将棋の第82期名人戦7番勝負第3局が8、9日、東京都大田区の羽田空港第1ターミナルで指され、先手の藤井聡太名人(21)=竜王・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖との八冠=が挑戦者の豊島将之九段(33)を95手で下して3連勝とし、初防衛に王手をかけた。持ち時間9時間のうち消費は藤井名人が6時間49分、豊島九段が8時間22分。両者の対局成績は藤井名人の25勝11敗、直近12連勝となった。第4局は18、19日に大分県別府市の「割烹旅館もみや」で指される。

 文字どおりの完勝だった。終盤まで形勢が二転三転した前2局と違い、藤井名人が1日目午後からリードを奪うと、徐々にその差を広げて押し切った。1日目、豊島九段が34手目に昼食休憩を挟んで107分の長考で開始位置にいた玉を左へ寄ると、藤井名人はこの玉に狙いを定めたかのように2筋に出ていた銀を1筋へ進出する「棒銀」で攻撃を仕掛けた。

 「銀を出ていかないと、こちらも主張がなくなってしまう」と戦型選択の理由を明かす藤井名人。巡ってきた封じ手では定刻を20分過ぎるまで考え、1筋から相手陣をにらむ角打ちで銀の攻めを補強することに。これで相手の守りの金と自身の攻めの銀を交換し、さらに竜をつくって棒銀が成功。「ペースをつかめた」と手応えを話した。

 それでも「どういう構想でいくか」と中盤以降の攻めを構築。相手玉をにらんでいた角を3筋へ回って今度は反対側にいる相手の飛車を狙うという「B面攻撃の狙いで進めてみた」。自身は「うまくいっているかどうかは微妙」と形勢判断に迷うところもあったようだが、狙い通りに相手の飛車を押さえ込み、83手目の飛車銀両取りに打った金で「主張が通った」と勝利を確信。自玉は安全のまま再び2筋から相手玉を攻め、王手をかける前に夕食休憩明けからわずか15分、3手で豊島九段を投了に追い込んだ。

 普段ならば局後に「難しい」「悪い形」を連発する藤井名人が、肯定的なセリフばかりをならべたところに本局の会心ぶりがうかがえた。2日には同時進行の叡王戦5番勝負第3局で同学年の伊藤匠七段(21)に敗れ、1勝2敗とタイトル戦では初めて先に王手をかけられて1週間。「対局室からも飛行機の離着陸の様子が見えて、リフレッシュすることも多かった」と、珍しい空港施設での対局も力に変えた。

 第4局は18、19日と「すぐあるのでしっかり準備をしていきたい」と決意を語った。名人位をストレートで防衛できれば、ダブルタイトル戦の呪縛を解かれ、かど番の叡王戦第4局(31日)対策に10日間以上、専念できる。