北朝鮮の首都・平壌から北に車を1時間も走らせると、車窓から地平線まで続く広大な農地が目に飛び込んでくる。これが、北朝鮮の誇る大穀倉地帯「十二三千里平野」だ。

例年の今頃なら、田植えが終わり、青々とした田園風景が広がっているはずだが、今年はどうも様子が違うようだ。国営メディアは今月10日までに、全国の農場において「基本面積」の田植えが終わったと報じているが、平安南道のデイリーNK内部筋は、全国的に田植えが遅れていると伝えている。

「田植えが全国的に基本面積の6割レベルにも達していない。年間15万トン以上の穀物生産地域である平原(ピョンウォン)、文徳(ムンドク)、粛川(スクチョン)は、今年平安南道で最も遅く田植えが始まった」(情報筋)

ちなみに基本面積とは、農地の全体面積から大麦、小麦、ジャガイモなどを栽培している部分を除いたもので、全体の6割を占める。麦やジャガイモはちょうど収穫期を迎えているため、二毛作の場合、田植えが遅れてしまうことから、このように分けているようだ。

その全体の6割を占める基本面積の、6割しか田植えができていないということは、田植えが全体の3分の1強しかできていないということになる。ちなみに、全体面積の田植え完了は今月末の計画だ。それまでに無理やりにでも終えてしまい、辻褄を合わせようということなのかもしれない。

田植えの遅れの理由として情報筋が挙げたのが、コロナだ。北朝鮮では、都市部の労働者を一斉に動員して農作業を行うが、今年はコロナ対策の移動制限で、動員が思うようにできなかった。機械化が遅れているため、労働力不足は作業の遅れに直結する。

一部地域では、農村への動員をスムーズに行うために移動制限が緩和されたが、その直後に当局が国内での感染者の発生を発表し、制限をそれまで以上に強化したために、動員が進まなかったようだ。

また、深刻な少雨も関係しているようだ。田植え戦闘が始まった日、農場の作業場はもぬけの殻、降水量が少なく溜め池が干上がり、田んぼに水が張れなかったという。

韓国の慶南大学国土衛星情報研究所のチョン・ソンハク副所長は、平安南道の甑山(チュンサン)、平安北道(ピョンアンブクト)の定州(チョンジュ)など全国5ヶ所の溜め池の貯水率平均が、昨年の3分の2レベルの68.1%にとどまっていると、衛星写真の分析で明らかにしている。

田植えが深刻な遅れを見せているのに、当局が国営メディアを通じて「完了宣言」を出した理由は何なのか。北朝鮮の農業に明るい脱北者は次のように説明した。

「経済難とコロナの感染拡大により困難に直面している北朝鮮が、田植えも終えられていないと発表すれば、国内で混乱が起きるかも知れないと懸念したためだろう。北朝鮮国民は、田植えに問題が起きれば秋の収穫にも支障をきたし、食糧需給に問題が起きるかも知れないと考えるだろう」

つまり、民心の動揺を防ぐために、嘘の発表をしたということだ。

この脱北者はまた、計画された日までに田植えを終えられなければ、農業関連の幹部は解任されてしまうため、田植えが終わったと虚偽の報告をすることが日常茶飯事だとも語った。

今年の北朝鮮農業だが、展望は非常に暗い。田植えの遅れや、コロナ鎖国による肥料などの不足だけが原因ではない。上述の通り、深刻な少雨となっているのだ。

ちなみに韓国では、今年上半期の降水量が例年の半分ほどにとどまっているが、現在起きているラニーニャ現象によるものと分析されている。すでに、麦には深刻なダメージが出ている。

また、台風の発生位置が通常時より西側に偏り、朝鮮半島に影響を及ぼすリスクが高くなっている。日本や韓国、中国では軽微な被害で終わる場合でも、防災インフラが整っていない北朝鮮では、深刻な被害が発生するケースもある。

金正恩総書記は、昨年12月の朝鮮労働党中央委員会第8期第4回総会で、農業問題に半分近くの時間を割いて力説したが、現状を見る限りは、今年もまた深刻な不作に陥るかもしれない。