リバーバンクの森をひらく

2010年から「グッドネイバーズ・ジャンボリー」というフェスを、廃校を舞台に始めたことから、その廃校の運営まで手がけるようになりました。

鹿児島の南の森の中にあった旧長谷小学校が、いまから30年前に地域の人々の手によって〈かわなべ森の学校〉という名前で使われるようになりました。さらに僕らが引き受けて〈リバーバンク森の学校〉と名前を変えて運営を始めてから3年が過ぎました。森の学校とその周辺の森は、みなさんからクラウドファンディングの支援も受けて、開放的な自然体験施設として運営をしています。(以前の記事はこちら)

緑に覆われた校庭で自由にキャンプが楽しめる森の学校。

緑に覆われた校庭で自由にキャンプが楽しめる森の学校。

今もなお世界が苦しんでいる新型コロナウイルスの流行もあり、最近では森の学校も思うように活動できない日々が続きました。そんなところから、この場に愛着を持っていただいている人たちに協力してもらってクラウドファンディング(Camp Fireのプロジェクト)を行い、学校を取り巻く森の開拓に取り組んできました。

この森は40年ほど前まではいまほど鬱蒼とした森ではなく、畑としても利用されていてとても明るかった。当時の航空写真にその姿が残っています。

昭和30年代の森の学校の様子。

昭和30年代の森の学校の様子。

建材としての森。その問題点

その後、スギの木を1本植えるたびに補助金が出るというような戦後から続いた植林政策によって、人工林化が進んでいきます。なぜスギばかりかというと、スギは「まっすぐ」に育つことから「すぐ木→スギ」という名前の説があるように、当時は効率のよい建材として重宝されていたからという理由があります。つまり当時の山林を保有していた人たちにとっては財テクのひとつでした。

戦後からの高度経済成長期には人口も増え続け住宅も需要がたくさんあったものですが、現在ではその勢いも止まり人口減少期。また海外からの安い材木もどんどん入ってくるようになって、割高になってしまう国産材の需要もどんどん減り、伐採してもビジネスにならないので間伐もしない。間伐しないと材木としての質が下がり価値も低下してしまうのでさらに放置に拍車がかかる。日本中いたるところでスギの放置林が生まれているのはこうした理由です。

鬱蒼として立ち入ることもままならなかったリバーバンクの森。

鬱蒼として立ち入ることもままならなかったリバーバンクの森。

そもそも日本は先進国と呼ばれている世界の国のなかでも有数の森林国ですが、大部分がスギの森で、その多くが放置されているという状況。この学校の周辺の森も、それに「右に倣え」だったわけです。

森林組合により伐採作業中。

森林組合により伐採作業中。

材として使う目的のスギの森を育てる場合、1ヘクタール(100 x100メートル)に3000本ほど植樹して、それを少しずつ間伐して1000本ほどに減らしていきます。木にも優劣があるので競わせながらいい木を残すようにして育てていく。そこには長年培ったその地域ならではの林業の経験がものを言います。

林業を生業としている人たちと話すと、自分が植樹した木を自分で伐って材にするということはほぼなく、いま自分たちが製材している木は、1世代も2世代も上の先人が植えてくれたもの。人間が働く年数よりも木の時間ははるかに長いのです。先人が残してくれた財産を間伐しながら、大事に育てていい木をつくる。しかし建材としての需要減少と担い手不足から、こうした知恵も放置された森とともに失われつつあります。

この森をひらくにあたって、僕らは〈森のエネルギー研究所〉の佐藤政宗さんからいろいろと森のことを学ぶところから始めました。

グッドネイバーズ・ジャンボリー2020にて、佐藤政宗さん(左)、木工作家のアキヒロジンさん(中)と行われた、焚き火を囲んだトークショー。後ろの観客には働き方研究家の西村佳哲さんの姿も。

グッドネイバーズ・ジャンボリー2020にて、佐藤政宗さん(左)、木工作家のアキヒロジンさん(中)と行われた、焚き火を囲んだトークショー。後ろの観客には働き方研究家の西村佳哲さんの姿も。

スギの木自体が悪いわけではない

佐藤さんがまず教えてくれたのは、川辺地域の文化的な背景です。

「川辺は仏壇生産が有名です。発展した背景としては、もちろん宗教上の理由も大きいですが、豊かな森林資源があったからだと思います。仏壇本体の木地の材料には厳選されたスギ、マツ、ヒバ、ホオノキなどが使用されるそうです。明治初期には仏壇生産は盛んだったようなので、当時から川辺は豊かな森林を有し、森林は人間の生活と深く結びついていたのだと推察されます」

廃校前は、この学校に通う子どもたちは湧き水の小川が流れるこの森で虫やサワガニ、川エビを捕ったり、小魚が泳ぐのを観察したり、森の中で遊んでいたといいます。

それほどこの地域の自然環境は豊かでした。しかし、森自体が放置されてしまったことで下草も生い茂り、間伐されないため暗い森になって、踏み入れることも難しいほどになっていました。

立ち入ることも難しかった伐採前。

立ち入ることも難しかった伐採前。

再び子どもたちが安全に遊べる森にしていくにはどうすべきか。そうしたことを佐藤さんとも話し合いました。

「いまは花粉症の問題などもあってスギの放置林が全国的に問題視されていますが、スギ自体が悪いわけではない」と佐藤さんは言います。

問題はそれを放置してしまっている人間のほうにある。森の学校の周りの森は、いまや建材にするための森ではありません。であれば森に手を入れ、スギだけではなく木の実が落ちるいろいろな木を植えて多様な樹種を植樹して育てていく。そのためにまずは地元の森林組合の方々と一緒に間伐をして森を明るくし、散策できる道をつけ、開いた森にすることから始めました。

地域の森林組合の方々の協力のもと間伐を進める。

地域の森林組合の方々の協力のもと間伐を進める。

森に道をつくるところから。

森に道をつくるところから。

その後クラウドファンディングに参加してくれた人々や子どもたちも一緒に参加して植樹のイベントを開催し、80本の多様な木を植えました。今回植えた木は、タブの木やシイの木。これらはどんぐりを落とし、それを目当てに動物たちも集まってくるでしょう。美しい風景を想像してカエデやモミジも植えました。こうして植えた木々はまだまだ若く小さいですが、子どもたちが僕らの年齢になる頃には背丈を超え、また違った表情を見せる森になると思います。

佐藤さんもその価値を考えてくれます。

「これまで森林の価値は“木材をいかに効率よく大量に生産できるか”が指標になっていましたが、リバーバンクの森は“そこにあるだけで価値を生む森”になりつつあると思います。単純に散策したり、キャンプしたり、テントサウナしたり、その価値の生み方も実に多様です。こうした森林の活用は近年、“森林サービス産業”として国でも推奨されていますが、その成功例は非常に少なく、そういう意味でもリバーバンクの森はすでに価値ある森になっていると思います」

子どもたちも一緒に植樹に参加。

子どもたちも一緒に植樹に参加。

森を「クライマックス」の状態にしていきたい

この森と学校の間にはちょっとした崖があり、木製の階段とウッドデッキもできています。この材はこの森から伐採したものを(一部)乾燥させて使っています。長い年月で朽ちていったとしてもまた元の森に帰るよう、あえて表面の保護用の塗装のみ施して製作しました。

学校の校庭から森へと続く階段。

学校の校庭から森へと続く階段。

ウッドデッキはこれからも拡張する計画もあるので、この森はまだまだこれから開かれ成長していくことになります。

「森林の成熟段階のことを学術用語では“クライマックス“といいます。一般的にクライマックスという言葉は最高潮という意味で、それを境に終焉に向かっていくイメージを連想させますが、森林の分野ではクライマックスのことを安定期ともいい、完成された状態がキープされることが自然であるとされます。個人的な願いとしては、今まさに始まった森づくりがさまざまな人の営みの最高潮に関わりながら、何世代にもつながっていけばいいなと思います」と佐藤さん。

安定期=クライマックスなんておもしろい。こうしてこの森を僕らと一緒に見守り、森で遊ぶ仲間を増やすために〈リバーバンク森の学校 友の会〉というメンバーシップの仕組みもつくりました。

この仕組みを中心になって進めているのは事務局のメンバー、〈マチトビラ〉の末吉剛士と管理人の永山貴博です。ウェブ上の仕組みなどは、僕らの活動に賛同して遠く岩手県釜石市に暮らす松浦朋子さんが遠隔で参加して手伝ってくれています。

光回線が開通しオンラインミーティングも快適にできるようになりました。

光回線が開通しオンラインミーティングも快適にできるようになりました。

リバーバンク森の学校 友の会に参加してもらうと、校舎の貸し切りやキャンプなどの利用がスムーズにできるようになり、ここを自分の森として使っていくことができる、そんなコミュニティを目指しています。

ウッドデッキで森の中でも快適なキャンプ。

ウッドデッキで森の中でも快適なキャンプ。

森をシェアする

深い森に囲まれ、静かで広々した校庭と小川の流れる森の中のウッドデッキでのキャンプ体験は最高です。校庭と森の間を流れる小川には橋をかけ、湧き水が出ているポイントを重機で掘ってプールをつくりました。この小川にはいまでもサワガニや川エビ、小魚も生きていて、ここを訪れる子どもたちは嬉々として遊んでいます。

湧き水の小川のプールには小魚や川エビもいます。

湧き水の小川のプールには小魚や川エビもいます。

僕らはこの学校を引き受けたことで、日常的にこうした環境を楽しめるようになりました。せっかくなのでこの体験をたくさんの人にシェアしたいと思っています。

テントサウナでチルアウト。

テントサウナでチルアウト。

月額の会費を負担してコミュニティのメンバーになってもらえればキャンプ開放日は月に何度でも自由に利用ができます。今後は森の学校でのキャンプはメンバー限定となります。これは依然としてコロナ禍が続き、思いを共有し顔の見える人たちとこの場を守っていきたいという意味合いもあります。グッドネイバーズ・ジャンボリーなどのイベントで貸し切りになっているときもありますが、リバーバンクが企画するさまざまなイベントの情報もメンバーには優先的にお届けします。そして、川辺の地元の方にはさらに優先的に使っていただけるような仕組みも考えています。

山や森を買うことがちょっとしたはやりのようになっている昨今ですが、森を維持していくのは想像以上に大変です。でもリバーバンクの森であれば僕らも手を入れ整備しますし、みんなで森の使い方を考えていくという未来もありだと思います。そのためにキャンプファイヤーコミュニティやフェイスブックのメンバー限定のコミュニティページもつくりました。

リバーバンク森の学校 友の会のホームページより。

リバーバンク森の学校 友の会のホームページより。

メンバーシップはまだ始めたばかりなので人数は少ないですが、今後一定数に達したところで締め切る可能性もあります。リバーバンク森の学校 友の会に参加して僕らと一緒に新しい森の学校をつくっていけたらと思っています。

information

リバーバンク森の学校 友の会

Web:リバーバンク森の学校 友の会

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Shuichiro Sakaguchi

坂口修一郎

さかぐち・しゅういちろう●BAGN Inc.代表/一般社団法人リバーバンク代表理事音楽家/プロデューサー。1971年鹿児島生まれ。93年より無国籍楽団〈ダブルフェイマス〉のメンバーとして音楽活動を続ける。2010年から野外イベント〈グッドネイバーズ・ジャンボリー〉を主宰。企画/ディレクションカンパニー〈BAGN Inc.(BE A GOOD NEIGHBOR)〉を設立。東京と鹿児島を拠点に、日本各地でオープンスペースの空間プロデュースやイベント、フェスティバルなど、ジャンルや地域を越境しながら多くのプレイスメイキングを行っている。2018年、鹿児島県南九州市川辺の地域プロジェクト〈一般社団法人リバーバンク〉の代表理事に就任。