◇本城雅人コラム「ぱかぱか日和」◇5日 「第29回NHKマイルC」(G1・東京・芝1600メートル)

 ジャンタルマンタルの川田騎手は難しい競馬をして勝利した? ゲートのうまい川田騎手だけにスタートは出るだろう。しかし行き切るほどの逃げ馬ではないし、16番枠であるため、先行馬が多くて前が密集したり、道中のペースによっては前に壁を作れずに、ずっと外側を走らされる可能性はあった。

 やはり一番いいスタートを切った。ただし他の馬との絡みで走路は外になる。スピードがあるし、馬は口を開けていたから、引っ掛かるのではと心配した。だが川田騎手は、見事にジャンタルマンタルを折り合わせる。

 さらに素晴らしかったのが4角のコーナリングから直線途中にかけてだ。最大のライバルであるアスコリピチェーノにコースを与えなかった。その結果、アスコリピチェーノは厳しいインを狙うしかなくなった。川田騎手がしたのはけっして難しい競馬ではなく、トップジョッキーならではの高度な競馬だった。

 2世代前にスターズオンアース、1世代前にソールオリエンスを輩出し、復活の兆しが見えてきた社台ファームにとっても、未来につながる勝利だ。社台系とひとくくりにしてしまうが、もはやノーザンファームとは完全に別組織。スタリオンは共有していても、つける種牡馬はそれぞれ特徴があるし、従業員はライバル意識しかない。

 ノーザンファームが関西では「ノーザンファームしがらき」を拠点に成績を挙げてきたが、社台ファームも今年6月、三重県鈴鹿市に「社台ファーム鈴鹿」を開場する。もちろん主要スタッフは東の拠点、山元トレセンで経験を積んだ人が中心になるのだろうが、新しい人も加わるはずだ。

 ジャンタルマンタルが鈴鹿に短期放牧に出ると決まったわけではない。けれどもマイルの怪物と呼べる大物が誕生したのだ。同馬が社台ファーム全体の士気を上げ、一流馬に触れることになれば、スタッフの次への経験に生きる。 (作家)