僕の表現の根幹に中国料理という履歴がある

[京都・富小路二条] MOTOÏ 前田元さん

前田元さんは、小学生時代にはじめてフランス料理を知り、将来はフランス料理店を開くと決めた。勤め先のホテルで中国料理部門への異動の話がきたときも、その意志は揺るがず、むしろポジティブに捉えた。「中華包丁って楽しいなあ、とか前向きでしたよ。中国料理は面白いし、いろんなことを教われたので苦痛ではなかったです。それよりも未知の技術に興味が湧いたんです」

フランス料理では知りえない技を知る度に「いつかこの技を活かそう」と考え、積極的に習得したのだ。前田さんは10年ほど中国料理の世界に身を置き、腕と知識を磨いた。

そして今、前田さんは中国料理の技術を用いて、自身の集大成ともいえる独創的なフランス料理を作る。「やってきたことすべてが僕の履歴。自分にしかできない表現がしたい。それはこれからも変わるでしょうが、ひと皿ひと皿が履歴書なんです」

呉服店の主人の自宅を改装した店構えと、丹精された庭園が印象的。広いエントランスから続く廊下には大きなワインセラーがあり、グランメゾンらしい優雅な空気が流れる。

高い技術を要する点心にトリュフを加えてアレンジ

青々とした野草の上に乗っているのは「トリュフのコロッケ」。レースのように繊細な衣が目を引くが、これは中国語では〝蜂巣〞と呼ばれる、ハチの巣状に網ができる点心生地だ。芋のピュレ、浮き粉、片栗粉、ラードを練り上げて層を作り、揚げると油脂が溶けて穴が開く。要するにパイ生地の理論だが、透けるほど薄く細かく、はかない網目と食感は独特のものだ。揚げ方にもコツがあり、前田さんによると温度は「175度がベスト。それより数度でも低いとドロドロに溶けてしまい、高いとうまく散らずに団子状に固まってしまう」という。そのうえ、ゆっくり上下に動かしながら、まんべんなく油に触れさせる必要があり、非常に高い技術が必要な料理なのだ。

前田さんはこれをフランス料理にアレンジ。ラードではなくバターをたっぷり練り込み、そのぶん、中のベシャメルは生クリームとコーンスターチのみで繋いだ。刻んだトリュフをふんだんに混ぜ、シャクッと噛むと、トリュフの香りのクリームがとろりと舌に流れ出す。繊細な衣を傷めないよう、ソースは用いない。

周りを取り囲む野草は、カラスノエンドウの若芽と天然のクレソン。すべて前田さんが摘んだものだ「。霜が降りる時期なので、色が濃いでしょう。水が冷たいから香りも強いんですよ。フランスのハーブみたいに」と言う。

「ツクシなんかを見つけると『お客さまに喜んでもらえるかな』と思って嬉しくなります。僕にできることはこれぐらいだから」

前田さんにとっては中国料理にもフランス料理にも垣根はない。自ら食材を取りに走る〝馳走〞を体現し、内から湧くイメージを皿に表現する、どこにもないグランメゾンである。

トリュフのコロッケと野草のサラダ
黒トリュフ入りのベシャメルを点心の "蜂巣"で包み、丁寧に揚げたフランス風コロッケ。生地にはラードの代わりにバターを使った。野草の苦味が、揚げ物をすっきりと食べさせてくれる。

Motoi Maeda
1976年京都府生まれ。「リーガロイヤル京都」の中国料理部門を経てフレンチに転身。渡仏して1年修業を積む。帰国後はホテルオークラ京都「ピトレスク」、大阪「HAJIME」などで経験を重ねる。2012年「MOTOI」を開店。

藤田アキ=取材、文 川瀬典子=撮影

本記事は雑誌料理王国273号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は273号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。