堀越耕平による大人気漫画『僕のヒーローアカデミア』のテレビアニメ第7期が、5月4日から放送スタート。ヒーローと敵(ヴィラン)の最終決戦がついに始まり、毎話、衝撃展開が立て続く必見のシーズンとなっている。クランクイン!では緑谷出久/デク役の山下大輝、麗日お茶子役の佐倉綾音、トガヒミコ役の福圓美里による鼎談(ていだん)をお届け。ヒーローと敵(ヴィラン)という関係性であり、お茶子とトガは共にデクに思いを寄せる間柄でもあって――キャラクターの初対面時から最新シーズンの裏話、関係性に対する各々の解釈に至るまで、たっぷりと語ってもらった。
■無事でいられる人なんてほとんどいませんから
――デク、お茶子、トガが画面上で初めてエンカウントするのは第3期の林間合宿編(第44話「がなる風雲急」)でした。まずは当時の思い出を教えてください。
福圓:まさか今後、こんなことになるとは!
山下:特にここ(お茶子とトガ)がこんな因縁めいた関係になるとは想像していませんでした。
佐倉:でも、堀越耕平先生は最初からお茶子の対になるキャラクターとしてトガを作っていたそうなんです。
福圓:確かに今思い返すと、無駄なセリフが一つもなく全てが伏線になっていますよね。ただ、演じているときは誰もそうだと思わずにやっていました。たまたま近くにいて、女の子同士だからトガはお茶子ちゃんを襲ったのかな…くらいに思っていました。
佐倉:あの頃はまだ、敵(ヴィラン)とヒーローの関係がもう少し勧善懲悪なのかなと思いかけていました。
山下:確かに、ヒーローと敵(ヴィラン)がくっきり分かれてすみ分けられていましたね。今はもうごちゃ混ぜになって、何がヒーローで敵(ヴィラン)なのか、非常に複雑化してきている印象です。
佐倉:何が正義で、何が悪かも混沌としてますよね。
山下:かつ、回想でよく浮かんでくるシーンでもありますよね。トガちゃんもあのときの記憶がばっと浮かんできたりするし。
福圓:そういう意味では、イベントやゲームで何度演じたか分からないシーンではあります(笑)。デクくんとお茶子ちゃんは名シーンがいっぱいあるけど、トガちゃんはいうほど数がなくてその中の大きな“事件”だから、フィーチャーされることが多くて。計10回くらいは演じているんじゃないかな(笑)。
でも、アフレコ時は彼女にとって「好き」がこんなに重い意味があると思っていませんでした。物語が進むごとにトガの過去や内面が掘り下げられていって、演じ方が変わっていきそうで悩んでいます。
山下:でも、林間合宿編の頃ってまだ「学校」という雰囲気が色濃くありましたよね。
佐倉:アカデミア感がね。
福圓:だからこそ、6期第137話の「未成年の主張」でのお茶子ちゃんの「ここを彼のヒーローアカデミアでいさせてください!」には感動しました。敵(ヴィラン)の立場の自分が言うのもなんですが、『ヒロアカ』で一番好きなシーンです。
佐倉:えー! うれしい…。
山下:あのシーンは、本当に最高ですよね。
福圓:綾音ちゃんのお芝居もすてきだし、デクくんの表情も山下くんのお芝居もすてきで、何度見ても泣いちゃいます。
山下:これまで積み上げてきた学校のシーンがあるからこそ、めちゃくちゃ響きますよね。
佐倉:ここにきて「タイトルの伏線回収が来た!」という熱さもありますよね。
福圓:そうそう。でも改めて、6期はいいシーンが多すぎました。ちょうどいま録っている7期も、毎週最終回のような熱量で名言、名シーンしかありません。
山下:すべてが神回ですよね。
佐倉:これから録るシーンも、演じる側としては「ウッ!」となるようなすごいものが控えています。
山下:ここまで来たらもう、やるしかないんだよね(笑)。
佐倉:だんだん、「楽しみ!」より「つらい…」が勝ってきて(笑)。それくらい覚悟がいるシーンが連続しますから。
福圓:分かる。「アフレコ、飛ばないかな」とさえ思っちゃう(笑)。
山下&佐倉:(笑)。
福圓:特に山下くんはあえて原作を読まない派だから、衝撃もすごいんじゃない?
山下:そうですね。台本を読んで、そこで初めて知るので。
佐倉:私も実は、お茶子のシチュエーションに合わせて途中から読まないアプローチに方向転換しました。ただ、たまにSNSのトレンドでネタバレを踏んでしまって…(苦笑)。
山下:それ、一番気を付けた方がいいやつ!
佐倉:7期のあるシーンのネタバレを踏んでしまって夜中に情緒がおかしくなり、(蛙吹梅雨役の)悠木碧さんに連絡を取ることがあります(笑)。
山下:僕はそれがとにかく恐ろしいから、大体ジャンプが出るタイミングでSNSから離れます(笑)。
佐倉:それが正解だと思う! 見ると気になっちゃうから。
福圓:『ヒロアカ』だったり知っている人たちの名前(キャラ名)が挙がり始めると「様子がおかしい」ってなるしね(笑)。
佐倉:放送前のタイミングなのでネタバレはできませんが、無事でいられる人なんてほとんどいませんから。
山下:それくらいみんなが必死でボロボロになりながら戦います。皆さんもぜひ覚悟してご覧ください!
佐倉:私たちも覚悟して演じます!
山下:僕たちは完成した本編を数話分先に観させていただいたのですが、1話観終わるたびに息も絶え絶えになって水分補給して「よし、次を観よう」と覚悟しないといけなかったくらいです。
福圓:分かる! 相当消耗しますよね。
■デク、お茶子、トガ 三人の目線から見えるもの
――現時点で言えることですと、PVでも登場するお茶子の「私はあの”人”の”当たり前”を知らない」のシークエンスは7期の中でも異端の存在です。怒涛の展開が続く中での“凪”でありながら、お茶子とトガ、デク、ヒーローと敵(ヴィラン)の関係性を見ていくなかでこれほど重要な場面はないなと。デクとお茶子が共に持つ、敵(ヴィラン)であれ理解したいという意志を示していますよね。
佐倉:トガちゃんと出会ってからのお茶子は、心の中で考えることが増えています。デクとの関係性もそうだし、トガちゃんともそうですし。どんどん深く進んでいる感覚があります。
福圓:お茶子ちゃんが大事な場面で思い出してくれるのを見ると、うれしい。
佐倉:今「うれしい」と言われてちょっとゾッとしちゃいました(笑)。トガ味が…(笑)。思い出すたびにお茶子は苦しんでいますから。
山下:そうだよね。お茶子はトガちゃんのことがずっと引っかかっているわけですから。
佐倉:トガちゃんに出会わなければ考えることがなかったことでしょうしね。そういった意味で、大きな影響を与えた人物の一人なんだと思います。
福圓:でもやっぱり、お茶子ちゃんは優しい子だと思います。第6期124話「ダビダンス」の中で戦いながら、一瞬のトガの涙を見逃さず、言葉をあまりうまく紡げない彼女がポロッとこぼした言葉をしっかりつかんでくれますよね。『ヒロアカ』がとてもリアルだなと思うのが、その場では分からなくても持って帰って考えて咀嚼(そしゃく)する時間をくれるところです。すごく人間味があってうれしいんですよね。私は原作をアフレコの少し先まで読むようにしているのですが、トガ的に「お茶子ちゃん、ひどいことを言う!」とショックを受けても、そこから少しずつみんなの影響を受けて変わっている姿を見られて。
佐倉:そうなんですよね。お茶子はまだ即座に対応しきれない幼さや拙さはありますが、持ち帰って「こうだったかもしれない」「こういう可能性があるかもしれない」「だから知りたい」と未来への向き合い方をきちんと考えていく。それがまた成長につながっていくのが良いなと思います。
福圓:うんうん。あと、デクくんとお茶子ちゃんのあのシーンの会話を見てると「ウワッフゥ!」って舞い上がっちゃう(笑)。
佐倉:老夫婦味が出てきましたよね。これは私個人の意見ですが、今はデクとお茶子は何もなくあってくれ、絶対進展しないでくれと思っている派なんです。先のエピソードにもある通りお茶子はデクへの思いを「これはしまっとくの」と選択したわけですから、今は戦いに集中するべきだと感じていて。
山下:僕もそうです。同じヒーローとして、一緒の目線で同じものに向かっているから。
佐倉:背中の預け合いみたいなところがありますよね。特に同じ場所に立って街の景色を見るシーンでは、その関係性が強く出ている気がします。
福圓:「恋愛」という言葉がちょっと軽くなっちゃうようなつながりであり、同志であり…。かといって気を許してないわけじゃなく、お互いを支え合う相手でもあって、その開示の仕方が二人ともかわいいなと思います。弱音の吐き方とかもいい塩梅(あんばい)に出すなって。
山下:デクとお茶子は今後もそんな感じでいく気がします。
佐倉:同じ方向を向いて立っているんだけど、デクが少し前にいてお茶子は視界の端でデクを見ながら一緒に前を見ているイメージですね。
山下:僕が思っているのは真逆です。デクにとっては、麗日さんがそう見えてる。
佐倉:ええー! そうなんだ! 知らなかった…。逆なんだね。
福圓:なにこれすてき…いい話すぎる…。このリアクション含め、長く役を演じていると演者の関係性がもう役に重なって見えてきますね。エモい…。
山下:キャラクターから見ると全然違うんだね。
佐倉:今、すごくびっくりしてる…。
山下:6期をやっている間もずっと思っていたのですが、デクにとっては「みんなはいつだって先を行ってる」という印象がありました(6期第136話「デク VS A組」より「皆とっくに 僕なんかよりずっと先に」)。でも僕の世界にいたら傷つけてしまうから独りで闘う――とデクの心理として思っていたので。だけど周りから見たら「信頼してくれている人たちがいるじゃないか」という状態だと思います。デクの主観として見えている世界と、みんなから見ている世界って全く違うんだなと感じます。僕は没頭しているから、言われて初めて気づくことが多い気がする。
福圓:誰よりもデクくんの視点で観ている人ですしね。
佐倉:大輝くんとはいろいろな現場でお会いしますが、デクを演じているときの大輝くんはかなり雰囲気が違います。さまざまな収録物がありますが、デクのセリフで言えないものがあると本気で立ち止まってしまったり。スタッフさんと相談しながら、デクとして納得のいくものを提供できるようにしている印象です。
福圓:デクくんもどんどん変化してきたけど、演じていて「自分の範疇外に行っちゃったな」と思うときはある?
山下:デクって真面目で一生懸命なイメージがあると思いますが、僕としては「そこまで行く!?」と驚かされるシーンは初期から結構多いです。デクは常軌を逸したヒーローへのこだわりや思いがあって、その気持ちにまで僕がたどり着けないと演じられないんです。
堀越先生が描き上げた正解に至るまでは、大変ですね。例えば死柄木は取り返しのつかないところまで人々を苦しめて、社会を崩壊させてしまいました。そんな人に対して「救けを求めたように見えた」と感じて(第6期126話「ラストステージ」)、何かあるなら救けたいと思えるって正直クレイジーですし、そこまでヒーローというものを背負う覚悟ができる彼のポテンシャルは、僕には計り知れません。でも、デクはそこまで行くキャラクターで、理解できない・納得できないことこそが彼の本質かもしれないと思う部分はあります。そこがやっていて非常に難しいところであり、楽しいところでもあり、惹(ひ)きつけてやまないところでもあります。でもそれは僕だけじゃなく、麗日さんもトガちゃんもそう。トガちゃんなんて変化がすごくないですか?
福圓:本当にそう思う。立ち位置や出番の量が違うのもあるし、トガにおいては主観じゃないところで語られたりもするから「真ん中をつかんだ!」と思ったら「こっちにもあった」「こぼれちゃう」ってなって「このセリフをどう言ったらいいんだろう」と悩む瞬間が『ヒロアカ』はすごく多くて。それだけキャラクターがステレオタイプじゃないことの証明でもあるんでしょうね。だからみんなどうしてるんだろうなって気になって。
山下:それでも僕らは拾い集めながら、最後まで演じ切るしかないんですよね。これからも新しい何かをかき集めてもがきながら全力で演じていきますので、どうか皆さんも期待していてください。ぜひ『ヒロアカ』の応援をよろしくお願いします!
(取材・文=SYO 写真=上野留加)
『僕のヒーローアカデミア』テレビアニメシリーズ7期は、読売テレビ・日本テレビ系にて5月4日より毎週土曜17時放送。
『ヒロアカ』デクとお茶子は「『恋愛』という言葉が軽くなる」関係 山下大輝&佐倉綾音&福圓美里が語る“三人”の目線
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