北朝鮮の地方に住む人々は、「トゥエギバッ」と呼ばれる小さな畑を持っている。国の配給システムが崩壊し、自らの力で食べ物を手に入れることを迫られた人々は、自宅の裏庭を畑にしたり、山を切り開いて畑を造成、作物を育てて自宅で消費するようになった。余った農産物は、市場で販売し現金収入となる。

ただ、個人の土地所有を認めていない北朝鮮は、事あるごとにこれらの畑を奪い取ろうとし、トラブルになってきた。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、当局がこれらの土地の調査を行うことについて報じている。

調査に基づいて厳しい措置が取られれば、こうした畑に依存して生きる人々は生計の手段を失いかねない。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の幹部によると、先月30日付けで、「国務委員長命令0017号 土地再調査を行うことについて」という命令書が下された。

金正恩氏の名義で下されたこの命令を受け取った道党(朝鮮労働党咸鏡北道委員会)と道人民委員会(道庁)は、命令執行のために土地調査検閲団を立ち上げ、地域内の機関、国営の工場、企業所、協同農場、個人が事実上所有し、農作業を行っている土地についての調査を始めた。

個人のみならず、機関や企業所も「副業地」などと呼ばれる畑を持っている場合が多いが、情報筋によれば、そこで収穫される作物が幹部や個人の懐に入ってしまうことが問題視されていたという。

「機関や企業所で自主的に開墾し副業基地(畑)を作り、企業所の労働者の福利を増進させる名目で農作業を行っていたが、労働者に与えられるメリットはなく、幹部の私腹を肥やしたり、上級機関へのワイロとして使われたりする問題が現れた」(幹部)

この幹部は、調査担当の幹部から聞いた話として、調査で国に登録されていないことが判明した土地は、すべて協同農場に帰属させる、つまり没収する方針だと述べた。

「最近、全国的に食糧事情が厳しいのに、個人が畑で作った穀物を、国が定めた価格を無視して、高値で売っており、食糧価格の統制がうまくできていない問題が提起され、この対策として国防委員長(金正恩氏)が命令を下したもの」(幹部)

当局は市場に対する統制を強化しようとし、穀物に関しても市場での販売を禁じ、国営の国家食糧販売所での販売に一本化しようとしているが、幹部の説明からは、今回の土地調査と没収も、市場に対する統制強化の延長線上にあることがわかる。

両江道(リャンガンド)の住民情報筋は、「多くの住民が1990年代後半の大飢饉『苦難の行軍』のころに切り開いた個人耕作地を持っているが、今回の調査で奪われる危機に瀕している」と述べた。コロナ鎖国による経済難、食糧難を生き抜くのに欠かせないこれらの土地を奪われてしまえば、「生きていけなくなるのは火を見るよりも明らか」(情報筋)だ。

「例年より苦しい食糧難を経験している人民に、国は何の支援もしないくせに、個人の命綱である土地を土地調査という名目で強圧的に没収しようとする当局の態度に不満が溜まっているが、口には出せずにいる」(両江道住民)

金正恩氏の命令で行われる調査事業だけあり、下手に不満を口にすると酷い目に遭わされかねないため、不満を感じつつも黙っているということだろう。ただ、市場統制計画は撤回を余儀なくされ、国営の穀物販売所もうまくいっていない。朝鮮総督府の土地調査事業とその後の土地没収を彷彿とさせる今回の事業だが、サボタージュなど何らかの形で人々の抵抗に遭うことになるだろう。