周知のとおり、日本にはたくさんの言葉が外国から入っています。漢字以外の言葉はカタカナという便利な表音文字を使って、現地の読み方に近い表記をします。

アルファベットで綴られる言葉というと、どうしても英語と思いがちですが、実は日本で浸透しているカタカナの言葉は英語圏から来たものだけではありません。

たとえば、パン。日本語のパンは、ポルトガル語のパンに由来。英語でブレッドです。ルッコラも英語だとロケット、ローリエはローレル(ベイリーフが主流ではありますが)。

これらの言葉は、これって英語だったっけ?と立ち止まってな気がしなくもないのですが、意外な落とし穴が“栗”ではないでしょうか。

というのも、「栗ってマロンじゃないの?」という反応をする人が、私の周囲に多いんです。「マロンはフランス語ですよ、英語じゃないですよ」と言うと、しばし考え込むことに。

確かに、とっさに「栗は英語で何と言う?」と聞かれたら、戸惑ってしまうかもしれませんね。

それほど、マロンという言葉は日本で浸透しています。

英語で栗はマロンじゃない!

では、英語で栗は?

答えは、チェスナット(chestnut)です。

インテリアに詳しい方は木材として聞き覚えがあるかもしれません。そう、チェスナットが英語で栗なのです。

日本でメジャーなケーキのモンブランや栗のクリームを使ったお菓子は、イギリスでは滅多に見かけません。
ですので、イギリスでは栗を料理やお菓子に頻繁に使う印象はないのですが、焼き栗にして食べたりはします。家でオーブンで焼いたり、街中では屋台が出たりもします。スープの材料に使ったり、クリスマスのローストに詰めたりすることもあります。

日本とイギリスの栗は違う

イギリスの栗は日本のものより小ぶり。 日本だと、手軽な方法としては茹でて食べることが多いと思いますが、イギリスだと焼く。

その理由は、イギリスの栗は日本のものよりも水分含有量が多く、茹でるのに向いていないのだとか。

そして、なるほど!と納得したのは、焼いた栗は、確かにナッツ(ナッツはナットの複数形)の風味がちゃんとあるのです。

ナッツの仲間だからチェスナットなんだなぁ、と妙に納得したのでした。

日本の栗は夏の終わりから秋に出回りますが、イギリスの栗はもう少し季節が後。秋から初冬といったところで、クリスマスのローストの詰め物に使われるのも、旬の素材だからという側面もあるのでは、思われます。

言葉が変われば、受ける印象も異なる

抽象的な言葉になればなるほど、ヨーロッパの言語は似ているのですが、直接その言葉を指す物質名詞だと、英語とフランス語やスペイン語ではまったく違うものが少なくありません。

今回取り上げた、栗を意味する、チェスナット/chestnut(英)、マロン/marron(仏)もそうですし、私が個人的にどの国の言葉を使うかによって印象ががらりと変わるなあと思っているのが、ラズベリー/raspberry(英)、フランボワーズ/framboise(仏)です。

ラズベリーと聞くと、私の場合、野生に実をつけているイメージなのですが、フランボワーズときくと、果実そのものが画像として頭の中に浮かんできます。

同じものでありながら、受けるイメージが明らかに異なります。

栗もマロンだと食べ物(特に甘いもの)、チェスナットだと木を思い浮かべるから、なかなか栗の英語がすっと出てこないのかもしれませんね。


文=羽根則子
イギリスの食研究家&フードダイレクター/編集者/ライター。出版編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、2000年渡英。2007年英国クッカリーコース修了。菓子をはじめ、ワインや料理、フードビジネスなど、伝統から最新のフードシーンまで、イギリスの食事情についての企画、監修、寄稿、情報提供、講座・イベント講師を務める。