気づけば子どもが何時間もタブレットやスマホを見ている。だから「ゲームを止めさせればいい」という話ではありません。大人が「子どもとゲーム」の関係にどう向き合うか。30年前に「ゲームは1日1時間」と唱えた高橋名人に聞きました。(全4回中の4回)

オックスフォード大学が解き明かしたゲームの影響

── ゲーム会社ハドソンの社員で、「16連射」で子どもたちの憧れだった高橋名人。社員時代、早い段階からゲームと子どもの関係について考えていたそうですね。

高橋名人:はい。そのままにしておくと、子どもは5〜6時間と、平気でゲームで遊んじゃいますからね。

「ゲームは1日1時間」と私が言ったため、「名人がこう言っているんだから、1時間にしておきなさい」と、子どもに言う親御さんも多かったんです。

── 最近はスマートフォンもありますから、より簡単にゲームできる環境になりました。

高橋名人:かなり幼少期から、iPadやスマートフォンを子どもに与える家庭が増えたので、小さな画面を操作することに抵抗のないお子さんも増えました。

家事で忙しいときに、子どもにタブレットなどを渡して動画を見せる親もいるでしょう。それが悪いという話ではなく、このあたりはどう考えるべきか、たちどまってみてもいいかもしれません。家庭内のコミュニケーションや脳の発達などの観点から、さまざまな意見もあると思います。

── 名人はゲームをする時間が長いことについてはどのようなお考えを?

高橋名人:ゲームだけしているというのは、子どもにとってすごくもったいないです。

いろんなことに挑戦して、たくさん経験して、そのなかで「これをやりたい」と方向性が決まればそれを頑張る。これが小学生の時期の過ごし方ではないでしょうか。あとは、親が後ろから少し背中を押してあげられればと思います。

── 名人の子どものころは何が楽しいと感じましたか?

高橋名人:私の小学1年生のころのプレゼントは、分厚い世界童話全集みたいなセット。漢字が多くて、ルビもふられてなくて、すべてを読み終わったのは小学校5年生のころ。それでも本を読むのが楽しくて、懸命に読みました。

ゲームでもいいのですが、他に興味ありそうなものがあれば少し与えてみるとか、1時間たったら休憩して別のことをやってみるとか、親が少しずつ試しながら関わってみてはどうでしょうか。大切なのは親が放任せず、何かしら関わり続けることです。

── たしかに、子どもにゲームを与えっぱなしにしたら、やめません。

高橋名人:考え方を変えて、一緒にゲームをするのもひとつの手では?たとえばYouTubeを見るのもいいのですが、時間をかけて一緒に見て、親子で感想を言い合うとか。

やはり、コミュニケーションに尽きると思います。コミュニケーションがなくてつまらないからゲームに入り込むこともあるかもしれませんし、ゲームより楽しいことや向き合うべきことがあれば自然にそっちに行きますから。

本当はゲーム業界の人間が、こんなこと言っちゃいけないんでしょうけど(笑)。

── その意味では、1985年に名人が発した「ゲームは1日1時間」というメッセージはすごいですね。

高橋名人:2014年に、オックスフォード大学の研究チームが「1日1時間以内のビデオゲームは子どもにいい影響を与える」という研究結果を、小児科学の専門誌『Pediatrics』に発表しました。

調査結果によると、ゲームをプレイしない子どもと比較すると、ゲームを1日1時間以内する子どもは生活への満足度が高く、社交的だそう。

一方で、1時間以上プレイする子どもは、落ち着きがなくなったり、注意力が散漫になったりする傾向があるそうです。研究チームは、その理由は「ゲーム以外の活動の機会を逃し、子どもにふさわしくないゲームに触れているからではないか」としていました。

この研究結果によって、30年くらい前に私が直感で言ったことが、学術的に裏づけられてちょっと嬉しかったです。

名人が嫌いでやらないゲームとは「オススメは…」

── 名人は正しかった!ところで、ゲーム業界の方に聞くのもどうかと思いますが、ゲームを買ってほしいと子どもに言われたらどうしたらいいでしょうか?

高橋名人:私自身は、ゲームは買ってあげていいと思いますよ。ただ、1日何時間までなど約束ごとは決めておいたほうがいいですよね。それも、親が一方的に決めるのではなく、子どもの希望も聞きながら話し合えばいいと思います。

── いろんな種類のゲームがありますが、ゲームの選び方についてご意見はありますか?

高橋名人:「桃太郎電鉄」なんかは地理を覚えるからいいですよね。

個人的には、シューティングゲームで人間対人間のゲーム、銃をとって人間を撃つゲームは大嫌いです。私もシューティングゲームはやりますが、ウルトラマン世代なので地球防衛軍として巨大な怪獣やロボットなんかを倒すタイプのゲームならいいかなと。

ゲームのチョイスを子どもに任せるだけでなく、親御さんも一緒に選んだらどうでしょうか。ゲームの知識も少し必要になりますが、ある程度の判断は親がしてもいいと思います。

ブームのときに使った人も多い当時のシュウォッチ (C)Konami Digital Entertainment

──「桃太郎電鉄」以外に、おすすめのゲームはありますか?

高橋名人:例えば「マリオパーティ」みたいに家族みんなで遊べるゲームも含めたらいいのでは?マリオパーティは同時に4人で遊べます。

やっぱり大人も一緒になって楽しむのが大事かな。週1回はお父さんと一緒にゲームをやることにして、そこにきょうだいやおじいちゃんが加わってもいいですよね。

子どもができないところをお父さんが「貸してみて」ってクリアして見せて、一気に尊敬の念が集まったという話もよく聞きます。逆に、子どもがお父さんに教えるために一生懸命、ゲームのやり方を話すのもコミュニケーションになりますから。

── ゲームで世代をこえて、協力したり教えあったりできますものね。ちなみに、名人は、いまどのくらいゲームをしていますか?

高橋名人:配信の仕事があれば1日2時間ほどしますが、レトロゲームだと1日30分くらいですね。他に読みたい本もあるし、楽しいことがほかにもいっぱいありますから。

ゲームは「親や祖父母」をつなぐ楽しい素材になる

── ゲームより楽しいことがいっぱいある。そんななかで、あえてゲームのよさとは何だとお考えですか?

高橋名人:僕は、けっこう趣味が多いんですよ。読書、映画鑑賞、プラモデル、バイク。どれも楽しいんだけど、ゲームはプレイを見ながら「周りの人」も楽しめるのがいいですよね。年齢関係なくみんなで楽しめます。 以前、80〜90歳のおばあちゃんが1日1回ファミコンの「ボンバーマン」をクリアするというニュースがありましたが、それは最高ですよね。

ブームを巻き起こした当時の高橋名人

こんなニュースを見たら、孫やひ孫が遊びに行っておばあちゃんと一緒にゲームするでしょう。孫が「おばあちゃん、コントローラー貸してみて」と言って教えることもできるし、やっぱりゲームって“素材”だと思います。

── ゲームはひとりでするイメージでしたが、世代を超えたコミュニケーションにも向いていますね。ゲームはこれからどうなるんでしょうか?

高橋名人:ゲームは今後もどんどん進化します。ゲームの進化によって、産業に活かせるものも生み出されました。

フライトシュミレーターや自動車教習所のドライビングシュミレーターは、ゲームの進化の賜物ですよ。だから、ゲームの進化はこれからも必要です。あとは人間がどう生かすかだと思います。

PROFILE 高橋名人

1982年にハドソン入社。ゲームの営業から開発まで様々な業務に携わるなか、1985年に「第1回全国ファミコンキャラバン大会」のイベントにて「名人」の称号を確立。以降、当時のファミコンブームを追い風に「ファミコン名人」としてTV・ラジオ・映画に出演。ゲーム機のコントローラのボタンを1秒間に16回押す「16連射(連打)」で有名。

取材・文/岡本聡子 写真提供/高橋名人