フランス料理の技法を使って存在しない料理を創り出す

TAKUMI 大槻卓伺さん

2017年2月、西麻布にオープンした「Takumi」。オーナーシェフの大槻卓伺さんは、料理人として異例の経歴を持つ。「神戸大学経営学部卒」「日本のレストランでの就労経験なし」「フランスの三ツ星・二ツ星5店で3年3カ月修業」「帰国後、28歳で独立」――。シェフとして独自の歩みをしてきた大槻さんは、なぜ東京に店を開いたのか。

「賛否両論」の「賛」のお客様に向けて料理を作りたい

「実は、フランス料理や、フランス料理のシェフに憧れて料理を始めたわけではないんです」と大槻さんは、申し訳なさそうに話す。子どもの頃から料理好き。作った料理を家族においしいと言ってもらいたい。それなら、手間をかけて作るフランス料理がいいと思い、独学で学び始めた。

大学在学中に750万円を貯め、フランスに渡ったのも、有名店で働くためでも、有名シェフのキュイソン(火入れ)を学ぶためでもない。自分に足りないものを得るために渡仏した。だから「フランス料理の店なのか?」と問われると返答に困る。「もちろん、フランス料理の技法をもとにしていますが、表現したいのは、あくまで自分の料理です。すでに存在するものではありません」「自分の料理」とは「足し算の料理」。例えば、大槻さんのスペシャリテに、コースのメインで出す肉料理の「ハンバーグ」がある。仔牛や仔羊などでも作るが、今回は作ったのは「鴨のハンバーグ」。フレッシュなアイガモのミンチに、旨味を加えるために1週間熟成させたアイガモと、血のニュアンスを加えるためのハトのミンチを混ぜ込む。ハンバーグの上に乗せたフワフワの「フォワグラのかぶら蒸し」との味と食感のコントラストでナルホドと唸らせる。

ハンバーグの火入れは、スチームコンベクションオーブンで。芯温計を差し、中心温度が58℃になるように、100℃の低温でゆっくりと火を入れていく。

他にも、牛や羊の肩やモモの筋肉質の部位を使うが、こねると生地がプリンプリンに硬くなる。そこで、コックリ感や口の中でホロホロとほどけるような心地よい食感を作り出すためにゼラチンを加える。ナチュラル志向の現代料理では不要な足し算とみられそうだが、肉々しさもありながら食感は新鮮だ。

「僕の料理は、賛否が分かれると思います。それなら『賛』のお客様に向けて料理を作りたい。そう考えるとゲストの絶対数が多い場所に店を出すのがいい」というのが、大槻さんが東京に店を出した理由だ。

情報が溢れ、多くのことがボーダレスになった現代。料理界もジャンルの垣根がなくなり、イノベイティヴな時代になった。生まれながらにジャンルの垣根を持たない〝個の料理人〞の時代になるのだろうか。「半分はその通りで、半分は違うと思います。個性や独創というものは、圧倒的な基礎の上にあります。そして、過去の組み合わせからしか、新しいものは生み出されません。大勢から抜け出すために、僕は万人受けしない料理で挑戦するのです」

それでも、「Takumi」をフランス料理店と呼びたいのは、新しいものを生み出そうとする気高い精神があるからだ。その精神こそが、フランス料理の根源ではないだろうか。

料理に添えられるメッセージカードとスパイスの小瓶
「Takumi」のテーブルに着いて始めに置かれる1枚のカード。そこには、大槻さんのメッセージが添えられている。「Takumiのコンセプト。『それは組合せの妙を正確に理解し、楽しめるレストラン』」と。それから始まる料理全てに、食材やその組み合せの意図などを書いたカードと、料理に使ったスパイスを入れた小瓶が用意され、読んで嗅いでから料理が運ばれてくる。「すべての料理を理論的に構成しています。それをできるだけ正確に伝えたいんです」と大槻さん。わずらわしさを感じる人、新しい体験と楽しむ人。まさに、賛否両論だ。写真は「鴨のハンバーグ」のカード。

Takumi Otsuki
1988年、大阪府出身。神戸大学経営学部卒業後、渡仏。リヨン「ラロトンド」を皮切りに、サン=テティエンヌ「ルヌヴィエンヌアール」、トゥールーズ「ランフィトリオン」(以上、二ツ星)、ニース「ルプティニース」(三ツ星)、パリ「ジャンフランソワ・ピエージュ」(二ツ星)で修業し、2015年に帰国。17年3月に「Takumi」で独立。

江六前一郎=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国277号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は277号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。