旅の小さな思い出は、とても愛おしい

旅のなかで、奇妙なことが起こったり、まさかの偶然が起こったり、奇跡的な出会いがあったり、いろいろなことがある。そうした小さな断片を逃さず思い出としてしまっておきたい。

さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの、そんな「断片」を綴ってもらうリレー連載が、コロカルの『旅からひとつかみ』だ。その連載を見てみると、北海道から沖縄まで全国での出来事が綴られていた。そこで地域ごとにまとめて記事を紹介していく。第2回は【中部編】【近畿編】【中国編】。

中部編、近畿編、中国編の旅先マップ

【中部編】「人と行く河口湖」「菅平高原のきのこ狩り」「旅で本を読む」「フェスの宿で」「富山のブリ」「福井の聖地巡礼?」

石田真澄さん

石田真澄

写真家

「早めに旅館に入り、陽が落ちるまで窓の外の富士山を眺め、夕飯を食べ、また夜になって外へ出た。切れた梅酒を買いに遠くのコンビニまで散歩をしていると、昼間は車で一杯だった広い駐車場が空き地になっていたので、寝転がりたい衝動にかられコンクリートに寝転がった。だだっ広い場所に行くとどうしても寝転がりたくなる。大きな会議室とか、芝生とか。真っ黒な空を見ながら喋っていたら車のライトに照らされ、慌てて逃げて帰った。夜の帰り道や夜の公園のような暗闇で喋る時間も好きなので、人と対面で顔を見て喋ることが苦手なんだなとつくづく思う。」

友人と河口湖と忍野八海を訪れた旅を綴ります。石田さんが人と旅をするときに行う選択と共有、それはどんなものでしょうか?(山梨県富士河口湖町、忍野村)

 KIKIさん

KIKI

モデル

「色が変わるけど食べられるとか、毒があるけどおいしいなど。きのこはやっぱり判断が難しい。それでも2、3時間で持っていた大きめのカゴが、きのこでいっぱいになった。車まで戻る道すがら、Kさんがそれぞれのきのこが、どんな料理に合うか教えてくれた。このきのこはシンプルにきのこ汁、このきのこはオイルで炒めてパスタに。」

長野県の菅平高原に、きのこ狩りに訪れた話。きのこは食べられるかどうかの判断が難しいですが採れたてのおいしさには目を見張るものがあったようです。(長野県上田市)

東野華南子さん

東野華南子

〈ReBuilding Center JAPAN〉

「重松清の『とんび』は、アイスランド滞在中にルーティンのように毎朝行っていたカフェで読んだ。朝か夕方、必ず行って本を読んでいたのだけれど、続きが気になってその日にほかのカフェで読み終わっちゃって、結局、途中でいちど宿に帰ってほかの本と交換した。」

東野さんにとって、旅とは本を読む時間。そうなったきっかけから実際に旅の途中で読んだ本や、そのエピソードを綴ってもらった。(長野県諏訪市)

KAN SANOさん

KAN SANO

音楽家

「メンバーたちが風呂に入っている間、ひとりで部屋にいるのが怖いのでインスタライブをした。便利な世の中だ。壁の穴などおもしろおかしく紹介したが、内心は本当にびびっていた。その後ひとりで風呂へ。もちろんマイキーたちとは違うほうを選んだが、入浴中も生きた心地がしなかった。脱衣所で着替えていると扉の向こうから何かがゆっくり迫ってくる気配を感じたが、正体は風呂の後片づけにきたオーナーのやさしいおばあちゃんだった。『シャイニング』3回分ぐらい怖かったが、コントのような見事な緊張と緩和に笑ってしまった。サスペンス映画は好きだが、実際に体験するのとは別問題だと思い知った。」

愛知県の離島で行われたフェス〈篠島フェス〉に出演した話。炎天下でのライブにはじまり、離島の雰囲気や泊まった旅館でのできごとなど、ライブはおろか、県外に出られない現状のなかで楽しかったフェスの思い出を綴ってくれた。(愛知県知多郡)

DJみそしるとMCごはんさん

DJみそしるとMCごはん

ミュージシャン

「圧倒されて黙り込むわたしの前に運ばれてきたのは、ラスボス、ぶりしゃぶ。刺身でもおいしい切り身を、琥珀色の出汁に沈めること……………5秒。この集中力、ゾーンかよ。ポン酢醤油と大根おろしで食べれば、その濃淡にノックアウト。できるだけ長く味わっていたくて、漏れる鼻息すら惜しい。」

名前のとおりくいしんぼうな彼女による富山の旅。食文化の3つの側面を発見し、その虜になったよう。見事な「食レポ」は、読むだけでお腹が減ってくる。(富山県氷見市、射水市)

長井短さん

長井短

演劇モデル

「リノベーションされた快適なお店も、もちろんこのまちの気配のひとつだろう。でも何故か、それが快適で素敵なら素敵なほど、何かを隠しているように思えてくる。何かあるんじゃないかと、路地裏を歩き回りたくなってしまう。たぶん私が、舞城王太郎の読み過ぎなんだろう。迷惑な客だ。何もないのに勝手に裏があると思い込んでくるんだから。でも、そう感じずにはいられないのは、彼の本を1冊でも読んだことがある人ならわかってくれるだろう。このまちのどこかの家には三角形の蔵があるかもしれないし、裏山には凄い猿がいるかもしれない。案内に従っているうちに、四点リレー怪談に巻き込まれていたらどうしよう。そんなこと起きないとはっきりわかっているはずなのに、あの駅にぶら下がっていた「いってらっしゃい」が脳裏から離れない。いってらっしゃい、してしまったんだろうか。」

いわゆる「聖地巡礼」とはちょっと違う、長井さんなりの好きな作家を追いかける旅。(福井県南条郡南越前町)

【近畿編】「お墓参り」「京都でひとり飲み」「ビジネスホテルで思う」「神戸のにくてん」

在本彌生さん

在本彌生

写真家

「実際には亡き人を思うことは墓に行かなくてはできないことではないし、墓をつくらないということもこれからの選択肢としてありえる。それでも、たまに墓を参ることで亡き人がいた風景の片鱗をこの目で確かめられたら、それは心に残る時間になる、そう実感した旅だった。」

夫の提案でお墓参りに行くことになったときの話。海外出張帰りの在本さんは痛恨のミスを犯すが、お墓参りという旅は心に残るものになったようだ。(和歌山県海南市)

Licaxxxさん

Licaxxx

DJ

「そのおばあちゃんと、3月頭でまだ寒い夜の静かになったアーケードの下を腕を組みながら歩いた。道の途中、ほかで飲んでいたお友だち(おじさんら)と遭遇して陽気に話していた。「若い子ナンパしてえ!」なんて言われていて、ああ、地元の飲みの場では結構有名なおばあちゃんなのかな、と思った。おばあちゃんのお友だちができたのは初めてだし、自分の祖父母と外に呑みに行ったことなんてなかったので新鮮だった。」

ひとり旅を旅の醍醐味と考えて旅した京都のナイトライフ。カウンター酒場で世代を超えた出会いがあった、刹那な思い出。(京都府京都市)

 STOMACHACHE.さん

STOMACHACHE.

イラストレーター

「展示のときなどは家族や友人の家に泊めてもらうことが多いが、今回は3人だったので近くのビジネスホテルを予約していた。ホテルのエレベーターに乗ったり、客室の廊下を歩いていると、私はいつも村上春樹の『羊をめぐる冒険』を思い出す。あとで恋人にその話をすると、彼はスタンリー・キューブリック監督の映画『シャイニング』を思い出す、と言っていた。どちらにせよ、非日常の不気味さがあるかもしれない。」

自身の絵本の展示があり、大阪の本屋さんに行く旅。娘の成長を感じ、多くの人に会い、自分のネクストステップを踏み出すなど、思い出深い旅になったようだ。(大阪府豊中市)

関祐介さん

関祐介

建築デザイナー

「ハルナは、まず鉄板が美しい(見上げるとフードの中も美しいです)。熱に耐えてきた歴史があるせいか、若干真ん中の部分が盛り上がっています。私のなかでは〈豊島美術館〉の屋根の形状のほうがこの鉄板に寄せてきているなという見解。」

地元である神戸のお好み焼き巡り。神戸はお好み焼きの発祥地といわれ、店舗や人それぞれに強いこだわりがあるようだ。(兵庫県神戸市)

【中国編】「お寺のアート」「三徳山三佛寺奥院投入堂での演出」「新聞配達のおばあちゃん」「秋芳洞の暗闇にて」

郷古隆洋さん

郷古隆洋

蒐集家

「ただし、この時点で僕のテンションはマックスになっています。テレビクルーの方たちがいなかったらその場にへたり込んでいたかもしれません。それくらいのインパクトが、襖を開けた時点で僕を迎えてくれました。力強く、きれいな色彩の版画が壁や天井はもちろん、ありとあらゆるところに貼られているのです。そして部屋の隅には現行品とは仕様の違う古いイサム・ノグチの「AKARI」が置かれているのです。これはなんという世界観。しばらくどこを見てもため息しか出てきませんでした。人がつくった平面のもので、こんなに感動したことはなかったかもしれません。」

山陰・山陽を巡る買い付け旅のなかで出会った岡山県のある作品とお寺のお話。日本や世界中で蒐集活動をしている郷古さんでも強い衝撃を受けたお寺とははたしてどんなお寺だったのだろうか。(岡山県真庭市)

小田康平さん

小田康平

〈叢〉店主

「つまり自然の造形すら投入堂にたどり着くまでの見事なストーリーの一部になり演出されているのだ。この険しい山道があり、「胎内くぐり」があり、投入堂は我々参詣者にとって時間と労力と意味が積み重なり、どんどんと神々しいものに昇華していく。車やロープウェイでひょいっと行けるような場所に、投入堂はあってはいけないのだ。」

鳥取県の〈三徳山三佛寺奥院投入堂〉を参拝した話。まずは建築の造形に惚れて参拝に向かったが、いざ登ってみると、そのスケール感や現代にも通じる“ある演出”に強く惹かれたようだ。(鳥取県東伯郡)

日下慶太さん

日下慶太

コピーライター

「『ここはイノシシが道に石を落とすけ、それ踏んだらパンクするけ、だけん、車で避けれんかったら自分で動かす』さらに車は山の中に入り、対向車がきたらどうしようと不安になると鬱蒼とした細い山道を通った。『木や竹が伸びて道を塞ぐけ、特に青竹はどんどん伸びるけ、いつも車にハサミとノコを置いててそれで切る』自分の大変さをわかってくれてうれしかったのだろうか。光岡さんは楽しそうに配達中の苦労を話し始めた。光岡さんは、新聞配達のために、文字通り、道を切り開いている。この配達の苦労なら広告できる。そして、私が文章を書き、写真を撮った原稿が以下のものである。」

島根県の新聞社〈山陰中央新報社〉の140周年の広告制作として江津市の山間部で働くある新聞配達員のおばあちゃんに会った話。配達員は、新聞以外にも配るものがあるということに気がついたようです。(島根県江津市)

石塚元太良さん

石塚元太良

写真家

「ライティングの影と影が交わる、気に入ったコーナーを見つけてしばし佇む。目が太陽光の届かぬ光量に慣れてくると、岩の肌理が目に刺さるようである。奥に広がる洞窟の先のことを考えると洞内の気温が低いせいか少し震えがする。ふと、今いる場所がどこなのか全くわからない錯覚を覚える。そんなときは僕の場合、納得のいく写真が撮れることが多い。」

山口県美祢市の〈秋芳洞〉に行った話。フィルムカメラで撮影をすることにこだわる石塚さんは、フィルムを現像する暗室作業と洞窟の暗闇に共通する思いを抱いたようです。(山口県美祢市)

●この特集『旅は断片。』は、コロカルの連載『旅からひとつかみ』のvol.001〜038を再編集してまとめたものです。連載本編はこちらから

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COLOCAL

コロカル編集部