2011年末に発足した金正恩政権が世界に対して初めて攻勢的な態度を取ったのは、2013年2月に行われた同国3回目の核実験だった。

ただ、金正恩という独裁者の存在をより強烈に印象付けたのは、2014年に発生したソニー・ピクチャーズエンタテインメント(米カリフォルニア州)への大規模なサイバー攻撃だったと言えるだろう。

この事件では、同社の映画作品や財務書類、俳優の個人情報などが盗まれ、さらにコンピュータが破壊されるなどして1500万ドル(約16億円)もの損害が出た。犯人は北朝鮮のハッカー集団だと特定されており、その動機は北朝鮮の最高指導者の暗殺を題材にした映画『ザ・インタビュー』への反発だったとされる。

さらに翌2015年8月、朝鮮半島の非武装地帯で北朝鮮が仕掛けた対人地雷の韓国軍兵士らが身体の一部を吹き飛ばされる重傷を負った。韓国軍はその瞬間の映像を公開し、北朝鮮への敵愾心を高めた。

これを機に南北の対立が激化、一気に軍事的緊張が高まった。一時は一触即発の事態に発展し、「戦争前夜」を思わせる空気さえ流れた。

ただこの緊張が、核実験とサイバー攻撃に続く金正恩政権の「攻勢」によって生まれたと見ることはできない。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は同年4月から、DMZで不審な動きを見せていた。軍事境界線の西部から東部までにわたり、5人〜20人単位で近接偵察と何らかの作業を繰り返していたのだ。

DMZでは近年、北朝鮮の兵士が徒歩で南側に入り、亡命するなどの出来事が相次いでいた。そのため韓国側では当初、北朝鮮が兵士の脱北防止のために地雷を埋設しているものと見ていたフシがある。しかし、自軍兵士が負傷したことにより、事態は一転して南北の対決モードに突入してしまった。

韓国軍が報復措置として、軍事境界線付近での拡声器による心理戦「対北朝鮮拡声器放送」を11年ぶりに再開すると、北朝鮮が「準戦時状態」に突入。南北が砲火を交える事態に発展した。

つまり、対人地雷を仕掛けた北朝鮮側に韓国を攻撃する意図はなく、韓国側も薄々それがわかっていながら、後戻りできなくなってしまったという構図だ。

このとき、ギリギリの対話により軍事衝突は辛くも回避されたが、その過程で、韓国の朴槿恵大統領(当時)は北朝鮮の謝罪を断固要求した。韓国世論も朴大統領の強硬姿勢を後押しした。気圧された北朝鮮は「遺憾の意」の表明――事実上の謝罪をさせられる結果となった。

当時はまだ、核兵器が戦力化されておらず、金正恩氏と北朝鮮の指導部は「いま戦えば負ける」と判断したのだろう。北朝鮮の最高指導者が、韓国に屈服したのはこれが初めてと言えた。本人にとっては「生き恥」だろう。

世界が見守る中で無様な敗北を喫した金正恩氏は、一時的な沈黙を経て、いっそう牙をむき出しにしていく。