかのぼると一昨年の作品から続く連作ともいえるものなのです。

昨年は、田島さんが「木簡に万葉仮名で書いてきたのがいた」と授業で言ったことがきっかけとなり、パピルスにヒエログリフで書いた手紙が送られてきました。その時、思わず 「来年は楔形文字かも」 とつぶやいたところ、今年になって本当に楔形文字の手紙が来てしまった……という流れになっています。

果たして来年はいったい何が来るのでしょうか。洞窟の壁画とか……?

2.伝書鳩のクルックーちゃん!(漆工・小野里紗さん)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

机の上に置かれた木彫の鳩。こちらは伝書鳩のクルックーちゃんです。その足にはしっかりと手紙がセットされています。

クルックーちゃんとの出会いや現状が書かれた手紙の内容も心温まる作品。送る方も受け取る方も、幸せになれそうなレポートです。

3.全部食べないと完成しない、レポート入りクッキー(陶磁器・橋本きおなさん)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

一見すると普通のクッキーですが……なんと、それぞれに手紙の断片が入っています。全部食べないとレポートが完成しない「フォーチュンクッキー」なのです。もちろん、田島さんは全部食べました。

よく「食べるのがもったいない」なんて言うこともありますが、もったいなくても全部食べないと手紙が読めません……! これまた、ユニークな作品です。

4.授業でとりあげた内容が飛び出す絵本に(芸術学・島田千晴さん)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

授業で取り上げた画家に関するモチーフを、飛び出す絵本にしたという作品。田島さんいわく、「難解な手紙に疲れた時の癒やしだった」そうです。

手紙によると、授業に登場した画家の作品を中心にして作ったとのこと。授業や日々の想い出が一枚に凝縮された、素敵な手紙ですね。

5.ちょっと怖い謎のチェキ(油画専攻・匿名)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

同封された写真や文章の雰囲気が、ホラー感のある作品。田島さんも「なんかちょっと怖いのがきた」と投稿しています。

油画専攻の学生さんからとのことですが、写真と裏側のコメントがまったく噛み合っていないのが怖い……。全部の写真と文章をつなぎ合わせると、知ってはいけない裏の物語が浮かび上がってきそうです。

6.手紙を持ったかわいいお人形さん(ビジュアルデザイン・小川涼羽さん)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

いつもアイコンに使っている自作の人形を、このレポートのためにもう一つ作って手紙を持たせてくれたとのこと。

人形の写真も投稿されていますが、そちらはお手紙を首からさげた、とてもかわいらしい人形になっています。

7.赤外線を当てれば読めます!(保存修復・髙畑理乃さん)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

一見すると、まったく文字が見えない謎の 作品 。田島さんが「古い文化財で読みにくくなった墨書は、赤外線写真で見やすくなることがある」と投稿していることからわかるように、どうやら赤外線写真で読むお手紙のようです。

「絶対楽には読ませないという強固な意志を感じる」という田島さんの感想も、学生さんの発想も面白い!

8.カイコの繭(中身はおいしくいただきました)(漆工・小寺ことみさん)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

カイコの繭に、丸めた手紙を詰めた作品。サナギはおいしくいただいたそうです。「揚げて塩振ったのがおすすめ」とのこと。

この手紙を送ってきた学生さんは、ご自身でカイコをたくさん育てて人にもあげているそうです。田島さんは「学内にプチ養蚕ブームが」と投稿しています。カイコが本当に好きな学生さんなのですね。

9.交換日記も、立派な作品!(日本画の2人/個人的な内容なので名前は伏せているとのこと)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

「授業では画家の日記もだいぶ紹介したけど、レポートとして日記が提出されることは想定してなかった」という交換日記形式の作品。

作品展前3カ月間の制作状況や日常が交換日記になっています。“岡本神草日記の影響顕著「金サエアレバ…」”という田島さんの一文から、授業で紹介した風景が想像できます。岡本神草日記を読んでみたくなりました。

10.友禅の筒描きという技法(染織・土谷菜生さん)

田島達也さんのXより / Via Twitter: @tajimaxG

一見すると布にペンで書いたように見えますが、実は「友禅の筒描き」という技法で書かれた作品。

糊と染料を混ぜたものを、生クリームを絞るような道具で絞り出しながら文字にしているそうです。それを蒸して洗い、この姿になったとか。「丁寧なしごとぶり」という田島さんの感想も納得です。

「ないだろうと思っていることをやるのが芸大生」田島さんに今年の感想を伺うと……

――楔形文字が来たときは、どう思われましたか?

去年ヒエログリフが来た時に、こうなったら次は楔形文字かも、とつぶやいた時点では冗談のつもりでした。粘土板や文字の質感を再現するのは難しそうなので。

しかし、 ないだろうと思っていることをやるのが芸大生 だということを甘く見ていました。作者は陶磁器専攻なので、粘土は得意なんですね。内容の方は、楔形文字と日本語の音は1対1対応ではないので、頑張って読んだのですが、充分解釈できたかよくわかりません。高校時代に読んだマンガの話が出てきて、見た目とのギャップにまたやられました。

――伝書鳩や交換日記など、学生の方々の柔軟な発想にとても感心しました。

昔の通信の一種である伝書鳩が来たときには「大喜利か!」と思いましたが、アイディアだけでなく、木彫の鳩のクオリティの高さに驚きました。

一般大学でも面白いレポート出す例はあると思うのですが、美術作品といってもよい物を惜しげもなく出してしまうのは芸術大学ならではだと思います。


――研究室に手紙を展示していたとのことですが、どんな反応があったのでしょうか?

去年の秋に大学が移転して、郊外から京都駅のすぐ横にやってきました。授業レポート提出後には「作品展」があり(普通の大学では卒業制作展ですが、この大学では全学年が作品を出品します)、新キャンパスを会場に盛大に行われました。

私の個人研究室も芸術学の展示室の隣にあったので、今年は便乗して手紙の実物の展示を行いました。急きょ私の気まぐれで行ったことですが、いろいろな人に見てもらえました。中には遠くからわざわざこの手紙のために京都まで来たという方もいらして恐縮してしまいました。

――SNSの反応を見てどのように感じましたか?

Xのコメントの中には、「今年も楽しみにしていました」とか「またこの季節がきたか」のように、恒例行事というか、風物詩のように感じられた方も多かったようです。

それはとてもうれしいことではあるのですが、私としてはSNSも展示も、自分一人で見るのがもったいないから、というくらいの気持ちでやっていますので、 あまりハードルを上げずに見守っていただけたら と思います。

・・・・・・
提出されたレポートを見ると、学生さんたちにとっても有意義な授業であったことが目に浮かぶよう。こんな授業を受けてみたいですし、自分でもこのレポートなら作ってみたいと思うような作品ばかりで、見ているだけでも楽しくなってくるレポートです。