北海道岩見沢市の美流渡(みると)地区に移住して、本当によかったと思うことがある。私は自宅とともに、仕事場も同じ地区に借りていて、どちらも敷地は広く、何台か車をとめられるし、花火やバーベキューもできる(除雪は大変ですが!)。
北海道にやってきて驚いたのは、短い夏を惜しむかのように休日ともなれば、みんな外で頻繁にバーベキューを楽しんでいること。公園の専用スペースに行くのではなく、庭先でキッチンの延長線上のような感覚(!?)で行っている。我が家はアウトドア熱がまったくないので、年に1、2回しかしていなかったが、いつでもバーベキューができる環境があってこそ、実現したことがあった!!
仕事場の周囲。以前は住宅が建ち並んでいたが、その一部が取り壊され、空き地となっている。
昨年の夏からこれまで3回、陶芸作品を焚き火で焼く「野焼き」にチャレンジした。発端は、以前からずっと好きだった縄文時代の土器や土偶を自分で再現してみたいと思うようになり、近くで陶芸ができる施設に時々通って、2年間制作を続けていたこと。これまでその施設の電気窯で焼成をしてもらっていたが、そこが昨年休館となってしまった。
制作した土偶。施設の電気窯で焼成し、絵具で着彩して風合いを縄文土偶と近づけた。
ならば、縄文時代と同じ方法で焼成をやってみたらいいのではないか!バーベキューができる環境があるのだから!! と、あるとき思い立った。ネットで「土器」「野焼き」と検索すると、その方法は詳しく出ていたし、実際に野焼きをしたことのあるという友人からもアドバイスをもらうことができた。
野焼きの材料は周りにいくらでもあった!まずは手のひらサイズの土偶や耳飾りなどで試してみることにした。準備は、耐火煉瓦と廃材、そして家の周りの草を刈って干した藁(イネ科の雑草なので、ここでは藁と呼びます)を大量に用意しておいた。そして、重要なのはバーベキューとは違うので消防署への届出!!
縄文の耳飾りの再現。最大のものの直径は約10センチ! 耳たぶにピアス状の穴を開け、そこに耳飾りを入れて少しずつその穴を大きくしていったのではないかといわれている。
野焼きを行うことにした場所は、仕事場の家の裏にあった倉庫を撤去したあとのコンクリートの土台。ここに耐火煉瓦を四角く並べた。大物を焼くときは土に穴を掘って炉にするようだが、煉瓦のほうがお手軽で火のコントロールがしやすそうと考えたからだ(あくまでバーベキューのイメージで)。
レンガをロの字に組んだ。着火剤として使ったのは松ぼっくり。油分があってすぐに火がつく。
第1回は昨年7月初旬にトライ。早朝5時から準備を始めて6時頃の点火。最初は遠火で成形した粘土を、裏と表をひっくり返しながらゆっくり温めていく。
火を起こしていると、雨が降ってきた!
レンガの周囲に成形した粘土を置いた。燃やした木材はもらってきた建築の廃材。
雨はなかなか止まず、傘で炉をガード……。このあと、ようやく晴れた。
2時間ほど温めたので「もう大丈夫かな?」と思い、炉の中に粘土を入れ、上から藁をバサッとかけてみたところ……。バチバチバチと大きな音がして、いくつか大破(涙)。粘土の温まりがまだ不十分だったのかもしれない。また上から藁を重ねると、藁がすぐに燃え尽きてしまうこともわかった。
藁を被せたら一部の粘土が欠けてしまった!
なぜ藁を上から被せようと思ったのか。このとき私は、木材は粘土の温めに使い、その後、藁を中心に焼成しようと考えていた。ネットで各地の野焼きの様子を見ていると、大量の薪を使い、最終段階では激しい炎の中で粘土を焼き上げるという方法が多かった。
けれどなぜだか直感的に、縄文時代は木をたくさん燃やさずとも、もっと静かに焼き上げていたんじゃないだろうかという気がした(人力であれだけの木材を集めるのは、かなり大変だし)。そんなとき、友人から藁を積んで焼成している陶芸家がいると教えられ、私もその方法をやってみようと考えたのだ。
しかし、炉にあとから藁を入れてしまうと炎が急に高く燃え上がり、直火に当たった部分の粘土が割れてしまったので、木をメインに燃やす方法に切り替えた。ネットで調べた手順をもとに、炉で炭火をつくり、熾火(おきび:芯の部分が赤くなり静かに燃えている状態)の中に粘土を数時間入れ、真っ黒に色が変わった時点で、思いっきり火を強くして焼いてみた。
これはうまくいった。最初真っ黒だった粘土が、次第に赤みを帯びた色に変化していき、見た目にしっかり焼けたというのがわかった!
木材を炭にして熾火をつくりじっくり焼成。だんだん粘土が黒くなってきた。
さらに黒くなってきたところで、火を徐々に強くしていった。
最後に木材をたっぷり入れて炎を高くあげた。
午後1時。約8時間の格闘が終わって、炉が冷めるのを待つことにした。この日は、北海道も異例の暑さだった。激しく焼成しているときは、心拍数が急激に上がって頭がクラクラ、汗びっしょり。体力の消耗がひどかった。
火の消えた炉。まだ粘土はかなり熱い。
夕方、手で触れるくらいの温度に下がった粘土を炭の中から掘り出してみた。いくつかは割れたりヒビが入ったりしたものもあったが、うまく焼けているものも!電気釜で焼いたときには、均一な仕上がりになっていた粘土も、さまざまな色合いに変化している!!出土した縄文土器や土偶の質感と共通の風合いが出て、本当にうれしかった。
焼成後の土偶や耳飾り。下部にあるお地蔵様は、アーティストの上遠野敏さんから預かり焼成したもの。粘土の種類が違うのか割れやすかった。
2回目にトライしたのは藁のオーブン(!?)焼きただ、やはり藁をメインに焼成したいという思いがあった。そんなとき、土面を野焼きでつくっているという友人に出会った。野焼きでいくつか割れてしまったという話をしたところ、「野焼きに適した砂が混じっている土がある」と聞いた。
ネットで検索してみると確かにあった。砂を混ぜると焼成時にひび割れが少ないそうだ。説明書には落ち葉を集めて山にして、その中に粘土を入れて焼成できると書いてあった(焼き芋のように焼ける!)。焼成時間も2、3時間と短くていいという。
薄い色の粘土が野焼き用。一般的な信楽の土でも焼いてみた。
「これだ!」と思った。早速、購入して、今度は動物土偶の再現をして、それを焼いてみようと思った。縄文時代の動物土偶はとにかく不思議なかたちのものが多い。胸にUのようなマークがあるから、ツキノワグマだといわれている土偶がいくつかある。また、どう見てもネコ(!?)に見えるものや、北海道には生息しないイノシシが交易のなかで入ってきて、それを象ったとされるものがあったり。
そして、だいたいがゆるキャラのようにラフ。私のあくまで勝手な想像なのだが、両親が子どものおもちゃとしてつくって、煮炊きをしている火の中で、一緒に焼いたんじゃないだろうか。主婦的感覚からすると陶芸も料理も一気にできた方が、いいんじゃないか、なんて思ってしまう。
新たな粘土を使った土偶で再び野焼きに挑戦。今度は藁をまずは山のように積み上げ、前回同様十分に温めてから土偶を中央に押し込み、火をつけることにした。
中央の土偶は胸にUの字があるもの。
敷き詰めた藁の上に粘土を置き、上から藁をたっぷり重ねた。
ものすごい煙の量に気が遠くなった。消防に届出をしているが、これは狼煙レベル(汗)。遠くの人もよく見えるほどだ。ご近所さんに驚かれたらどうしよう……。ハラハラしていたのだが、10分も経たないうちに煙は消えてしまった。
火をつけた途端、モクモクモクと煙が!
藁は全体に灰になったように思えたが、中はまだ火がくすぶっているように感じられたため、このまま放置してみることにした。焼成時間は短すぎるんじゃないかと心配したが、2時間ほど経って少し藁をよけてみると、なんだかいい感じで焼けていた!!
藁をそっとよけると土偶の口が見えた!
さらに2時間、十分に待ってから掘り返してみて感動した。黒からグレー、そして赤みを帯びた部分があって、深い色合い。木材で焼いたものより、そのトーンは美しかった。
4時間経って藁を落としてみた。いい焼け具合!!
しかも、ほとんど手間いらず。木材を使っての焼成は、火を絶やさないように、どんどん材を入れていかなければならない。前回はこれを何時間も続けたため、終わって本当にぐったりだった。でも藁を山にして焼く方法なら、粘土をインしたら、あとは待つだけ(藁オーブン!?)。これなら気軽に何度も焼けると気持ちが弾んだ。
藁で焼いた動物土偶。グレーがかった深い色合い。
藁で焼いた動物土偶。
この日は、木材でも焼成した。こちらの方が明るい色になっている。
そして、冬。動物土偶の制作を続け、ある程度たまってきていた。ただし、外は一面の雪。しかも日中も氷点下。そんななかで野焼きをするのは、ちょっと無理だなあと思っていた。友人からも「冬は温度差が激しすぎるから、焼くなら夏ですよ」とアドバイスを受けていた。でも、どうしても焼きたい気持ちが抑えられなくなっていった。藁で焼くなら簡単だから大丈夫じゃないかと思った。
雪の上での野焼き。下は雪だけれど、火はつくことはわかった。
……しかし、考えが甘かったようだ。藁を積み上げて粘土を入れて火をつけたが、風に吹かれて山が崩れてしまった。また、破裂音がして一部が割れてしまった感じだった。
右からの風で藁の山が崩れていく。この後、ボン、ボンと何かが割れる音が。
やはり温度差がありすぎるのかもと思い、一部の粘土を取り出し木材で焼成し直すことにした。火を焚くから気温がマイナスでも大丈夫だろうと思っていたが、背中と足元が猛烈に冷えた。なんとかお昼くらいに終えることができたが、やはりこの日も過酷だった。
体が寒くなりすぎたので、焼きおにぎりで暖をとる! ホイルに包んでジャガイモも焼きました!!
一部は木材で焼き直さず藁の中に残しておいた。粘土を取り出してみると、真っ黒だった。外気温が低すぎて焼成温度が上がらなかったのではないかと思った。陶器として使うには脆いが、これはこれで独特のムードが出ていた。
焼成時に割れてしまった土偶。藁で焼いたもの(上)と破片を拾い出し木材で焼き直したもの(下)。
氷点下、藁で焼いた土偶。
氷点下、藁で焼いた土偶。
年が明けて岩見沢は大雪。もうさすがに野焼きはできなさそうなので、雪解け後に再び挑戦したいと思っている。次なる目標は、電気窯で焼いていたときのようにもっと大きなものだ。
東京にいた頃、土器や土偶をまさか自分の手で焼くことができるとは思っていなかった。焼成に使う素材は、藁や木材など、すべて身近に手に入るものとなった。自然とともに暮らしていた縄文人に、ほんの少しだけれど近くなったのか?なんだかそう考えると、とても愉快な気持ちになれる。
オンラインストア https://michikuru.theshop.jp
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/
https://www.facebook.com/michikuru