「アイドルを推すとこんなことがあるんだ」つづ井が地球のお魚ぽんちゃんと語り合った“かなりの大事件”
CREA WEB6/7(土)11:00
2025年4月5日土曜日、東京・青山ブックセンター本店にて『とびだせ!つづ井さん』2巻発売を記念したイベントが開催された。トークゲストは『霧尾ファンクラブ』の作者・地球のお魚ぽんちゃんさん。
つづ井さんの『とびだせ!つづ井さん』は「生きてるだけで楽しい〜!」日常コメディ。一方地球のお魚ぽんちゃんさんの『霧尾ファンクラブ』は、女子高生2人の恋心と友情を描きつつも、ユルさと緊迫感、ギャグとせつなさを兼ね備えた稀有な作品だ。地球のお魚ぽんちゃんさんとつづ井さんとの顔合わせは意外なような納得のような? コミックエッセイ作家とフィクション漫画作家のふたり、いったいどんな雰囲気のトークが展開されるのか。

そしていよいよ期待がふくらむ満席の会場に、垂れ耳のかわいい犬の着ぐるみ姿のつづ井さんが登場。その手を取りながらステージ上にいざなうのは地球のお魚ぽんちゃんさんだ。仲のよさそうな2人の姿に思わず目じりが下がる。ゆっくりと歩を進める2人に、ギャラリーからの長い長い拍手が鳴り続けた。
もともとは互いの作品のファンであったという2人。今では2人で花見に行ったりするほど仲よしなのだが、そんなときは照れもあってか漫画の話はしないそう。このイベントでは波長の合う友だち同士としてのおしゃべり、またリスペクトしあう同業者としての思いをたっぷり聞かせてくれた。1時間にわたるトークから、ハイライトシーンをご紹介しよう。
『とびだせ!つづ井さん2』のココが熱い!
イベント冒頭では、地球のお魚ぽんちゃんさんが『とびだせ!つづ井さん2』でもっとも印象に残ったエピソードを発表!
地球のお魚ぽんちゃん つづ井さんが人気男性アイドルグループの動画を流し見していて、突然メンバーのAくん(仮名)に心を奪われた、「“推し”誕生の予感」のエピソードです。これ、『つづ井さん』史上、かなりの大事件では。どんな気持ちで描いていましたか?

つづ井 これを描いているときもまだ混乱の渦中で。自分の中でもその感情の正体を咀嚼できていない感じでしたね。今も、いろんなことに驚く日々が続いてます。「アイドルを推すとこんなことがあるんだ」って。ずっと情報量の少ない俳優さんが「推し」だったのでギャップがすごくて。たとえばCDひとつとっても通常盤A、通常盤B、限定盤Aとか……いろいろあって、発売日にバージョン違いの同じCDが家に5枚届くわけですよ。「私、同じCD5枚買ってる!」って、笑っちゃうみたいな。
ぽんちゃん いっしょにお花見に行ったときにも、推しの話をいろいろ聞かせてもらいましたけど。アイドルを推す中でも、つづ井さんらしい視点がいっぱいあってホントに楽しいし尊敬しちゃうんですよ。「Aくんの映像を観るときは必ず運動をする」とか。
つづ井 あまりにも情報量が多いから、思うがままに摂取してしまうと供給過多で飽和してしまいそうで。刺激に慣れちゃいたくないなと思って。Aくんの姿を大事にかみしめるために、Aくんが汗を流すときは私も汗を流すと決めて。ライブ映像を観ながら筋トレすることにしたんですよ。
ぽんちゃん めちゃくちゃポジティブだと思う。Aくんを観ることに慣れてしまわないためにあらかじめ手を打つって、めちゃくちゃ前向きでいいなぁと思います。つづ井さんの性質が現れてるエピソードだなぁと。考え方や創造性がナナメ上でおもしろいなぁと。

つづ井 うれしいです。筋トレ、いっしょにやりませんか?
ぽんちゃん 私は運動をしたことがないから無理です! でも……つづ井さんは私の「推し」みたいなものだから。こういうのはどうでしょう。私は「つづ井さんがAくんを見ながら筋トレする姿」を見ながら筋トレするとか。「つづ井さんががんばってるから私もがんばろう」みたいになれるかも?
作品がドラマ化されるって、どんな気持ち?

2024年10月に『つづ井さん』がドラマ化。そして、まさにこの4月から『霧尾ファンクラブ』のドラマが放送スタートしたばかり。自分の作品がドラマ化されることについての想いとは?
ぽんちゃん 最初に実写ドラマ化のお話が来たときの心境ってどうでした?
つづ井 私の場合、自分の経験をデフォルメして絵日記にしてるわけじゃないですか。それをさらにデフォルメして3次元に落としこむことになるんですよね。自分の日常に、ほかの人の解釈が入るわけですよね。最初はそれが理解不可能で。
ぽんちゃん 混乱しますよね。

つづ井 それで、過去にはオファーをお断りしたことがあったんです。でも、今回お話をいただいたときはおまかせしても大丈夫なような気がして。大人になったのかもしれないし、作品を長く描いてきたことでちょっとしたことでは揺るがないという自信がついたのかもしれない。今ならドラマ化を楽しめるなと思ってお受けしたんです。
ぽんちゃん 大正解ですよ。めちゃくちゃおもしろかったし、みんなかわいかった!
つづ井 ありがとうございます。『霧尾ファンクラブ』もこの水曜からスタートしましたね。もちろん見ました〜!
ぽんちゃん ありがとうございます。『霧尾ファンクラブ』はまたドラマ化するにはちょっとやっかいな作品で。なにしろ原作では霧尾くんという男の子の顔が出てきません。前髪で顔が隠れていたり後ろ姿だったり。ドラマの制作にあたる方々はそういう原作の設定を尊重してくださり、役者さんも自分が顔を見せない役を演じる意味を考えながら引き受けてくださって。第1話を見て、客観的に「いい作品だなぁ」と思うことができました。すごく幸せなドラマ化だと思います。生身の人間が演じることで、原作のキャラクターとはまた違う新たな魅力が見えてくるのもおもしろいですね。
つづ井 ぽんちゃんはオリジナル、私の場合はエッセイという違いはあるけど、お互いに「ギャグ」というジャンルなわけで。当初は漫画のギャグを生身の人間がやることにギャップがあるんじゃないかと思ってたんです。それが全然大丈夫で……。『霧尾ファンクラブ』もドラマもすごくいいですよね。これから毎週楽しみです。
ギャグ漫画家として、お互いの作品をどう思う?

フィクション、コミックエッセイの違いはあれど「ギャグ」を本領とするお二方。ちょっとマジメにギャグ漫画について語ってみると……。
ぽんちゃん 私が漫画を描き始めたころ、つづ井さんがネットで作品を発表し始めていて。つづ井さんのことは、勝手に同期みたいに思っていたんです。初期から今までリアルタイムで作品を読んできて感じるのは、つづ井さんってすごく芯がある人なんだなと。おもしろさの軸はしっかりとあるのに、人としてすごく柔軟。人間だから考え方が変わることもあるけど、それを作品に落としこんでいて。それでおもしろさが持続しているのがすごい。読者としても作家仲間としても尊敬しているところです。なんて……遊んでるときってこういう話しないから照れちゃいますね。

つづ井 この間もいっしょにご飯食べたのに、2時間くらい角刈りの話しかしなかったもんね。このイベントの相談とかしたかったのに(笑)。
ぽんちゃん そうそう。こういう機会でもないとなかなか話せないですよね。自分も作家として描いてる中で「おもしろさ」のチューニングのしかたについては考えるところで。『つづ井さん』は、人生をともにしたい作品なので、できる限り長く描き続けてほしいです。
つづ井 「おもしろい」と思うことと、「これは笑えないぞ」と思うことのラインが近いから、お互いの作品を楽しみつつ友人としても仲よくしていただけてるのかな。チューニングが難しい中、うちらがんばってるよね……なんて思ったりして。でも、フィクションでギャグ漫画を描くってすごいハードル高くないですか? 「今からおもしろいことを描きまーす」「嘘のおもしろい話をしまーす」って宣言して発表するわけですから。
ぽんちゃん 「嘘のおもしろい話」っていい表現ですね(笑)。
つづ井 私の場合は「おもしろいと思うかはみなさん次第ですが、本当にあったことなので」っていう逃げ道がある。ギャグ漫画家って覚悟が必要ですよね。フィクションでそれをやるの、すごいと思ってますよ。
ぽんちゃん うれしい〜。ほんとに同時代を過ごしながら背中を追いかけてきたつづ井さんに、そう言ってもらえて……こんなふうに話せること自体、幸せです!
つづ井(つづい)
元気で楽しそうな姿が評判を呼んでいる。2014年10月からTwitter(現・X)で公開を始めた絵日記が話題を集める。2017年、デビュー作『腐女子のつづ井さん』が「第20回文化庁メディア芸術祭」推薦作品に選出。2019年『裸一貫!つづ井さん』が「第3回マンガ新聞大賞」大賞受賞。
X @wacchoichoi
地球のお魚ぽんちゃん(ちきゅうのおさかなぽんちゃん)
ギャグ漫画家。東京都出身。代表作に『霧尾ファンクラブ』、『サボり先輩』など。『霧尾ファンクラブ』は、スピンオフ5篇と豪華執筆陣によるアンソロジーを収録したスペシャルコミックスが好評発売中。
X @bakanoakachan
文=粟生こずえ
撮影=山元茂樹










