人民班とは、北朝鮮の行政の末端組織で、日本語で町内会と訳されるが、その役割は戦時中の隣組や、植民地支配下朝鮮の愛国班と似通っている。

1班は20〜40世帯からなり、すべての住民が参加を強いられ、政府方針を住民一人ひとりに伝え、思想教育を行い、反政府的な言動を監視するなどして、北朝鮮の抑圧体制を末端から支えている。

そのリーダーたる人民班長は、住民の選挙で選ばれるが、徴税や物品の供出、勤労動員を督促して恨まれることもあれば、町内の衛生管理、困窮した人に助けの手を差し伸べありがたがられることもあり、愛憎相半ばする存在だ。

そんな人民班長を積極的に引き受けようとする人が、最近めっきり減ったという。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

かつて人民班長と言えば、末端の行政責任者で名誉ある地位だと考えられており、自ら名乗りを上げる人が少なくなかった。ところが、コロナ鎖国下での深刻な経済難に襲われた今の北朝鮮では、名誉より実利、さらには生き残りが重要視されるようになった。

良い意味でも悪い意味でも住民の生活を見守らなければならない人民班長になると、自分の生活が成り立たなくなるというのだ。上述の通り、人民班長は洞事務所(人民班の上の行政組織)の指示に従い、政府が求める税金や税金外の負担、供出する物品の徴収、データの集計をやらされるが、コロナ鎖国で市場から活気が失われ、生活が苦しくなっているのに、人民班長などやっている暇はないということだ。

それに気づいた北朝鮮当局は、人民班長にインセンティブを与える動きを見せた。一定量の食糧配給と給与を与えるというものだが、期待に沿うほどの量、額とは程遠く、全く効果がないとのことだ。

「人民班長に対する支援は時が経つにつれ減っている。責任ばかり負わされるそんな仕事をやろうという人はこれからも減り続けるだろう」(情報筋)

税金や税金外の負担など、当局の示すノルマが人民班長に課され、それが達成できない場合には責任を問われる。また、町内で重大事件、事故が起きた場合にも、追及を受ける。

それでもかつては、人民班長になろうとする人が必ずいたものだが、国や社会、特定の価値観、制度に縛られるのではなく、個人の生活、実利を重要視する傾向が強まったことも、人民班長のなり手不足の原因だ。

このような考え方の変化は、「チャンマダン(市場)世代」と呼ばれる若者にとどまらず、その上の世代にも広まりつつあるということだろう。人民班の機能不全が、今すぐ体制の存亡に影響を与えることはないが、徐々にヒビが入りつつあることの現れと言うことは可能だろう。