アーティストと市民パフォーマーでつくるOeshikiの音。ツアーパフォーマンス『BEAT』開催へ

アーティストと市民パフォーマーでつくるOeshikiの音。ツアーパフォーマンス『BEAT』開催へ

〈Oeshiki Project〉から見る東京のローカルの未来 vol.4

雑司が谷に江戸時代から伝わる伝統行事「御会式(おえしき)」を軸に展開するアートプロジェクト〈Oeshiki Project〉。その背景やプロセスを、劇作家であり、このプロジェクトのディレクターである石神夏希さんが紹介していきます。

自分たちのOeshikiを立ち上げる

1年以上かけて準備してきた〈Oeshiki Project〉も、いよいよ本番間近。前回の記事では昨年、初めての御会式を体験したあと、『BEAT』というツアーパフォーマンスを着想した話を書いた。

天皇のご病気で御会式が自粛になった昭和63年、我慢できなかった人たちが、家の中で太鼓を叩き出し、だんだんと音が集まって、小さいながらも「御会式」をやっ(てしまっ)た。

太鼓の魔力と魅力は世界共通。古今東西、さまざまな儀式や祭りに用いられてきた。(写真:鈴木竜一朗)

太鼓の魔力と魅力は世界共通。古今東西、さまざまな儀式や祭りに用いられてきた。(写真:鈴木竜一朗)

御会式は、誰かに言われてやるものじゃない。地域の決まりだから参加するのでもない。明確なルーツがあるわけでもない。文化も言葉も違う、さまざまな地方から集まった江戸の庶民たちの間から、自然発生的に生まれたビート。それが伝わって、広がって、やりたい人がいるから「伝統」として続いている。

Oeshiki Projectツアーパフォーマンス『BEAT』は、御会式の当日10月16日(水)〜18日(金)に上演される。

Oeshiki Projectツアーパフォーマンス『BEAT』は、御会式の当日10月16日(水)〜18日(金)に上演される。

そんな、「はじまりの御会式」を見たい。だから『BEAT』では、現代の東京に国境を越えて集まったトランスナショナルな「東京市民」のパフォーマーたちと、当日やってくる観客(参加者)たちと一緒に、自分たちの手でOeshikiを立ち上げてみたいと思った。

御会式で用いる団扇太鼓。(写真:鈴木竜一朗)

御会式で用いる団扇太鼓。(写真:鈴木竜一朗)

それに、雑司が谷の人たちと、新しく来た人が伝統文化を教わるという関係じゃなくて、異なる文化を持った者同士として対等に出会いたい。だから太鼓の曲も、衣装も、万灯も、自分たちでやってみる。まち中を練り歩き、最後に、雑司が谷の御会式に合流する。そのとき初めて、江戸から続くビートの奥行きも、実感できるんじゃないだろうか。

約50名の「東京市民」パフォーマーたち

雑司が谷の各講社の人数は、それぞれ数十人〜200人くらい。Oeshikiをつくるにあたって、私たちも100本以上の太鼓が必要だと考えた。

そのコアになる人たちとして、シャオクゥ・ツゥハンのリサーチを通じて出会った中国系の人たちをはじめ、池袋を中心とした「トランスナショナル」ーーつまり国境を越えて東京で暮らす人たちに、パフォーマーとして集まってもらった。その数、約50名。

複数の国籍のルーツを持つ「トランスナショナル」な市民パフォーマーたちが集まった。(写真:鈴木竜一朗)

複数の国籍のルーツを持つ「トランスナショナル」な市民パフォーマーたちが集まった。(写真:鈴木竜一朗)

別の国から来て日本で学んだり働いたりしている人、国籍と違う国で生まれ育った人、両親のルーツと自分の国籍が違う人、生きている途中で国籍が変わった人もいる。

彼らをひとつの言葉で束ねることがためらわれる。でも言葉にしないと何も伝わらないので、「国境を越えて生きる東京市民」という意味で「トランスナショナルな市民パフォーマーたち」と呼ぶことにした。

アーティストが作曲する、Oeshiki太鼓曲

『BEAT』では、音楽がすごく重要な役割を持つ。そこでクリエーションチームのひとり、音楽プロデューサーの清宮陵一さんディレクションのもと、世界の民族音楽にも詳しい〈LITTLE CREATURES〉の青柳拓次さんに作曲をお願いした。

9月のとある週末。市民パフォーマーたちと、清宮さん・青柳さんの音楽ワークショップがあった。

『BEAT』のために太鼓曲を作曲してくれた、青柳拓次さん。(写真:鈴木竜一朗)

『BEAT』のために太鼓曲を作曲してくれた、青柳拓次さん。(写真:鈴木竜一朗)

最初に、それぞれの音楽経験を話す。ピアノやギターをやったことのある人が多かったけど、子どもの頃から伝統楽器をやっていた人や、ラップをやっているという人もいた。

写真:鈴木竜一朗

写真:鈴木竜一朗

でも日本に来てから、忙しくて音楽をやめてしまった人も結構いる。そしてみんな、カラオケが大好き。

小学生のKくんは「太鼓の達人」でアニメソングを叩くのが好きだそう。(写真:鈴木竜一朗)

小学生のKくんは「太鼓の達人」でアニメソングを叩くのが好きだそう。(写真:鈴木竜一朗)

今回、パフォーマーたちは複数のグループに分かれて、池袋のまちの各所で太鼓を演奏する。各グループのため、青柳さんが複数パターンの太鼓曲をつくってきてくれた。

音楽ワークショップは、閉校した中学校の音楽室で行われた。(写真:鈴木竜一朗)

音楽ワークショップは、閉校した中学校の音楽室で行われた。(写真:鈴木竜一朗)

これが、なかなか難しい。でも初めて会った人同士も、一緒に練習したり、得意な人が苦手な人に教えたりしているうちに、一体感が生まれてきた。最後は、太鼓を打ちながらぐるぐると歩いてみる。音が変わる瞬間というか、グルーブ感の芽生えを感じた。いい感じだ。

大勢で歩きながら叩く太鼓のグルーブ感、気持ちがいい。(写真:鈴木竜一朗)

大勢で歩きながら叩く太鼓のグルーブ感、気持ちがいい。(写真:鈴木竜一朗)

御会式のビートに出会う

そして翌週。練習した太鼓曲を持ち寄って、数十人で一緒に演奏してみる実験を行った。

ベトナム、モンゴル、タイ。さまざまな国からやってきた市民パフォーマーたち。(写真:鈴木竜一朗)

ベトナム、モンゴル、タイ。さまざまな国からやってきた市民パフォーマーたち。(写真:鈴木竜一朗)

パフォーマーのみんなは、本格的な劇場空間にやや緊張した面持ち。でもグループごとに「自分の好きな歌」について話し始めると、だんだんとリラックス。誰かが母国の歌を歌い出すと、同じ国の人が一緒に歌い出して、自然と合唱になる場面も。

太鼓の練習は真剣そのもの。(写真:鈴木竜一朗)

太鼓の練習は真剣そのもの。(写真:鈴木竜一朗)

清宮さん指揮のもと、太鼓を打ちながら、劇場の中をぐるぐる歩く。これを池袋の公共空間に持っていったときに、どんな音の渦が生まれるのだろう。楽しみ。

音楽プロデューサーの清宮陵一さん。『BEAT』では音楽面のディレクションを担う。(写真:鈴木竜一朗)

音楽プロデューサーの清宮陵一さん。『BEAT』では音楽面のディレクションを担う。(写真:鈴木竜一朗)

写真:鈴木竜一朗

写真:鈴木竜一朗

そして今日は、御会式連合会の会長・川井誠さんと、仲間のみなさんにも来てもらった。はじめにみんなの練習を見てもらったあと、御会式の太鼓を教えてもらう。

連合会会長・川井さんの御会式パフォーマンスは圧巻。(写真:鈴木竜一朗)

連合会会長・川井さんの御会式パフォーマンスは圧巻。(写真:鈴木竜一朗)

御会式の太鼓の起源は、江戸時代と考えられている。が、明確な由来はない。お題目を唱えながら太鼓を叩いて踊るのが若者の間で流行し、鬼子母神境内で教えたりするようになったらしい。練行列で歩いていたのは職人たちが中心で「一貫三百どうでもいいよ」(一貫三百=当時の日当)と歌いながら歩いていたという。

川井さんと同じ講社のみなさん。私たちの練習のため、会社帰りに駆けつけてくれた。(写真:鈴木竜一朗)

川井さんと同じ講社のみなさん。私たちの練習のため、会社帰りに駆けつけてくれた。(写真:鈴木竜一朗)

川井さんも鳶の親方だ。音だけでなく、太鼓を打つ身振りや歩き方も含めた御会式パフォーマンスの迫力に、圧倒される人、スマホで録画する人、一緒に踊りだす人……。御会式の太鼓はなかなか難しいので、練習中はみんな、真顔だったけど、終わったあと「楽しかった!」と帰っていく顔を見て安心した。

「腰を落として、音に合わせて体を揺らしながら叩く」という川井さんのアドバイスに挑戦。(写真:鈴木竜一朗)

「腰を落として、音に合わせて体を揺らしながら叩く」という川井さんのアドバイスに挑戦。(写真:鈴木竜一朗)

あとで川井さんから「パーフェクトでした」とメッセージが届いた。雑司が谷の人たちに、聴いてもらうのが楽しみだ。

不寛容な公共空間を超えて

市民パフォーマーのみんなが太鼓を練習している頃。クリエーションチームは、池袋の公共空間でOeshikiを立ち上げるべく、奔走していた。

夜の繁華街を、太鼓を打ちながら歩いてみる。

夜の繁華街を、太鼓を打ちながら歩いてみる。

「空間資源活用ディレクター」という肩書で参加している、建築家の嶋田洋平さんと、リサーチメンバーの松本慕美さん。今回、池袋の都市空間をパフォーマンスの舞台としてどう使うか、一緒に考えてくれている。

公共空間でパレードを行う場合、警察の許可が必要だ。雑司が谷の御会式も明治通りと目白通りを半分封鎖して練り歩く。警察の警備体制は「デモ行進」と同じ扱いになるらしい。

私たちも最大人数でパレードをする場面では、警察の許可を得ている。だけどそれ以外の場面で、許可の要らない範囲で、公共空間をどう自由に使えるのか。

団扇太鼓を片手に、池袋の街角に佇む松本さん。

団扇太鼓を片手に、池袋の街角に佇む松本さん。

前回も紹介した調査によれば、日本の人たちは「外国人」が集団で騒いだり、夜中に大きな音を出すことを控えてほしい、と思っている。

でも「子どもの声がうるさい」という理由で反対され、保育園建設が頓挫する、というニュースもあった。不寛容な都市空間では、少数派が攻撃されやすい。

一方で、シェアハウスなど、共同生活を好む人も増えている。隣家の生活音は、知っている人なら安心感につながるけれど、顔の見えない関係だと「騒音」になってしまう、という話も聞く。

雑司が谷の路地。軒と軒が触れ合うような距離感で、家の玄関が向き合っている。

雑司が谷の路地。軒と軒が触れ合うような距離感で、家の玄関が向き合っている。

清宮さんは、法明寺ご住職が御会式の太鼓について話した「順縁」と「逆縁」のお話が、強く印象に残ったようだ。

御会式の太鼓には、「知らせる」「ご縁を結ぶ」という意味があるという。もとは、仏の教えを学ぶ集会の開催を知らせるために太鼓を打ったり、読経をしながら太鼓を打つ行為だった。やがて、「その音を聴くだけでお経を読むのと同じ意味がある」、「偶然その音を耳にした人まで仏縁が結ばれる」といった考えが生まれたようだ。

お題目が書かれた太鼓は、打つことに読経と同じ意味がある。(写真:鈴木竜一朗)

お題目が書かれた太鼓は、打つことに読経と同じ意味がある。(写真:鈴木竜一朗)

ただし、その「ご縁」には「順縁」と「逆縁」があると、ご住職からお聞きした。順縁のほうは「(対象を)受け入れる心」、逆縁のほうは「抗う、反発する心」といった違いがあるそうだ。「音楽」と「騒音」の違いにも、似ているような気がする。

私たちのOeshikiの太鼓が、まちを行く人たちと順縁と逆縁のどちらを結ぶのか。自分だけでは選べない。でも、できることなら順縁を増やしたい。

どこなら叩きやすいのか、周りも受け入れやすいのか、実際に叩いてみるまでわからない。

どこなら叩きやすいのか、周りも受け入れやすいのか、実際に叩いてみるまでわからない。

どこで、どんなふうに太鼓を叩けば、叩くほうも聴くほうもお互い楽しいのか。なかなかハードルの高い挑戦ではあるが、団扇太鼓を片手に、夜な夜な池袋のまちを歩き回った。

松本さん曰く「いままで、“太鼓が叩きやすいかどうか”という視点でまちを見たことがなかったので、すごく新鮮です」。私もです。

最初は恥ずかしいけど、だんだんと楽しくなってくるから不思議。

最初は恥ずかしいけど、だんだんと楽しくなってくるから不思議。

今回、参加する市民パフォーマーにとっても、観客にとっても、そんなふうに、まちを新鮮に感じられる体験になったらいいな、と思う。知っていると思っていた池袋のまちが、まるで異国のように感じられたらいい(多くの市民パフォーマーたちにとっては、実際に異国なのだが)。

この連載のvol.1で、2014年に「消滅可能性都市」に選ばれた豊島区は、ガンガン成長している都市より「やさしい場所」になれる可能性を持っているのでは、と書いた。余白があって、おおらかで、いろいろな人が「自分がここにいてもいいんだ」と思えるまちに。

このプロジェクトは、池袋が、東京が、そんなまちになってほしい、という「願い」を込めた、小さな社会実験なのかもしれない。

information

東アジア文化都市2019豊島〈Oeshiki Project〉 ツアーパフォーマンス『BEAT』

会期:2019年10月16日(水)〜18日(金)18時開演

作:石神夏希、シャオクゥ × ツゥハン

音楽ディレクター:清宮陵一

ドラマトゥルク:安東嵩史

空間資源活用ディレクター:嶋田洋平

作曲:青柳拓次

衣装:矢内原充志

照明:上田剛

リサーチ・制作:ペピン結構設計ほか

協力:威光山法明寺、御会式連合会ほか

https://www.beat-oeshiki.jp

writer profile

Natsuki Ishigami

石神夏希

いしがみ・なつき●東京都生まれ、神奈川県育ち。劇作家。〈ペピン結構設計〉を中心に活動。近年は国内各地や海外に滞在し、都市やコミュニティを素材とした演劇やアートプロジェクトを手がける。『Sensuous City[官能都市]』(HOME'S総研, 2015)等調査研究、NPO法人〈場所と物語〉代表、遊休不動産を活用したクリエイティブ拠点〈The CAVE〉設立など、空間や都市にまつわるさまざまなプロジェクトに関わっている。「東アジア文化都市2019豊島」舞台芸術部門事業ディレクター。


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