2013年にスタートした、コロカルの人気連載『リノベのススメ』。全国各地のリノベーション事例を、物件に携わった当事者が紹介する企画だ。

今回の特集『エリアリノベのススメ』では、1軒の建物のリノベーションをきっかけに、それがまちへ派生していく、“エリアリノベーション”を掘り下げていく。

『リノベのススメ』担当編集の中島彩さんにインタビューしたvol.001では、リノベーションの潮流を踏まえつつ、過去の連載を振り返ってきた。そのなかで登場した、過去の執筆陣に、「その後」を聞いてみることにした。

今回は、岐阜市を拠点に建築、まちづくり、シェアアトリエの運営などの活動をする〈ミユキデザイン〉の末永三樹さん。末永さんに、連載後の展開について寄稿していただいた。

末永さん、その後のまちの様子はいかがですか?

パンデミックを経て変化する、“サンビル”と私たち

コロカルでの連載からもう4年も経ったのですね。伝えたいことをまとめるのが難しく、執筆はなかなか大変でした(笑)。でもコロカルを読んで「話が聞きたい」というお問い合わせもいただいたのでありがたかったです。

前回の『リノベのススメ』の執筆とともに始まったコロナ禍。連載が終わった2020年7月頃も、柳ヶ瀬商店街で毎月開催している〈サンデービルヂングマーケット(通称:サンビル)〉に変化がありました。

マーケット出店者と、買い物をするお客さん

ある日のサンデービルヂングマーケットの様子。

出店規模を小さくし、ブースを離して並べたり、休憩コーナーをなくしたり、一時的には飲食を伴う出店を控えていただくお願いもしました。「サンビルはやりますよね?」という声に応えたい一方で、こんな時期に非常識だという声もありましたが、開催にこだわっていました。対面のコミュニケーションを諦めたくない思いでした。とはいえ結果的には、4回の中止を決断。

ついでに育ててきたインスタのアカウントがなぜか消失してしまい1万人のフォロワーも失い、スタッフと泣きました。それがかえって考える余白を与えてくれた、と思うしかない感じでしたね。懐かしい思い出です。また、サンビルができないならと、〈ロイヤル40〉のテナントさんたちが主体になって第1日曜日に小さなマルシェが始まる動きもありました。

私たちは、マーケットが商店街のインフラ(あたりまえにあるもの)として機能して、人・もの・コト・情報を循環させることが重要だと考えていたので、この時に「日常」という言葉をより強く意識するようになりました。

毎月第3日曜のサンビルを続けながら、偶数月の第1日曜には「日常」をつくる小さなサンビルを進め始めました。

買い物する人

偶数月の第1日曜のサンビル。

第3と比べてしまうこともあり、出店者集めや集客など難しく、試行錯誤のなかで若手が企画を試してくれて、徐々に手応えが出てきているようです。

さらに、サンビルのアンティーク出店部門を特化させ、古道具や輸入雑貨を扱うショップが出店するマーケット〈GIFU ANTIQUE ARCADE〉も始まりました。

アンティークのお皿を見る人

商店街のレトロな雰囲気にも合うマーケット。

これらの運営は、新しく加わった若手スタッフが中心となって切り盛りしています。彼女たちが窓口となって、お手伝い参加をしてくれるメンバーも増えて、とても頼もしいチームになっています。 今年4月には、まち会社の新しい事業として、サンビルの日常化を目指した〈サンビルストア〉をオープンしました。

木製のボックス

木製のボックス

シェアアトリエ

シェアアトリエ

 

お客さんが直接つながることのできる常設型のマーケットで、7つのアトリエブースと屋台、レンタル棚が集まり、店頭には「人とまちのコンシェルジュ」が立ちます。入居者は陶芸、彫金、お茶屋さんなど多様です。この場所をみんなと切り盛りし、まち知る・楽しむ窓口にもなっていきたいです。

SundayからEverydayへ。今年で10年目を迎えたサンビルですが、試行錯誤は続きます。

「柳ヶ瀬日常ニナーレ」もスタート

私たちと岐阜市での新しい試みとして、2022年からは柳ヶ瀬商店街周辺エリアをフィールドにした体験プログラムを企画運営しています。

一列になって歩く人たち

あらゆることを地域資源と捉え、それをネタに「パートナー」が小さなプログラムをつくり、事務局がサポートをしながら、約1か月間に50程度の体験プログラムが一気に開催されるお祭りです。「パートナー」はやりたいことがあれば誰でもなれます。体験をつくったり、体験に参加したりするなかで、その人にとって柳ヶ瀬が日常になったらいいな、と思いネーミングしました。

今までに不動産活用の促進のためにリノベーションスクールやトークイベントなどを市と一緒に行いました。そこから直接的な起業・創業の例は少なかったのですが、関わった人たちは、何かしらまちをおもしろがっていたり、役に立てないかと思っていたり、参加者間がつながり、遊びや活動が生まれていました。このゆるいつながりや動きこそが、実はまちの雰囲気を気持ちよくしたり、期待感を高めていることに気づき、不動産活用で事業をつくるのではなく、柳ヶ瀬をおもしろくする方向に舵を切ることにしたのです。

実際に、老舗店とのコラボや、まち歩き企画、ビル再生講座、子ども向けの1日店長体験などさまざまなプログラムが誕生し、商店街で生きる人、まちに魅せられた人たちが集まります。

子どもの1日店長

まち会社が事務局を運営することで、自分が主催するイベントのハードルを下げ、事業継承のきっかけをつくったり、商店街と能動的に関わる人を増やしたりといった効果を狙っています。そして、私たちも気づかなかったまちの魅力や可能性を発見することができています。

今年も10月中旬から約1か月間開催予定です。

道路空間活用や、公園リニューアルも

連載時には岐阜市が行う道路空間活用事業として、2019年の11月に片側4車線の道路を活用した「yanagase PARK LINE」という企画の社会実験を行ったところまで紹介していました。

当時かなりインパクトがあったため、「yanagase PARK LINE」は2020年にも継続され、中央分離帯を挟んだ4車線で実験を行いました。車道に囲まれた島状の空間を什器やアクティビティでつないだおもしろい風景ができました。

ただ、社会実験では来場者数やにぎわいを求められがちで、それゆえイベント化してしまいます。2023年11月の「金華橋ストリートパークライン」では道路延長で駅前も含んでかなり長くなったのですが、「THINK/MAKE/PLAY」の段階を踏んだ立てつけで、沿道の方々や道路の使い方をおもしろがるメンバーでワークショップを行い、当日を迎えました。

道路空間そのものと活用、運営を探る上ではいいきっかけになったと思いますが、もっと長い目で検証してみたく、自分たちとしてはまだまだ試行錯誤中です。

カウンターに座る人

マルシェはやめて、沿道の人がやりたいことをやったり、遊び場やくつろぎ場をつくったり、モビリティ実験をしたりして、道路をハックする場づくりを行いました。

並行して柳ヶ瀬商店街の南側にある金(こがね)公園エリアの活用にも関わっています。2020年には、市から「まちなかパブリック事業」として公共空間の使い方実験の委託を受けました。

私たちは、ムーブメントをつくる1か月間の実証実験と位置づけ、「まち一番の風景を作ろう」を合言葉に「オープンスペース・ラボ」と名づけたプロジェクトを行いました。期間中は金公園北エリアにコンテナを活用したインフォメーションブースを期間限定で設置し、人工芝の小さな広場、ハンモック、組み合わせ自由のテーブルベンチなどを配置。

コンテナを使った店

常設のくつろぎ空間では、周辺住民の利用が増え、ベビーカーをひいたお母さんが常連になってくれたり、休日には柳ヶ瀬への中継地点として休憩する人がいたり。

ハンモックでくつろぐ人

キッチンカーの出店のほかにも、マルシェが複数回開催され、そのイベントに合わせ、若者や子育て世代など多様な人々がまちなかを楽しみました。ナイトマーケットやスケートボードパークゾーンなど、設置や片づけは遊ぶメンバーたちで声をかけ合い自主運営するなど、まちなかのストリートカルチャーの豊かさを垣間見ることができました。公共的な事業にコミットする機会の少ない若い世代が、自らの企画で公共空間を活用し、新たな活用方法へのきっかけをつくってくれたのは大きな収穫でした。

夜のイベント

その後、公園は2023年4月に〈セントラルパーク コガネ〉としてリニューアル。使いづらく、ある意味荒涼とした公園が、広大な芝生広場、公園全体を見渡すことができるゆるやかな丘、起伏のあるすべり台、ステージなどが整備され、多くの人の憩いの場になっています。

未だ、公共サービスは一方的に与えられるもので、関わり方がわからなかったり、それが無関心にもつながったりします。公園が思いを持った人に使いこなされていくために、周辺のクリエイターなどに声をかけ、コピーやデザイン、期間限定のBGM制作、イベントの企画運営などを手がけてもらいました。

そんな人たちがまた知り合いを巻き込んで、公園で過ごすこともあったり、なんとなく「新しくなっていい場所になったよね」のイメージが周りに浸透してきているように感じます。近くにいる人たちが関われる機会をつくり、自分ごとが広がって、知らない人がふらっときてもいいオーラが感じられる「みんなの場所」になるといいな、と思います。

商いだけでない、暮らしがある商店街に

連載後も、商店街では少しずつですが、コーヒーショップやレストラン、古着屋さんなどができています。上階にオーナーが居住しているなどの事情で、貸せずにシャッターが下りているビルもあるのですが、基本的には程よい大きさのテナントの空きが出たら埋まるような状況です。ただ、大型物件の動きはなく、7月末に高島屋の撤退もあるので新たなフェーズに入る気がしています。

数年の大きな変化としては、駅前から柳ヶ瀬までを中心としたマンション建設が進みまちなかに居住する人が増えたことです。

商店街内にベビーカーを引いた親子の姿もあったり、八百屋や魚屋など生活を支える店舗の出店もあったりして、暮らしの場としての商店街がアップデートされています。

私たちは、店舗としての需要の出にくい2階や3階部分をシェアハウスにしたり、住居にしたりする取り組みを進めています。繁華街・夜のまちという印象で住まいとして選ばれるという発想もなかった場所ですが、まちのレトロな佇まいや、周辺に魅力的な店があるなど、商店街に住んでみるのもおもしろそう! という感覚は特に20・30代にあること、若く新しい住人によって、まちに変化が生まれるだろうという理由です。

例えば、「柳ヶ瀬に住んでみたい」という大学を卒業したばかりの女性が2階に住みながら、1階をギャラリーにしている〈ニュー銀座堂〉。

商店街の店

室内窓から外を見る

居住スペース

 

元靴屋の〈ニュー銀座堂〉の看板は元オーナーに承諾をいただいた上で生かし、彼女の屋号になりました。レトロな雰囲気を生かし、今を生きる弾けた空気感をデザインしました。ギャラリーには、室内からはみ出した1坪の縁側を設け、コミュニケーションポイントに。この場所からまちを眺め過ごすうちに商店街名物的な存在として、多世代人に愛され、若者から高齢者までの居場所になって、彼女自身が商店街の新しい風景をつくっています。

商店街を歩く人

また、コロナの最中に共同ビルの一区画をミユキデザインで借り上げ1棟まるごとリノベーションし、シェアキッチン〈デイリーこやなぎ〉+シェアハウス〈アパートメントこやなぎ〉の運営をはじめました。

シェアキッチン

ガラス張りの外観

 

1階のシェアキッチンはプロも受け入れる設備があり、飲食店営業・菓子製造業・惣菜製造業を取得していますが一番は火力の強い本格的なキッチンで餃子パーティーしたいという個人的な動機と、みんなで一緒にご飯をつくって食べられる場所を1階につくれば、商店街に新しい風景が見られるんじゃないかと思いつくった場所です。

実際に、シェフを招いてごはん会やワイン会を行ったり、おじさんたちが角打ちに使ったり、詩の朗読会会場になったりもしました。住んでいる若いメンバー中心に、スナックやモーニング喫茶を行うことも。サンビルの出店場所などいろんな使い方がされています。

店の外から店内を見る

個人的な利用でもちろんOKですが、せっかく商店街の路面なので、商店街にその空気感が“にじみ出してほしい”なって思います。「よかったらどうぞ」みたいなノリでできるといいですよね。

上階のシェアハウスに行くには、1階のシェアキッチンを通らないと入れないので、住人との交流も生まれています。

自分たちの手を離れて、物件たちは

連載では、私たちが不動産プロデュースし、事業計画、リーシング、運営まで行ったビル〈カンダマチノート〉についても触れていました。

〈カンダマチノート〉の2階に入居している〈喫茶 星時〉は、オーナーが「喫茶店をいろんな人の居場所にしたい」という思いのもと、BGMもなく声も使わない「静かなカフェ」、夜の子どもの居場所「ごろごろ」など、いろんな人たちの場所として喫茶店を機能させています。

喫茶店の店主

はじめの頃は、それぞれの物件に対して、自分たちの手で種を蒔き、育てていましたが、今では場所をつくったら、そこから先は、思いを持った人が場を育ててくれることが増えて、手離れしている感じがあります。そのぶん私たちも別のことをやっていくことができるし、思いがけないハッピーアクシデントに出合うこともあって楽しいです。

自分たちでも物件を扱えるようにするために宅建事業者として、〈ファンタスティック不動産〉という事業もはじめています。今後はまちなかに滞在できる宿もつくっていきたいと目論んでいます。

今回はエリアリノベーションの話だったので、商店街に絞って紹介しましたが、本当は岐阜の魅力って、柳ヶ瀬だけでは語れないんです。岐阜駅を降りて、長良川・金華山までの自転車圏内に問屋街とか商店街とか、城下町的な場所があって、山や清流があり、コンパクトなエリアのなかに豊かな環境が整っているのが岐阜のすばらしさだと思っています。

商店街のなかだけでなく、その周辺の自然や、まち全体をめぐりながら自分のやることに合わせて心地よく動くのがいい。エリアを広げて、まち全体をもって、岐阜のよさを自分自身で感じながら伝えていきたいです。

この記事に登場した建物とお店

information

リノベのススメ

持ち主や借り手のなくなった建物を受け継ぎ、再生させるまでの過程を、手がけた本人が綴るコロカルの連載『リノベのススメ』。2013年10月の連載スタートから10年以上の時を経て、これまでの執筆者数は2024年4月末日時点で40に上り、貴重なアーカイブは260本を超えている。

Web:『リノベのススメ』

writer profile

Miki Suenaga

末永三樹

すえなが・みき●1977年岐阜生まれ。一級建築士。明治大学理工学部建築設計卒業。設計事務所勤務を経て2012年に〈ミユキデザイン〉を設立。2016年に〈柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社〉を共同設立、クリエイティブディレクターを務める。「あるものはいかそう、ないものはつくろう」を理念に、建築的な視点を持って「まちをアップデートし、次世代へ手渡す」ことを目指し、建築にとどまらずデザイン、企画・プロモーションなど包括的に考え実践する。一児の母。http://miyukidesign.com