お店には時に予期せぬ訪問者がやってくることがあります。三重県南部の漁村にある本屋さん『トンガ坂文庫』では、とある雨の日、可愛いお客さんが雨宿りをしにやって来たと言います。

入口の前に座っているのは、キジトラ模様にオレンジ色の毛が混じった、いわゆる「麦わら猫」と呼ばれる柄の猫ちゃん。耳を水平方向に伏せた「イカ耳」状態になっていることから、少し不安を感じている様子がうかがえますが、雨が降ってきて困っている気持ちが滲み出ているようにも感じられる表情で、思わず何とかしてあげたくなってしまうシチュエーションです。

店主さんがこの写真をSNSのXに投稿したところ、13万件を超える”いいね”が付くほどの大反響。写真を見たユーザーからは「可愛いお客様が来ましたね」「申し訳無さそうな顔がかわいい」「うちにも来て欲しい…」「後日お礼の品が届きそうですね」などたくさんのメッセージが寄せられて注目を集めています。

猫ちゃんに「ゆっくりしていってね」と声を掛けたくなってしまいそうな光景ですが、一体どのような経緯でお店にやって来たのでしょうか。店主さんに直前の状況を聞いてみると、時間帯はお昼ごろ、外には雨がしとしと降っていて、お店の玄関を網戸にしたまま自身はパソコンで仕事をしているところだったと言います。

その最中に「雨なのでお客さん少ないかな〜」と思いながら、ふと玄関口に視線を移すと、網戸越しに猫の姿を発見してビックリ。猫ちゃんはじっとこちら側を見つめていたことから、「雨なので雨宿りにきたのかしら」と思って網戸を開けてあげることに。すると、お店の中に入ってきた猫ちゃん。よっぽど疲れていたのか、土間から上がるとすぐに香箱座りをして目を閉じてしまったと言います。

まるでお客さんのような振る舞いの猫ちゃんですが、実は店主さんとは過去に面識があったようです。この猫ちゃんはお店の近辺を縄張りにしているのか、数ヶ月に一度くらいの頻度で見かけることがあり、以前も網戸越しに覗いてきたことから、お店の中に入れてあげたことがあったのだとか。身体には絶対触らせてくれなかったけれど、割と近くまで寄って来てくれたそうです。

とは言え、それは1年以上前の出来事。久しぶりすぎる訪問に「ちょっと雨宿りさせとくれ、くらいの感じだったのでしょうか…何か食べ物が欲しかったのかもしれませんが。」と、今回猫ちゃんが来店した理由を推測してくれました。

この後、15分ほど滞在していた猫ちゃん。しかし、人間のお客さんがやって来くるとビックリして、お店から飛び出して行ったのだそう。束の間の雨宿りでしたが、人前で目を閉じる行為は警戒心が薄れている証拠。店主さんとの距離は少しずつ縮まっているのかもしれませんね。

この地域は漁村であるためか、お店の周囲には野良猫が多く暮らしていて、保護しても追いつかないため数がなかなか減らない状況。鳥が落とした魚などを口にくわえて走る「お魚くわえたドラ猫」的な光景もたまに遭遇するのだとか。

今回インタビューに応じてくれたのは『トンガ坂文庫』の店主である本沢さん。

同店は三重県尾鷲市(おわせし)にある漁村、九鬼町の小さな路地「トンガ坂」にぽつりとたたずむ本屋さんで、古本と新刊本を取り扱っているお店。九鬼町は車が通れる道が一本しかなく、お店に辿り着くまで細い路地や石段を抜ける迷路のような道のりが続く一方、昔ながらの漁村の風景が残された風情を感じられる場所。「この風景と、本を楽しみに、是非遊びにきていただけたら嬉しいです。」と語る本沢さん。

6月14日〜16日の3日間は、三重県の古本屋や新刊本屋が集まる県最大の書籍イベント「ホンツヅキ三重2024」が開催予定。2022年にスタートして今では初夏の風物詩ともなりつつあるイベントで、「各店気合いが入っておりますので、たくさんの方に知っていただけたら嬉しいです。」とメッセージを寄せてくれました。