作品ごとにあらゆる表情を見せ、その都度観客の心を鷲掴みにする草なぎ剛。白石和彌監督と初タッグを組んだ映画『碁盤斬り』では、復讐に燃える武士の生き様を体現。また新たな境地を拓いている。ますます役者として勢いに乗っている彼だが、「『碁盤斬り』は僕の代表作であり、ターニングポイントとなった作品」と胸を張りつつ、「でも僕にとって、出演作のすべてが代表作なんです。役者っていつでも、その時の演技が集大成になるもの」とニッコリ。本作で得た宝物や、「真面目さの中に適当さと遊び心を」という今後10年のテーマ。いつも刺激をくれる、稲垣吾郎と香取慎吾の魅力について語った。
◆『碁盤斬り』は脚本を読まずに、オファー即決
『新しい地図』として共に活動している香取慎吾が、2019年の映画『凪待ち』で白石監督のもと主演を務めていたことから、「白石監督とお会いした時も、初めてのような気がしなかった」という草なぎ。「『凪待ち』では、慎吾ちゃんがそれまでとはまったく違う顔を見せていて。その時点で『白石監督ってどんな方なんだろう』と興味が湧いていました。慎吾ちゃんが『凪待ち』の撮影をしていた頃は、まだ『新しい地図』を広げたばかりで、慎吾ちゃんもSNSをやり始めたばかりだったんです。割かしシャイなタイプである慎吾ちゃんが、白石監督とは一緒に写真を撮ったり、それをSNSに上げたりもしていて(笑)。そういったことからも、白石監督は役者さんに安心感を与える方なのかなと思っていたんです」と香取を通してすでに信頼を抱いていたと話す。
だからこそ『碁盤斬り』のオファーが舞い込んだ際も、「脚本も読まずに、白石監督とご一緒できるならどんな作品でもいいと思っていた」と即決。「白石監督と僕は同い年で。同世代として見てきたり、感じてきたことが近いせいか、すぐに仲良くなれました。そして白石監督は撮りたいものが見えているので、言うこと、やることに一切の無駄がない。ものすごくやりやすかったです」と充実感を覚えている。
本作は、ある冤罪事件によって娘と引き裂かれた男・格之進(草なぎ)が、自分の大切なものと武士としての誇りを賭けて復讐に向かう姿を描く時代劇。娘のお絹(清原果耶)と静かに、慎ましく暮らす格之進から滲み出る気品。冤罪事件の真相を知り、瞳にも沸々とした怒りを宿していく様子。剣を振るって、対決に臨む鬼気迫る表情。格之進の心の旅路を見事に表現した草なぎの演技に、観る者は釘付けになるはずだ。
一体、どのような役作りに挑んだのか気になるところだが、草なぎは「大好きな焼肉とクワトロフォルマッジを2週間食べなかっただけ! それが最高の役作り!」とユーモアたっぷりにコメント。「節制した生活をしている格之進が、ぷにぷにしていたら嫌ですよね。撮影地の京都には大好きな焼肉屋さんがあるのに、食べなかった!」と笑顔を弾けさせつつ、「一つ大事にしていたのは、客観的に格之進を見つめること。僕は最初、娘がいるのに自分の生き方にこだわって決してそれを曲げようとしない格之進に対して、ものすごくイライラしていたんです。自分を曲げられないなんて、今の僕には考えられないから。でもそう思いながら撮影所に通っているうちに、ボロボロになりながらもこだわりを捨てない格之進が、だんだん美しく見えてきた。イライラした先に見えた、かっこいいな、輝いているなという思いを意識して演じていました」と主人公の核にあるものを見つめたという。
◆代表作を生み出し続けている現在地に「プレッシャーはない」
トランスジェンダーとして生きる主人公の孤独と葛藤を体現した『ミッドナイトスワン』(2020)では、第44回日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞を獲得。連続テレビ小説『ブギウギ』では、ヒロインを導く音楽家の軽やかさと芯の強さまでを演じ切るなど、近年、ますます役者・草なぎ剛のすごみを見せつけている。
高い評価を得て代表作といえるものを生み出し続けている彼だが、「出演しているもの、すべてが代表作だと思っています」とキッパリ。これまでの作品がライバルになるというわけでもなく「いつも、その時の集大成をぶつけているだけ。だからこそ、前の作品がプレッシャーになることもない」と役者業への臨み方を明かす。
つかこうへいをはじめとする数々の名演出家から、「天才」とも評される草なぎ。「35歳くらいまでは、いろいろなことを考えながら、台本を何度も何度も読み込んでいました。でも今は、そんなに脚本も読み込まないですね。考えれば考えるほど、よくわからなくなっちゃうから。それよりも大事なのは早く寝て、元気に現場に行くこと! 元気があればなんでもできる。猪木イズムですよ!」と変化を口にしながら、「映画にしろ、ドラマにしろ、自分だけで作るものじゃないから。監督がいて、共演者の方がいて、スタッフの方がいて。そういった皆さんの技術があって、成り立っているもの。『碁盤斬り』にしても監督だって最高だし、出演者の方々もみんな最高じゃん! だから僕は自分のセリフだけをきちんと覚えて、その日、その場で出てくるものを大事にすればいいだけだと思っています」と何よりも大切にしているのは、周囲へのリスペクトと、ものづくりの一部であるという意識だ。
「最高なキャストの方が揃っている」という『碁盤斬り』で草なぎは、半蔵松葉の大女将・お庚に扮した小泉今日子と29年ぶりの共演を果たした。「僕、キョンキョンが大好きで。キョンキョンは大恩人なんです」と目尻を下げ、「僕が20代の初めに、キョンキョンと中井貴一さんが主演を務めていた連続ドラマ(『まだ恋は始まらない』)に出させていただいて。1シーンか2シーンくらいの出演だったんですが、そこでキョンキョンが『草なぎくん、いいね』と言ってくれて! そのおかげで僕の出番が増えたんです! だから僕はキョンキョンに恩がある。それ以来お芝居の現場ではご一緒したことがなかったので、今回の完成作を観た時に僕は、キョンキョンとのシーンで涙が出てきてしまって。本番でも、ものすごく緊張してドキドキしていたのが自分でもわかりました。私もプロだから、その緊張は見えないようにしましたけれど!(笑)」とあふれる思いを吐露。
役者業のスタート地点で背中を押してくれた存在と、再び芝居をすることができた。草なぎは「ご褒美や宝物をいただいたよう」としみじみ。「小泉さんのように、僕も役者をやり続けていなければこういった巡り合わせはないわけで。そういった意味でも、本作は僕の集大成であり、代表作。ひとつの終着点とも言えるかもしれませんし、またここから新たなスタートを切れるのではないかと思っています。本作には、格之進だけではなく、僕の人生も詰まっている。役と共に旅をしてきて、ここに辿り着いた気がしています」とこれまでの道のりに思いを馳せ、晴れやかな表情を浮かべる。
◆これから10年の抱負は?「吾郎さんと慎吾ちゃんの間に挟まれているから、もっと輝いちゃう!」
清廉潔白を重んじる格之進の生き様には、美学を感じる。「また新たなスタートを切れる」と話した草なぎは、これからどのような生き方を目指したいだろうか。すると「真面目さの中に、いい意味での適当さと遊び心を持って、肩の力を抜いて生きていきたい」と楽しそうに微笑み、「不真面目なのはダメ。僕の周りに不真面目な人はいませんから。時間をしっかりと守ったり、真面目に誠実に打ち込みながらも、どうやって日々を楽しんでいくか。それが僕にとって、ここ10年のテーマや醍醐味になってくると思います」と力強く語る。
格之進の人生をつづる本作からも、誠実さには周囲の人々の心を動かす力があることがひしひしと伝わる。「僕にもつかこうへいさんや、高倉健さん、大杉漣さんなど、影響を与えてくれたなと感じる恩師の方がたくさんいます」と草なぎ。「今日だって家からここまで来る間に、いろいろと学ぶことや、『あの人みたいなことはしたくないな』と思うことだってある。毎日の積み重ねや日常を過ごすことが、役作りにもつながっていると思う」と続けつつ、『新しい地図』を一緒に立ち上げた稲垣吾郎と香取慎吾からも「いつも刺激をもらっている」と話す。
「彼らは本当に刺激的なんです。少し前に北海道でファンミーティングをやらせていただいて、おかげさまでとても楽しい日々を過ごさせていただきました。みんなでお寿司を食べに行ったんですが、『吾郎さん、こはだとか好きなんだ。意外と光物に行くんだな』、『慎吾ちゃん、煮魚が好きなんだ。器用に骨を取るんだな』とか、またいろいろな発見があって! 何年経っても『どういう人なのかな?』『何を考えているんだろう』とどこかミステリアスで、表現者としても人間としても、底知れぬ魅力がある。絶対に知り尽くすことはできない」そう。「やっぱり人って、自分と違うから面白いんだと思うんです。同じ人間だったら、つまらないよね。それぞれに個性があって、みんなが違うからこそいい。慎吾ちゃんと吾郎さんを見ているとそれぞれの魅力があるので、『僕はこれでいいんだ』『自信を持っていいんだ』と思える」と告白。
頼もしい仲間と一緒に年齢を重ねていけることを喜び、「慎吾ちゃんと吾郎さんの間に挟まれているなんて、おいしい位置ですよね。これから僕、素敵に輝いちゃうと思う!」と未来を見つめて目を輝かせた草なぎ。誰よりも楽しそうに、ユーモアを交えて応える姿に、インタビュー部屋は終始、大盛り上がり。軽やかでありながら、確かな足取りで歩く草なぎ剛の今後に、胸が踊るような気持ちがした。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
映画『碁盤斬り』は、5月17日より全国公開。
草なぎ剛、代表作を生み出し続けている現在地に「プレッシャーはない」
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