◇中央競馬コラム「ターフビジョン」

 先週掲載した熊沢重文元騎手による武豊騎手への日本ダービー直撃インタビューに同席させてもらった。熊沢さんは56歳、武豊騎手と記者は55歳。同年代でもあり、2人を交えた話は楽しく、自然と弾んだ。

 武豊は熊沢さんのJRA競馬学校1期後輩だ。もちろん昭和世代。当時はさぞや厳しい先輩、後輩の関係だっただろう。そう思っていた。ところが武豊は「熊沢さんを含めて2期の先輩は優しかったですよ。怒られた記憶はないですねえ」と懐かしく笑った。

 熊沢さんによる鋭いインタビューの話題は武豊のJRA通算4500勝達成にも。熊沢さんの「次の目標は」の問いに、武豊は「1勝、1勝が目標ですね」と即答した。当たり前のような答えだが、55歳のベテランが話すと重みは増す。

 2人とも50代という年齢をまったく感じさせない。原動力は日頃のケアと競馬に対する意欲だろう。「やっぱり年齢が年齢だから。体のメンテナンスには気を付けています」と衰え知らずの武豊はこう言う。

 熊沢さんは、けがが原因で昨年引退したが、武豊が「けがさえなければ、まだ乗ってたでしょ」と問うと、熊沢さんは「お医者さんに止められていなかったら乗ってたよ」と即答。やはり気持ちが若い。

 日本ダービーで武豊のシュガークンは7着と結果を出せなかった。ただ、スローペースを瞬時に見抜いてスッと好位へと取り付けたあたりはさすが。それ以上の読みと絶妙なコース取りでダノンデザイルを勝利に導いたのは熊沢さんと同期、56歳の横山典騎手だった。

 「競馬業界のわれわれ世代の人は、みんな若いですよ」というインタビューでの武豊の話を思い出した。確かな経験に裏打ちされた頭脳は大きな武器。ベテランの活躍はやはりうれしい。 (大野英樹)