「十年一昔」という言葉があるように10年という時間が経てばすべては大きく変わる。飲食業界で10年続けることの厳しさを知らない人はいない。
一方で、10年変わらずトップを走り続ける店もある。〝生き残る〞のではなく〝愛され続ける〞には何が必要か。レストランにおいて「美味しさ」と「お客様の心地よさ」以外に優先すべきものはない。
飯塚隆太シェフが目指すものはいつでも明確だ。

巨匠ジョエル・ロブション氏のもとで研鑽を積んだ飯塚隆太さんがオーナーシェフとして独立した「レストラン リューズ」が今年2月に10周年を迎えた。
腕時計の時を合わせる部品「竜頭」にちなんだ店名には、「時をとらえた旬の料理を提供する」という意味のほかに、「時間を気にせず、束の間の非日常を楽しんでほしい」という思いも込められる。人との食事がさらに特別な時間になった昨今、それは切なる願いのように改めて心に響く。

飯塚シェフに、独立2年目の記事を振り返ってもらった。
「僕たちの仕事は、お客様に料理をおいしく心地よく楽しんでいただくこと。根本的な考えは変わっていません。昨日より今日、今日より明日が成長した日になるよう、目の前のことを確実にやる。変化というよりも〝歴史〞という大きな武器を携えたという感覚はあります。料理人は毎日がお客様との一発勝負。経験値がものを言う。そういう意味では勝負強さが10年前とは格段に違う」

伝統的なフランス料理を軸に、素材を際立たせた軽さとエレガントさを併せ持つ飯塚シェフの料理。以前から日本料理の引き算の考えを取り入れてきたが、よりストレートな表現へ傾倒していると自己分析する。素材と向き合い、よりおいしくなるならば、フレンチらしい複雑味を出すセオリーは省き、迷わずシンプルさを選択するという。「核はフレンチですが、日本人の僕にしか表現できない料理がある。フランス料理としての完成度よりもリューズならではのおいしさを高めていきたい」と独自性を追求するが、その価値はお客様が決めることだと言い切る。「八色椎茸のタルト」はその筆頭だ。自身のレシピではあるが、独立したからにはロブション時代の料理は出すつもりがなかった。

八色椎茸のタルト仕立てラルドの薄いヴェールで覆って
ロブションの料理長時代に考案し、改良を重ねるスペシャリテ。フランス「ミシェル・ブラス」のアミューズで食べたセップ茸のタルトからオマージュ。自家製パイ生地にマッシュルームや干し椎茸のデュクセル、椎茸のステーキを乗せ、ラルドで覆いしっとりと仕上げる。飯塚シェフの出身地でもある新潟県魚沼市で育まれる上質な八色椎茸のおいしさをしみじみと感じる。

しかし、常連客からのリクエストで提供すると大きな反響を呼んだ。そこからブラッシュアップを重ね、今ではリューズを象徴するシグネチャーメニューのひとつとなった。「ベストを尽くし提案はしますが主張はしない。レストランの華はあくまでお客様。媚びるのではなく対峙し、求められる以上の料理とサービスを磨き上げるのが僕らの仕事」 コロナの影響も少なからず受けるが、特別な対策はしないと決めた。

「複雑な世の中だから料理はシンプルなおいしさを目指しています」

未曾有の事態に不安を覚えないわけではない。しかし、それは経営者の自分だけが抱えるべき問題で、スタッフには一切負わせないと明言する。料理とサービスの質を上げれば、減らした席数分の客単価は必ず上がると確信している。「僕は高級食材や豪華な空間ではなく、美味しい料理で満たされる心地よい時間にお金を払っていただきたい。そのためには、お客様に『また来たい』と感じていただくこと。開店当初からそれ以上の目標はありません」

ARCHIVED COLUMN 
「フレンチのロジックさえ外さなければ問題ない」

独立2年目のインタビュー。料理長を務めた「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」を二つ星へ押し上げた経歴などから、それまでもガストロノミー界の注目の的であったが、自身の店も二つ星を獲得し、名実ともに日本を代表する実力派となった飯塚シェフに、修業時代からの軌跡とフランス料理への思いを伺った。伝統抜きにフレンチは語れないと先人の叡智に敬意を払いながらも、新たな理論や合理性に基づく変化も柔軟に取り入れ、独自のひと皿を追求する姿勢を見た。

リューズ
東京都港区六本木4-2-35
アーバンスタイル六本木B1F
TEL 03-5770-4236
12:00〜13:30LO
18:00〜21:00LO
月曜休

text: Yuki Kimishima photo: Yoshiko Yoda