よい意味で別々、姉妹店で差をつけるおもしろさ

系列店のことを指す「姉妹店」。
チェーン店とは異なる、経営の切磋琢磨がそこにはあった。
「姉妹店」であることのメリット、その経営の実際を知るべく、
ふたつの人気店に話を聞いた。

ファロ 樫村仁尊 さん

姉妹店といってもそっくりなわけではない

季節限定で提供をしているというカツオのたたき。炭だと火が立たず、本来のカツオのたたきにはならないのだという。炎が立つと、広島産の藁の香りが、店内に広がった。

東京・代官山の一角、階段を降りてドアを開けると、炭火のスモーキーな香りが漂う。「ファロ」は、イタリア語で焚き火という意味を持つ。その店名のとおり、まるでバーベキューのようにシンプルに、炭火焼きを楽しむことができる。炭火を囲むように配されたカウンターは、カジュアルな雰囲気だ。

特徴のある天井の形は、洞窟のような雰囲気を醸し出している。中央には明かり取りの天窓があり、優しい光を漏らす。非日常を感じさせるおもしろい造りだ。


炭火の傍らに立つのは、シェフの樫村仁尊さん。長い間、あの名店「アクアパッツァ」の料理長も務めた。
その確かな料理の腕に惚れ、以前の店から引き続き通う客も多い。
「ファロ」は、東京・自由が丘のイタリア料理レストラン「モンド」の姉妹店として、2016年にオープンした。「アクアパッツァ」も「モンド」も、テーブルにはクロスが敷かれ、シェフは白いシェフコートを着てお客さまをもてなす。

厨房をぐるりと囲む白木のカウンター。ダイレクトに炭火の熱気が伝わってくるため、カジュアルだがライブ感がある。お客さまとコミュニケーションがとれるのも魅力。

一方、樫村さんはタオルをハチマキにして、半袖Tシャツにエプロン姿だ。
「姉妹店とはいっても、そっくりというわけではありません。宮木シェフの『モンド』は同じ会社の系列店ですが、わざと単価や店の雰囲気をガラリと変えて差別化しています。そのほうが、違いがあっておもしろい」 しかし、それまで働いていた「リストランテ」とはまったく違う店をやることには、苦労もあったという。

藁であぶったカツオのたたきは、客からの注文を受けてからあぶり始める。オニオンスライスとフレッシュトマト、オリーブオイルなどを添えて、イタリアンなひと皿。

会う時には会うけれど、べったりではない。だけど、情報の共有をしたり、お互い頑張れるよい関係。


「料理のベースになることは学んできていたのですが、ぜんぜん違う環境の店を作ってしまったので、わからなさゆえに迷いはたくさんありましたね。おいしいものを作ろうという思いはもちろん同じですが、アプローチがまったく違う。今も、つねに迷い続けているし悩んでいます。

本店がレシピを作って、マニュアル化した形で出すという店もありますが、『モンド』と『ファロ』はいい意味で別々です。経営こそ一緒ですが、僕は、責任を持ってここを任されています」

相談したり、食材などの情報を共有したりということはあっても、つねにべったりなわけではない。
「この店を始めた頃こそ宮木シェフと頻繁に会っていましたが、最近は、会う時には会う、くらいです。本店がメニューや数字を管理して指示を出す方法もありますが、僕たちは店のスタイルも、来るお客さまも違う。だから、数字だけで指示を出されても、現場には響かない。現場に立っている責任者が肌で感じて、きっちり悩んで苦しんでアクションを起こしていかないと、強い、いいお店はで
きないのではないかと思っています」

樫村さんと「モンド」のシェフ、宮木康彦さんは、ともに日髙良実シェフ率いる「アクアパッツァ」出身。
先に宮木さんが独立し、その後も樫村さんは日髙さんの右腕として働いていた。しかし、このまま続けるかを迷っていた時に、宮木さんから声がかかったという。

「モンド」シェフ 宮木康彦さん

モンド」シェフ、宮木康彦さんに聞いた姉妹店のメリットとは?

私はたくさん店舗を展開をしたいのではなく、樫村さんのような技術があって人間性もよい、おもしろい人と一緒に仕事をしたくて声をかけました。姉妹店とはいえお互いに独立した店と考えているので、開店してからもなるべく意見を言わずにいます。メリットは横のつながり。情報交換はもちろんですが、お互いが頑張っていると、やはり刺激になります。


「辞めると決めてからは、準備に1年かけました。自分が抜けることで起きるかもしれないことを想定して、準備期間をしっかりとりたかったんです。お世話になった店にきちんと敬意を払って、筋道を立てて辞めることが、新しい店を開くうえで大事なことでした。物件や技術はもちろん大事ですが、店を長く続けるに
は人。人付き合いなんです。最後には日髙シェフも背中を押してくれて、今もよい関係を続けています」

レストランとはシンプルさの表現が違う。姉妹店と差をつけることがおもしろい

自分の根本にあったシンプルにおいしい料理

塊で焼いたポルケッタ

オープン時から提供している「ファロ」のスペシャリテ。その日においしい豚バラ肉の塊を、炭火でじっくりと焼く。焼いたものを切り分けて提供するため、注文した客のすべてに同じタイミングで出される。理由は「焼きたてがおいしいから」と実にシンプルだ。肉にまぶしたスパイスのマリネには、イタリアの地方性のある独特のスパイスを使っているが、企業秘密なのだそう。

「カジュアルな店をオープンさせるということは決めていました。時代的なものもありましたし、自分の能力や、よいところはどこだろうと考えた時に、バーベキューのような、炭を使ってシンプルに焼く料理のおいしさが自分の根本にあることに気づきました。それで、今の店のスタイルを決めたんです」

姉妹店である「モンド」の料理は、レストランらしい手の込んだ料理。一方、「ファロ」の料理は驚くほど素朴だ。「イタリア料理は素材をシンプルに料理することが多いのですが、『モンド』と『ファロ』では、シンプルさの表現が違うんです」

よい肉を焼くのに、一番おいしく食べられる熱源は炭だから、と炭で焼く。そういった素直な、肩肘張らない料理であることが、姉妹店でありながらもっとも違う点かもしれない。
「この店はオープンキッチンなので、オペレーションも料理もすべて見えています。プレッシャーでもありますが、お客さまの表情がダイレクトに伝わってくるんです。よしあしも、見ればすぐに判断がつく。日々、よい店にするために努めています」

すべてが見えるオープンキッチンで、汗をかき肉を焼く様子を見られるライブ感は、やはり、リストランテにはない。

今後の「ファロ」を、樫村さんはどう考えているのだろうか。
「まだ、店としてはヨチヨチ歩きを始めたばかり。まずはここをしっかり3年、より精度を上げていい店にしていきたい。そこから先は、その時に具体的に見えてくるのかなあと思っています」

Noritaka Kashimura

1974年東京都生まれ。服部栄養専門学校を卒業後「リストランテ アクアパッツァ」に入社。その後、イタリアと都内のレストランでも研鑽を積み、広島の「マンジャペッシェ」のオープンを機に「リストランテ アクアパッツァ」に再入社。5年後には東京・広尾の本店に戻り、

ファロ falò
東京都渋谷区代官山町14-10
LUZ代官山 B1F
☎03-6455-0206
●18:00〜23:30LO(月〜土)
15:00〜21:00LO(日、祝)
●木休
●平均予算6000円(アラカルトのみ)
●30席
https://falo-daikanyama.com

澤 由香=取材、文 小寺 恵=撮影 

本記事は雑誌料理王国280号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は280号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。