北朝鮮の社会安全省(警察庁)は昨年8月、新型コロナウイルスの国内流入を極度に恐れる金正恩総書記の指示に基づき、国境と接する緩衝地帯に無許可で近づく者には、無差別に銃撃を加えるとの布告を出した。

それ以降、国境付近で射殺される人が相次いでいる。そしてまた、尊い人命が失われてしまった。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた事件の概要はこうだ。

事件が起きたのは今月18日。両江道の恵山(ヘサン)で、中国との国境を流れる鴨緑江に入った女性2人が、国境警備隊の兵士に狙撃され、死亡した。射殺されたのは恵山在住のキムさんとハンさん。学校の同級生で、仲が良かったという。

実はこの2人、相当な韓流ファンだった。かなり前から韓流ドラマや映画を見て、韓国社会へのあこがれを抱いていた。しかし、非社会主義、反社会主義現象(風紀の乱れ)の取り締まりの強化で、韓流の視聴はもちろんのこと、韓国風の言葉遣い、ファッション、ヘアスタイルをすることすらご法度になった。ヘタをすれば命すら奪われかねない。

そんな状況に耐えられなくなったのだろうか。2人は脱北することを決心した。

しかし、国境警備隊25旅団3大隊3中隊の兵士は「2人が鴨緑江に入るのを見て、ためらうことなく即時銃撃を加えた」(情報筋)という。2人が、そうしたリスクのあることを知らなかったはずがない。もしかすると、抑圧を加えることしか知らない北朝鮮という国への命がけの抗議だったのかもしれない。

「これは(当局の)弾圧に対する若者たちの抵抗だ」(情報筋)

2人の試みは悲しい結末を迎えたが、コロナ禍で国境警備が強化される中でも、命がけの脱北の試みは相次いで起こり、情報筋によるとその8〜9割が若者だとのことだ。

今回の事件後、国境警備はさらに強化されたが、新しいものに敏感で自由を渇望する若者たちのチャレンジ精神を抑えることはできないだろうと情報筋は述べた。

「人生の花を咲かせる前に、また若者が無残にも殺された。これは兵士に『親兄弟でも国に背けば絶対に許してはならない』という教育を行っている政府に、すべての責任がある」