北朝鮮の国営病院内の薬局長として勤務していた女性が、病院に支給された薬を横領、販売し、利益を得ていた容疑で逮捕された。周囲もその犯罪には気づいていたが、何も言い出せなかったという。

現地の病院では一昨年、ある若い女医がが処刑される悲劇的な事件があった。

どうやら問題の根は、この横領事件にあったようだ。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、逮捕されたのは、三池淵(サムジヨン)市病院の薬局長を勤めていた女性だ。女性は、病院が大量に受け取っていた平壌の精誠(チョンソン)製薬総合工場と、ユソン製薬工場で生産された点滴液を横領し、市民や現地に派遣された突撃隊員(半強制の建設ボランティア)に販売していた。

北朝鮮で「革命の聖地」とされる三池淵は、「高原文化都市」に改造するとして、大規模な再開発工事が行われていた。建設に朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の多くの兵士や、突撃隊員を動員する一方で、食糧や生活必需品など必要な物資を供給。市内の医療機関に対しては、優先的に薬品を供給してきた。それでも医薬品の量は需要に満たず、市民の不満が高まっていた。

実は、市党(朝鮮労働党三池淵市委員会)のイルクン(幹部)も、この件は以前から把握していたものの、詳細は不明ながら彼女の夫が高い地位にあり、市の幹部と内通していたことから、手を出せずにいたという。

怒った市民は、市党に通報したところで埒が明かないと、その上の道党(朝鮮労働党両江道委員会)に通報。それでようやく安全局(警察)が動いたという流れだ。

道党が病院に対して検閲(監査)を行った結果、過去2年にわたり、病院、製薬工場ともに薬のやり取りを行ったと帳簿に付け、薬のすべてを女性に渡していたことが明らかになった。要するに薬局長、病院、製薬工場の三者がグルだったということだ。

三池淵の病院では一昨年、緊急搬送されてきた患者に投与する薬がなかったことから、民間療法である農薬の希釈液を投与したものの、分量を間違え患者を死亡させたことで、医師が公開処刑される出来事があった。その手法は、いつもと同じように、見守る人々が目を背ける非常に残虐なものだったという。

しかしその凄惨さゆえに、事件は悲劇的なものとして強い印象を与えてもいる。

そしてその原因は、病院の側にあったということだろう。

現在、薬局長は両江道安全局で取り調べを受けている。病院や製薬工場のイルクンも含めて、重罪判決が予想されている。

こんな犯罪をもみ消すほどの地位にあれば、通常なら裁判官を買収し、ごく軽い刑で済まされるものだが、金正恩氏が重要視している三池淵で、「社会主義保険制度」のイメージに傷をつけるような犯罪を犯したことから、当局も大きな問題と見ており、おそらくワイロは通じないだろう。

このように、国から供給された品物や、国営企業の設備などを横流し、横領、売却する行為は過去30年にわたって広範囲に行われている。今回逮捕された薬局長は、コネの力が足りなかったことと、社会的地位や教育水準の高い市民が多い地域性から、「運悪く」捕まってしまっただけに過ぎない。