「最高の料理は、バランス」。我々はアジアにある知識と知恵を守ることが重要です。

「アジアのベストレストラン50 2017」で2位になったアジアのトップシェフ

アンドレ・チャンさん

シンガポールの二ツ星「レストラン・アンドレ」のオーナーシェフ、アンドレ・チャンさんは、1976年に台湾で生まれた。今年41歳。台北に、ビストロノミー・スタイルの「RAW(ロウ)」も持っている。
2月に発表された「アジアのベストレストラン50」では、「レストラン・アンドレ」が自己最高の2位を獲得。
アジアのみならず、世界中に影響力を持つシェフのひとりだ。

2016年12月19、20日の2日間、フロリレージュとRAWのコラボレーションイベントが行われた。

2016年12月、2つ下の同世代のシェフ、川手寛康さん(「フロリレージュ」)とのコラボレーションのため、RAWのスタッフを連れて来日したアンドレさんに、アジアの料理界の展望を聞いた。

アジアにある二十四節気の知恵が多くの問題を解決すると思う

──川手さんとのコラボレーションは2度目ですね。


最初は、川手さんたちがRAWに来てくれて、一緒に仕事をしました。
じつは、日本のシェフが海外で最初にコラボレーションをする相手が私
になることが多いんですよ。例えば、「龍吟」の山本征治さんや「カンテ
サンス」の岸田周三さんなども。みんなアグレッシブなシェフたちです。

──川手さんには、アンドレさんの方から声をかけられた?

友人として、先輩として、川手さんには、世界で仕事をしてほしいとを無駄にしない」「伝統を重んじる」こと。そして、もっと大きなビジョンとして「地球の環境を守る」こと。
そのためには、アジアにある知識を守ることが重要だと思っています。

例えば、私の故郷の台湾には、1年を24の季節に分けた暦こよみ、二十四節気があります。中国でできたこの暦は、日本や韓国など東アジアにも広がりました。それは、旬の作物を尊び、衣服や家の設しつらえも変えていく総合的な暦ですが、驚くほど速いスピードで変わっていく時代にあって、私たちの世代でこの暦に沿って生活している台湾の人は、ほとんどいません。しかし、この暦を守り、
暦に沿って生活できたら、世界は変わるのではないかと思っています。

フランスやスペイン、北欧やラテンアメリカなど、世界の食の潮流を生み出す国と地域はシェフ同士が同じビジョンを持って仕事をしている。


──どう変わっていくのですか?


例えば、地元の旬の食べ物を食べるので、その時季にないものを無理に食べなくなります。食材の廃棄も減り、山や海の生態系が元に戻っていく。世界の半分の人口が二十四節気に沿って生活したら、現在の多くの問題を解決することができ、とてもバランスの良い、すばらしい世界になると思いませんか?

台湾の食材をフランス料理の技法を使って調理しながらも、形式に縛られず、
新鮮、自然、カジュアルをコンセプトに、自然派のワインとともに提供する。

料理とは何か。創造とは何か。このことをすべての料理人に問いたい。

前の世代を知ることで自分たちの世代がはっきり見える

──故郷の台湾にRAWをオープンされて2年が過ぎました。


RAWは、台湾の食の歴史、自分たち以前の世代の記憶、文化、言葉を保存するためのレストランです。
それは同時に、自分たちの世代の輪郭を鮮明にすることでもあります。
二十四節気に沿って、台湾の旬の食材を選び、フランス料理をベースにして、できるだけカジュアルで自然な料理をお出ししています。 

──RAWは、アンドレさんとアランさん、ゾアさんでメニューを決めている。とてもユニークですね。

アランは、私と同じ台湾出身で、台湾の旬の食材と、その時季に食される伝統料理のことをよく知っています。私は、彼を「ザ・ハンズ」と呼び、尊敬しています。


マレーシア生まれのゾアは「ザ・ブレーン」、RAWの頭脳です。ゾアは、学校を卒業してすぐ私の下で働き始めました。スペインの「ディベルショ」や「エル・セジェール・ デ・カン・ロカ」(現在ともに三ツ星)で働いていたこともあり国際経験豊か。レストラン・アンドレを含め、現在、私のチームのなかで、もっともクリエイティブなシェフです。


──具体的に、どのようにメニューを考え出しているのですか?


ゾアは、私との普段の会話のなかから見つけ出したキーワードについて、アランに話を聞いています。例えば、「子どもころ、大好きだったアイスキャンディがあって」という話を私がすると、そのキャンディについてゾアは、どんな形で、何が入っていて、どの季節に食べていたのかを、アランから教わるのです。そこ
からゾアが練ったアイディアを、私が聞いて指示し、再度ゾアはアランと検討してメニューを決めます。


──3人が納得しないとメニューにならない。大変なことですね。


良い部分も多くありますよ。例えば、私とアランだけなら、台湾の人にしかわからない表現になってしまうこともある。それが、ゾアを介することで、世界的な視点が加わる。
3人は違う人間です。お互い足りないところがあり、補っていく必要がある。違った視点で物事を見るのは、とても重要なことです。

メニューの組み合わせ、アイディアなどを担当するゾアさん。1986年生まれでまだ若いが、重要なポストを担っている。
台湾の食をよく知るアランさん。
1982年生まれ。

「創造」とは名誉や流行ではなくより良い解決法のこと

フロリレージュでのイベントで、2店のスタッフと。アンドレさんの左が川手さん。
「私たち以前の世代には、台湾に対して明確な定義がありました。しかし今の世代には、それがない。RAWを通じて、台湾の今の世代を国際的な定義のなかではっきりさせていきたい」とアンドレさん。RAWのスタッフは、20代がほとんどで、若く活気のあるチームである。

──実際の料理が完成するプロセスでは、何を重視していますか?


私たちは、「オクタフィロソフィー」という考え方を持っています。それは、「八角形の哲学」といえるものです。素材そのものの味を活かす「ピュア」、素材がもつ天然の塩味「ソルト」、生産者への敬意「アルチザン」、私が修業した南フランスのイメージ「サウス」、食感の「テクスチャー」、素材の個性的な組み合わせ「ユニーク」、過去の記憶を呼び起こす「メモリー」、そして「テロワール」。

私たちは、常にこの8つの哲学から成る正八角形をイメージし、その八角形の中心点と角を結んだ直線を10分割して、各要素のダイアグラムによって料理を数値化していきます。例えば最初のひと皿は、ピュアとサウスが8で、ユニークが4。次の皿はメモリーが8で、テクスチャーが6、ソルトが2、というように料
理の輪郭を作っていく。そして最終的にコース8皿の輪郭を重ねると、きれいな八角形になる。メニュー構成の完成度を高めることができます。

──数値マニアと呼ばれるアンドレさんらしい考え方ですね。


多くのシェフは、料理をクリエイトすることに注力しているように見えます。でも、コースを食べ終わったとき、すべてが調和した料理になっているかと、自分の料理を分析することが重要です。「最高の料理は、バランス」と、私は信じています。


──最後に、日本の若いシェフたちにメッセージをいただけますか。


「あなたにとって一番重要なことは何ですか?」と、逆に問いかけたい。
あなたは何者なのか、何を伝えたいのか。あなたにとって重要なことを見つけること。それが、クリエイションの際に重要な要素になる。そして、料理とは何か、創造とは何かを、いつも自分に問いかけ続けてください。その2つを知ることが、新しい世界を創る源になります。


──料理と創造とは?


料理は、歴史と人文(人間が創り上げた文化)の結晶です。そして、創造は、もっと良い解決法のこと。野ざらしの庭に屋根を付ける、これも創造。名誉や流行、トレンドを重視することではありません。良い解決法には価値がある。とてもシンプルなことです。


──イベント前のお忙しい中、ありがとうございました。

André Chiang
1976年、台湾生まれ。15歳で単身渡仏。モンペリエ「ジャルダン・デ・サンス」、ロアンヌ「トロワグロ」で研鑽を積む。その後、パリ「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」、バルザック「ピエール・ガニェール」、パリ「アストランス」を経て、2008年にシンガポールへ。
「ジャーン・パー・アンドレ」の後、10年に「レストラン・アンドレ」を開いた。14年には台湾に「RAW」オープン。


RAW
ロウ
台北市樂群三路301 號
☎+886 (0)2 8501 5800
● 11:30〜14:30、18:00〜22:00
● 月・火休
●コ ース NT$1850〜
● 66席
www.raw.com.tw

江六前一郎=取材、構成 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国273号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は273号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。